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第5章  犠牲と化す者


 お宮さんの調査を、あらかた終えた生徒達。
 いよいよ、真相を突き止めるための行動を開始する。

「はーい、はーい!
 おねーさまのために、アリッサちゃん一肌脱いじゃうもんねー☆
 子どもがさらわれるのなら、アリッサちゃんがバッチリ囮になっちゃうよー!」
「ワタシも行くヨ!
 アリッサちゃんの肩に乗っけてもらうノ〜!」
「おぉ、行こう行こう!
 だって面白そうだもんねー」

 真っ先に手を挙げたのは、アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)だった。
 周囲にいる、ほぼすべての生徒達が驚きの表情を見せる。
 だがそんな空気をものともせず、自分のなかでは実行イコール決定事項。
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)を左肩に乗っけて、すたこら歩き始めた。

「消えた子どものたちの行方も原因も解らないなら、実際にさらわれてみるのが一番だよねっ」

 そんなくだりのあいだに、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が宮司と打ち合わせを済ませる。
 作戦は、4名の生徒達を対象に、いつもどおりの七五三参りをおこなうというものだ。

「えへへ、アリッサちゃんがピンチのときは、おねーさまが守ってくれるって信じてるもん!
 だから平気だよ〜!」
「っ……なんていい子なのでしょう!」

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の瞳に、うっすら雫が。
 見上げてくるアリッサを、ぎゅむっと抱きしめた。

「こんな物騒な事件があるなんて……先生方も困っているこの事態、葦原の一生徒として見過ごすわけにはいきません!」

 事件の話を聴きつけ、生徒としてなんとかしたくなったフレンディス。
 アリッサのキャラに騙され……たとは、思ってもいないだろうが。

「いなくなった者が戻ってくることの方が、稀だというこの事象。
 大切な存在が戻ってこないなんて、一生ぽっかり胸に穴が開いたような想いを抱え続けるんだろうか……」
(なんとかしたい……)

 改めて強く、セルマ・アリス(せるま・ありす)は決意を固めた。
 【ちぎのたくらみ】の能力で、7歳の子供の外見に変身する。

「パラミタに来たばかりだから、神様にこれからよろしくお願いしますってご挨拶した方がいいかなっ?」
「はい、きっと神様もお喜びになるでしょう」
「ボク、お母さんいないし、お父さんもずっと外国にお仕事に行ってるから、お祝いに行っていないんだ。
 ダイアが誘ってくれて嬉しいな♪」

 それっぽくおめかしをして、蝶ネクタイを締めている南天 葛(なんてん・かずら)
 ダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)の首にも、可愛いリボンを結んでみる。

「ありがとうございます」

 にっこり笑んで、葛へのお礼を告げるダイア。
 しかし立ち上がると一変、表情をくもらせた。

「ただ……心配なのは、神様の怒りをかわないかってことでしょうか。
 消えた子ども達に、なにか被害がでるかもしれませんよね」
「それは俺も思ったけど、大丈夫じゃないかな。
 これ、単に一緒に遊びたかっただけなんじゃね?」
「そうだとよいのですが……言いきってしまって、大丈夫でしょうか?」
「俺達にも、よく知った仲の地祇がいるんだ。
 その地祇も、年の割には見た目も心も幼くて、えらく淋しがりな奴でな。
 だからこの地祇も同じなんじゃなかろーかと思ってさ」
「地祇とは、そのような感情を持つものなのですね」
「きっと裏山にいる奴も、淋しかったんだろ?
 楽しそうな子どもたちを見て、一緒に遊びたくて連れていってしまった。
 んで楽しくて、時間を忘れてしまっただけなんじゃないだろーか」

 ダイアの危惧には、みなも同意する。
 だが先へ進むためにも、アキラの意見を尊重することとした。
 それに。

「愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおいにお任せ♪
 ばっちり事件を解決しちゃうよ♪」

 秋月 葵(あきづき・あおい)という魔法少女の存在も、心強い。
 『魔砲ステッキ』を振りかざし、可愛くウインクしてみせる。

「あの、七五三という行事はしきりに行われているのでしょうか?」

 こっそりと、うしろから飛んでくるテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)からの質問。
 フィンランド人なので、七五三やらお宮さんやら、言ってしまえば葦原島全体の文化にも、馴染みがないのだ。

「ふむふむ、なるほど……そうですか」

 そんなテレジアは、宮司の丁寧な説明に納得したようだ。

「アリッサちゃんももう7才!
 大人の第一歩だもんねー☆
 もー子供だって言わせないんだよー」
(ほかの囮のみんなと一緒にさらわれたら、きっと面白いよね☆
 けど、フレイのためにも子ども達は助けるよ……絶対だよ!)
「ワタシ、ここから警戒しているネ〜」

 かくして、『囮で地祇おびき寄せ大作戦』の幕が開く。
 心の半分ほどを占めるのはわくわくだが、助けたいと思う気持ちも本物。
 周囲に愛想を振りまきつつアリッサは、アリスと一緒にお祓いを受けた。
 ちなみにアリスは、【殺気看破】と【トレジャーセンス】で警戒を強めている。

(……アリッサちゃんも心配だけど、ほかの方にも目を向けておくべきね。
 いつなんどき、なにがあってもおかしくないように、動けるように。
 マスターがいなくて不安ですが、私がんばります!)

 お宮さんの前庭を見渡せる位置にて、フレンディスは待機中。
 気配を殺し、忍者ゆえの身のこなしで見事に隠れている。

(パラミタでお母さんがみつかりますように……厚かましいかも知れないけど……)

 眉をひそめるくらい、葛は顔に力を入れていた。
 必死な願いなれば、いつか聞き届けられるときがくると信じて。

(狼の姿でもお参りできてよかったわ。
 葛にはまだ人間の方の姿見せてないのよねぇ)

 たいして保護者役のダイアは、比較的穏やかな表情。
 いまの自身の外見に、ひとまず胸を撫で下ろした。

「神様も飴、食べたいかも。
 ちとせ飴のほかにー棒つきのぐるぐるキャンディーとーぼんたん飴とー水あめとーりんご飴とわたあめ!
 これだけあればどれか気に入ってくれるかも♪
 お腹すいている子にもわけてあげようー♪」
「葛……」
「神様に飴をあげるにはどうしたらいいんだろ?
 お賽銭箱に入れたらいいのかな???」
「聴いている、葛?」
「ダイア、お顔怖いよ。
 どうしたっていうの???」
「お行儀よくしなさい。
 いまは作戦実行中だし、仮にも神様の前なのよ」
「わかったよぅ……ダイアー。
 いつもみたいに背中に乗っちゃだめなの?」
「いけません」
「……しょぼーん」

 はしゃぐ葛に現状を理解させるべく、あえてダイアは真顔で語るのである。

「うん、ここなら怪しまれないよね☆
 ここで待ってたら事件が起きるかも?」

 葵はそのとき、お宮さんの屋根の上にいた。
 【空飛ぶ魔法↑↑】を解除すると、続いて【ホークアイ】発動。
 自身の視力を限界まで強化して、囮の生徒達を観察する。

「こうした場所に子どもが来る動機は、広大な敷地内を遊び場にしているか、そうした神事が行われる場合のみですよね」
「うん、そんなとこかな。
 夢のある子だけ見える、とか、もしくは逆に、素行の悪い子を連れていってお説教している、とか?」
「お説教でしたら、神様らしいですね」
「ともかく……この地祇がなにかしら鍵を握っているのは間違いないよな、やっぱり」
「はい」
「ところでさ、一緒に芋とか食べない?
 バターをたっぷりつけて……」
「え……いえ、作戦中ですので遠慮させていただきます」
「そう?
 じゃ、俺はいただくよ」

 囮の動向を視線で追いつつ、お宮さんの一画を陣どるアキラ。
 落ち葉で焼き芋とか、ありがちだがなんとも楽しそう。
 さすがにテレジアには、この状況下で芋を頬ばることはできなかった。

「あれ……ここ、どこだ?」

 気づいたときには、後の祭り。
 急に変わった風景は、四方を背の高い樹木で囲まれていた。
 どうやら囮はすべて、喚ばれてしまったらしい。

「うまく見つけてくれるといいのだが……」

 セルマはすぐに『銃型HC』と【精神感応】で通信をおこなった。
 作戦第一段階の成功を報せるとともに、救助を要請する。