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幼児化いちごオレ

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幼児化いちごオレ
幼児化いちごオレ 幼児化いちごオレ

リアクション


2.

 棚に並んだ最後の『メガ印のいちごオレ』をゲットした師王アスカ(しおう・あすか)は、るんるん気分だった。
「さーてさてぇ、お味はどうかなー?」
 と、紙パックへストローをさす。
 その様子を見た蒼灯鴉(そうひ・からす)は呆れ顔だ。それもそのはず、幼児化した生徒たちがあちらこちらに見られていた。解毒薬の噂まで流れてきているし、これはいちごオレを怪しまない方がおかしい。
 アスカは鴉の様子に気づき、いちごオレを差し出した。
「鴉も、の・む・の!」
 と、無理やり彼の口元へ持っていく。
「っ! おい、やめ――」
 鴉の必死の抵抗もむなしく、飲まざるを得ない状況に持ち込まれてしまった。ストローをくわえた途端、口の中にいちごオレが入ってくる。
「……あ、甘い」
 アスカもすぐにストローへ口をつけ、小さくなっていく鴉を見つめていた。
「ふ……よそうどおり!」
「よそうどおり! じゃねぇだろ……!?」
 10歳くらいの少年鴉が怒りに肩を震わせる。
「馬鹿か? 馬鹿なのか?」
 と、頬をぐいっと引っ張られ、アスカは慌てた。
「ご、ごめんなさぁい! だから、ほっぺたひっぱらないでぇ!!」
「あぁー、くそっ。犯人が分かってるから、なおさら腹が立つ……っ!」
 ぱっと手を離したところで、鴉は幼児化したアスカを改めて見る。身長が低いのはいつものことだが、今の彼女は8歳くらいに見えた。
「うぅー、ひどいよぉ。ただトレルちゃんのいちごオレをのんでみたかっただけじゃなーい」
 ひりひりと痛む頬に手を当てながらアスカは言った。いちごオレのパッケージをまじまじ眺める。
「だいがくでもちょっとうわさになってたしぃ、それに……ゆうめいなこだし、やくがくぶだし?」
「そうだな。だが、見つけたらただじゃおかねぇ……」
 犯人をこらしめる気満々でいる鴉だったが、アスカの方は楽しむ気満々だ。
 その証拠に、彼女は笑っていた。
「とりあえずのんびりさがしながら、このじょうきょうをたのしんじゃいましょー♪」
「のんきなこと言ってんじゃねぇよ」
「のんきじゃないわよぉ、ポジティブっていってよー」
 と、頬を膨らませるアスカに、思わず鴉はドキッとしてしまった。普段の何倍も可愛らしく見えたのだ。それに彼女は、自分よりも下の年齢に退行している。
「……そういえば、ようじかするねんれいって、いっていじゃないのねぇ。なんだかへんなきぶん」
「ん、そうだな……いつもは、お前が年上なのにな」
 今は鴉の方がお兄ちゃんだ。
「ふふっ、おたがいにねんれいがぎゃくてんしてておもしろいわぁ」
 と、アスカはくすっと微笑んだ。――それに、鴉の子ども姿見れてちょっと嬉しいし……あんまり背伸びしなくても。
 鴉の前へ立って、ちょこんと唇を重ねる。
「!?」
「これなら、キスもしやすいねぇ」
 にこっと笑うアスカに、鴉は顔を真っ赤にさせるばかりだ。傍から見たら微笑ましい光景だった。
「さあ、さっそくさがしにいきましょー」
 満足した様子で歩き出すアスカの小さな背中を、鴉は慌てて追いかけた。

 リタ・ピサンリ(りた・ぴさんり)は呆然とした。
「わー……ちっちゃく、なっ、たったー?」
 目線はそばにいるベネデッタ・カルリーニ(べねでった・かるりーに)の腰辺りだ。
「っ……!!」
 そしてベネデッタは鼻を押さえていた。幼児化したリタのあまりの愛らしさに脳が異常を訴えているためだ。
「べねでった? なんでおはなをおさえてるの?」
 と、リタに見上げられ、ベネデッタはついに鼻血を噴出した。
「ぶっ……い、いけません、リタ!」
 どくどくと尋常じゃない量の血を流しながら、ベネデッタはその場に膝をついてしまう。その反動でリタの腕に血がついてしまう。
「ひゃっ」
「リタ!? 何てことを私は……そうです、シャワー室へ行きましょう!」
「しゃわーしつ?」
 がしっとリタを抱きあげ、ベネデッタは駆けだした。
 通り過ぎる生徒たちの目も気にせずに、シャワー室へ一直線に向かう。
 狭い中に二人で入ると、ベネデッタはリタの服に手をかけた。
「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ♪」
「わわっ、ひゃあ……っ」
 裸になったリタを見てベネデッタが叫ぶ。
「はうあ! 天使のごとき裸身! 幼女特有のぽっこりお腹がたまらないですっ!」
「?」
 首を傾げるリタの純粋さに、さらに興奮してしまうベネデッタ。
「理性! いくな、理性!」
 と、がんがん壁に頭を打ち付けて理性を保とうと必死だ。
「さ、さあ……次は身体を、洗いましょうねぇ」
 うずうずする手でリタの身体へボディソープをかけ、わしゃわしゃと泡立てながら洗い始める。
「ひゃっ! くしゅぐったいよぅ!」
「ああ、すべすべ……」
「んっ……そこはいやー、くしゅぐったいー! あは、あはははっ」
 きゅっと蛇口をひねって水を出し、リタの身体についた泡を落としていく。さらさらと流れていく泡。
「きもちいいねー」
 ベネデッタの斜めな欲望にも気づかず、無邪気に笑う小さなリタ。本当に彼女は天使みたいだ。
 シャワーを終えると、タオルで全身を拭かれたリタはうとうとし始めてしまった。
「べねでった、だいすきだよ……」
「リタ……」
 ぎゅっと自分にしがみついて眠りの世界へ入っていくパートナーを抱きしめ、ベネデッタは心の中で感謝を捧げた。
 ――神様、このように愛らしい姿のリタを見せてくれてありがとうございます……。

 鏡に映った自分自身を見て、秋葉つかさ(あきば・つかさ)は衝撃を受けた。
 身体の異変には気づいたものの、これほど幼児化してしまうとは思わなかった。その瞬間に過去の様々な経験が脳裏へ蘇り、記憶があいまいになってくる――。
「……こ、ここはどこでしょう?」
 辺りは静かだった。どこからか誰かの近づいてくる足音がする。
 はっとそちらを振り返ると、そこには加能シズル(かのう・しずる)が立っていた。
「あら? さっき、知り合いがいたような気がしたのだけれど……」
 と、幼児化したつかさを見つめる。
 一方のつかさは相手のことすら思い出せず、そっと歩み寄った。
「ほんじつはおかいあげありがとうございます、みじゅくなわたしですが、あなたさまのごじゆうにおつかいくださいませ」
 と、何も抵抗しないことを身体でアピールする。
 シズルは困惑し、少女を凝視した。
「あなた、何を言っているの?」
「え? ああ、あなたさまはなれておられないのですね」
 と、良いように理解したつかさはシズルの脚へ手を伸ばした。
「だいじょうぶです、おきゃくさまであるいじょう、まんぞくさせてさしあげますので……」
 スカートの中へもぐりこんだつかさが、シズルの内腿へ口付ける。
「きゃっ!?」
 慌ててつかさの肩を掴んで押し離す。慌ててあとずさるが、すぐに壁へぶつかってしまった。
「何するのよ、いきなり……! お客様じゃないし、誰かと勘違いしてるんじゃ――」
「おきにめしませんでしたか? では、つぎはほかのことをいたしましょう」
 と、つかさはシズルの前へ立つ。
「っ、だからそうじゃなくって……!」
 つかさにはシズルの言葉が理解できなかった。自分は誰かに奉仕することが務めであり、そうしなければならない定めなのだ。だからこそ、つかさは彼女への奉仕をやめなかった。

「わ、わたしのおっぱいが……」
 と、両目にうるうると涙を浮かべて芦原郁乃(あはら・いくの)は叫んだ。
「なんてことするのー、桃花ぁ! 返して! わたしのおっぱいを返してぇ!!」
「郁乃様……急なこととはいえ、これは桃花の胸です」
 と、若干戸惑い気味に秋月桃花(あきづき・とうか)は言い返した。
 しかし「おっぱい星人」の名を持つ郁乃には通じなかった。
「わたしのおっぱいなのー! だから返してぇ! わたしのおっぱいー!!」
 白昼堂々、恥ずかしげもなく喚く郁乃の姿は見ていられない。特に「おっぱい星人の妹」である荀灌(じゅん・かん)にとっては、やるせなさが募るだけだ。
「もう、郁乃様ったら……そこまで気にすることでもないでしょう?」
 と、桃花が返すと、郁乃はとんでもないことを主張し始めた。
「何言ってるの! このままだと寝てる桃花の胸に挟まって、ぱふぱふしたりできないんだよ!?」
「っ……郁乃様!?」
 自分が知らない間にされていたことを知らされ、桃花は頬を赤く染める。しかし、そんなことをしてまで愛されていたおっぱいだとは……。
「郁乃様、一つ聞いてもいいですか? 桃花の価値って、胸だけなんですか……?」
 どこか悲しげに尋ねる桃花の表情に、郁乃はようやく我を取り戻す。
「ご、ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……でも、やっぱりあきらめつかないんだよー!」
 小さくなった桃花へ抱きつき、郁乃は再び叫びだす。
「桃花のあのおっぱいが良かったんだよぉ! 効果が切れるか、解毒薬を見つけない限りこのままなんて……」
 ふと、荀灌は桃花と目を合わせた。そうだ、解毒薬があれば元に戻れる。そうすれば郁乃の暴走も止まるだろう。
 少し遅れてその存在に気づいた郁乃は、ぱっと桃花から離れると言った。
「よしっ、解毒薬を探しに行こう! そしてわたしのおっぱいを取り戻そう!!」
 と、気合十分に周囲を見回す。
 荀灌は桃花の変化を悲しむ郁乃に少し同情しそうになったが、慌てて郁乃の後を追った。
「桃花お姉ちゃんはここで待っていてくださいね」
「はい」

 戻ってきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)ははっとした。先ほどまで一緒にいたはずの少女たちがいなくなっている。否、幼児化している。
「ちょっと、これはどういうこと?」
 と、普段は冷静なローザマリアさえ驚いてしまう。
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)はパートナーへ顔を向けるなり、言った。
「くっくっく、戻るのが遅いぞ」
「そ、そう言われても……」
「して、いちごオレは手に入れられたのか?」
 と、上杉菊(うえすぎ・きく)がどこか偉そうに口を挟む。外見ではこちらの方が幼く見えるが、どうやら力関係はグロリアーナより上らしい。
「そう、それがもう売り切れてて、仕方ないから二人に分けてもらおうと思ったのよ」
 自分の発言にローザマリアはふと気がつく。先にいちごオレを購入し、飲んでいた二人が幼児化しているのだ。つまり、原因はどう考えてもいちごオレ。
「はー、なるほど。そういうことだったのね」
「どうしたのじゃ、何か分かったのか?」
「ええ……とりあえず、犯人を探しに行ってくるわ」
 と、ローザマリアは二人へ背を向けた。生徒たちから少し聞き込みをすれば、すぐにそれらしい目星は付くだろうと思ったのだ。
 すると、グロリアーナと菊が同時に立ち上がって彼女の左右へ立った。
「それなら儂もつれて行くのじゃ、そちに何かあっては元も子もないぞ」
「くっくっく、拒否は許さないぞ」
 ぎゅっと両手を掴まれ、ローザマリアは息をつくと歩き始めた。