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なし

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幼児化いちごオレ

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幼児化いちごオレ
幼児化いちごオレ 幼児化いちごオレ

リアクション

 騒々しい校舎内を歩きながら、水心子緋雨(すいしんし・ひさめ)はヤチェルを探していた。
 ショートカット同好会の会長はショートカットであるべき、との思いから、ヤチェルに「ショートカットの似合う女の子である」と、自覚させるために蒼空学園を訪れていた。そこで叶月からの連絡が入り、彼女を探している。
 しかし……。
「いないわ、そっちはどう?」
『うむ、それらしい姿は見当たらないのう』
 機械越しにパートナーの天津麻羅(あまつ・まら)が溜め息混じりに言う。
「逃げたっていう話だし、やっぱりどこかに隠れているのかしら?」
 周囲をきょろきょろ見回す緋雨だが、見覚えのある顔はどこにもない。せめて同好会の会員でもいいから会うことが出来れば、ヒントを得られるのだけれど。
「もう少し探してみましょう」
『そうじゃな』
 通信を断って緋雨は小さな子どもが隠れられそうなところを探し始めた。
 机の下、柱の後ろ、カーテンの中……。
「ヤチェルさーん?」
 声をかけてもいない者はいない。
 別の教室を探そうと廊下へ出ると、後方から声がした。
「チェリッシュー!? どこにいるんだー?」
 子どもたちの間を駆け抜けてくる青年。どこの誰かも分からないけれど、彼もまた人探しをしているらしい。
 横を通り過ぎていった彼に負けじと、緋雨は先ほどよりも大きな声を出す。
「ヤチェルさーん!」
 ふと、青年の立ち止まるのが分かった。こちらを振り返った彼と、思いがけず目が合ってしまう。
 緋雨が首を傾げようとすると、青年は再び走り出した。どんどん遠ざかっていき、緋雨の視界から消えていく。
「何だったのかしら? ヤチェルさんの知り合い……?」
 分からなかったが、あまり気にしないことにした。

 一方、麻羅はてくてくと廊下を歩いていた。
「ヤチェルー?」
 声をかけても振り返るものはなく、見つけ出すのは困難かもしれないと思い始める。
 見つけた階段を降りていき、一つ下の階へと降りてみた。
 幼い子どもたちがはしゃぎまわっている。どこか微笑ましくなりながら歩き出すと、突き当たりの廊下を幼い少女たちが駆けて行くのが見えた。一人は白い髪で、茶髪の少女の手を引いて猛ダッシュしている。
「……見覚えがあるような」
 はっとしてすぐに麻羅は二人の後を追いかけた。

「あんまり遠くに行っちゃダメだよ、分かった?」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は目の前の少年へ言いつけた。
 オレンジ色の蘭が描かれた女児用の和服を着ている森乱丸(もり・らんまる)はこくりと頷く。
 いちごオレがどんなものなのか飲んでみたいと乱丸がそれを口にした途端、彼は幼児化して幼い子どもへと変わってしまった。そのショックからか、記憶も不安定だ。
「じゃあ、遊んでおいで」
「うん、おねえちゃん」
 両手で持った鞠をぽんぽんと地面へ打ち、乱丸は無邪気に遊び始める。
 その幼い姿をすぐそばで見守るリアトリスだが、近くには他の遊びをしている子どもたちもいるため心配だった。
「むこうとおるは、おせんじゃなぁいか」
 上手に鞠をつく乱丸。手まり歌を歌う声もあどけなく、とても愛らしい。
「われになんだ――あっ」
 鞠がころころと転がっていってしまった。すぐにリアトリスが取りに行こうとするが、鞠は誰かの足にぶつかって止まった。
 高円寺海(こうえんじ・かい)は足元に転がる鞠を拾い上げ、こちらを見ている乱丸に気がつく。
「おまえのか?」
「っ、うん」
 海は少し腰をかがめ、鞠を軽く放った。
 乱丸の腕にすぽっと収まった鞠と、海の顔を交互に見て、乱丸は言った。
「ありがとう、おにいちゃん」
 そして乱丸はいつの間にかそばに来ていたリアトリスを見上げる。
「偉いね、乱丸。ちゃんとお礼が言えたね」
「うん……っ」
 にこっと笑う少年の頭を軽く撫でて、リアトリスも微笑んだ。

「海くん! こっちですよー」
 と、杜守柚(ともり・ゆず)は手を振った。
 気づいた海が足早にやって来て、空いた席へ腰を下ろした。
「遅くなってすまない」
「いいえ、大丈夫です。いちごオレもちゃんと三つ、買っておきました」
 と、にっこり笑う柚の隣で杜守三月(ともり・みつき)も楽しげにしている。
「早めに買えたからよかったけど、今はもう売り切れみたいだよ」
「へぇ、そんなに人気なのか」
 柚に渡された『メガ印のいちごオレ』を見て、海はそう言った。あまり興味はなかったが、人気商品なら飲まなきゃ損だろう。
「さっそく飲んでみましょう」
 と、柚の言葉を合図にストローをさす一同。
「あっ、おいし……――?」
 身体の異常に気づき、柚ははっと目を見張る。目に映るのは見慣れた自分の手ではなく、明らかにそれより小さな手だ。
 ふと隣を見ると、海もまた10歳程度に縮んでいた。
「か、海くんも!?」
「……小さくなった、みたいだな」
 ストローに口を付ける前だった三月だけが、平然としていた。
「可愛いな、二人とも。弟と妹が出来たみたい」
 と、三月は思わず笑ってしまう。
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! で、でも……」
 柚は自分の背丈が海とあまり変わらないことに気づき、少し微笑んだ。
「海くんがいつもより近くて、嬉しいです」
「柚……ということは、まだ成長期前ってことか」
 と、海は今さらながら戸惑い始める。柚の見た目も10歳ほどだったため、自分もそうなっているのだろう。
「海くんって、いつ頃から伸びたんですか?」
「ん、いつだったか……本格的に伸びたのは、中学に入ってからだったな」
「そうなんですか。私も、これから成長期、くるかな……やっぱ、無理でしょうか?」
 と、コンプレックスを口に出す柚。
 すると、ふいに三月が柚の頭に手を伸ばした。ぽんぽんと軽く撫でて笑う。
「せっかくだから、写真撮ろうか?」
「えっ」
「何で写真なんか……」
 席を立った三月は二人の間に入ると、斜め上に構えたカメラを自分たちへ向けた。
「だって可愛いんだもん。ほら、二人とも笑って」
 パシャリ、一枚撮って、今度は普通に構える。
「次は二人だけね。柚、そんな顔しないの」
 ぷくっと頬を膨らませていた柚だが、海の隣に並ばせられて頬を赤くした。
「はい、チーズ」
 照れながらもはにかむ柚と海。
 その様子に満足しながら、三月はもう一度シャッターを押した。

「メガ印って、そのまますぎない?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は呟いた。小さくなった手にはいちごオレの紙パック。味は美味しかったが、さすがにこうなることは予測できなかった。
「それとも、人をなめてるのかしら」
「どちらにしても、捕まえる必要があるわね」
 と、セレンフィリティとほぼ同じ年頃に幼児化したセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が口を挟んだ。
「そうね」
 謎の女生徒の噂によると、犯人と思しき相手と特徴は一致している。
 セレンフィリティは『防衛計画』で蒼空学園全体の地理を把握することにした。そして空色のショートカットが目撃された地点を地図上へプロットし、次に現れる場所を予測しようというのだ。
「それにしても自作自演とは……」
 と、セレアナがふと呆れて息をつく。犯人のしていることを思うと、何だか頭が痛くなりそうだった。
 一方のセレンフィリティも同じことを思っていたが、それと同時に怪しんでもいた。あまりにも出来すぎているため、どこかに罠があるかもしれない。
 だが、怪しんだところで答えは出ないため、セレンフィリティは作業に集中する。

 ベンチで一人泣いていた少女を見つけ、健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)は首を傾げた。どこかで見たことがあるような気がするのだが、小さな知り合いなど自分にいただろうか?
 考えながら歩み寄っていくと、少女がふと顔を上げた。
「あ! せんぱい!」
「え?」
 少女はベンチを降りると、すぐさま勇刃の元へ駆けてきた。
「きみは?」
「あゆみですよ! 私、ちいさくなっちゃったんですー!」
 と、藤原歩美(ふじわら・あゆみ)は勇刃へ抱きつくと泣き出した。
「歩美……そうか、何でこんなことに?」
「うぅ、それが……あたらしいいちごオレをのんだら、からだがちぢんで……ぐすっ」
 そういえば今日はやたらと小さな子どもたちが校内を歩いている。まさかその原因が『メガ印のいちごオレ』だとは思わず、勇刃は慌てた。
「なるほどな。で、これを作って販売した犯人がいるわけだ」
 二人でベンチへ座り、勇刃はその紙パックを見つめた。「メガ印」ということは、あの某有名企業が最初に浮かぶが、ジュースに幼児化させる効果を混ぜるのは会社的に終わっているだろう。
「とりあえず、怪しい奴を探してみようぜ」
 と、勇刃は歩美を連れて犯人探しを始めた。