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第6章  御暇を潰す者


 昼食を簡単に済ませ、またちゃぶ台に向かう。
 集まる情報を見ては、一喜一憂する時間。

「あ、そうだ。
 よかったらこのお茶、飲んでみない?
 こんなときだからこそ、心に余裕を。
 お茶とお菓子でまったりしようよ」

 すっと、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が差し出す『桜茶』。

「ボクも飲んでみて香りが気に入ったから、静香校長先生にお願いして取り寄せていただいたんだ。
 ハイナ様はこういうの飲んだことあるかな?
 房姫様は知っていそうだけど」
「えぇ、存じておりますよ。
 ほっとする香りが、わたくしもお気に入りです」
「妾は初体験じゃが……名といい香りといい、妾にぴったりでありんす」

 房姫もハイナも、レキの持参した茶が気に入ったよう。
 なにげ、百合園女学院との友好を繋ぐ、橋渡しにもなったかも知れない。

「お茶にはお茶菓子がつきものじゃな。
 城下町で美味そうなみたらし団子があったので、買ってきてみたのじゃ。
 頭を使うには甘い物が必要じゃろうて、これを食べてゆっくり考えるとよいぞ」

 ミア・マハ(みあ・まは)が提供するのは、城下でいま大人気のお団子だ。
 予約しなければ変えないくらいの品を、このタイミングで買いつけてくるとは。

「ミア、あっぱれでありんす」
「遠慮なくいただきますね」
「アニスも〜♪」

 甘味は別腹と、次々に手を出す女性陣。
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)もそっと、お目当てをゲットした。

「アニス人見知りだけど、ハイナさまや房姫さまは大丈夫だから和輝達と一緒に遊びにきたよ♪」
「このあいだ好評だった漬物も持参しましたので、お口直しにどうぞ」
(ハイナ様達に会いにきたんだが、時期が悪かったか……とはいえ。
 気負っているであろう2人のガス抜きも画策してみようか……)

 そんなアニスの両隣は、ハイナと佐野 和輝(さの・かずき)が固めている。
 漬物とみたらし団子で、もっちゃりもっちゃり昼下がり。

「地祇の話が出ましたし、少し休憩も兼ねて、日本の神話の資料を読んでみませんか?
 日本は世界から見て、珍しい宗教形態をしているようです。
 なので日本文化を知るうえでは、覚えていても損はないと思いますよ」
「休憩するの?
 和輝の膝座布団だ〜♪」

 アニスを膝に乗せて、机上に拡げた資料に書物。
 明倫館地下の大書庫から借りてきた、『古事記』や『日本書紀』の類だ。

「おお、そういえば姫よ。
 またいくつか本を選んできたからな渡しておこう」
「ありがとうございます。
 諸々が片づいてから読むことになると思いますが……」
「構わぬぞえ。
 それに……心配するな、これほどの人間が動いているのだ。
 解決は時間の問題だろうよ」

 読書タイムをよい機会と、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)は風呂敷包みを房姫へ。

「いつも嬉しいです。
 実は、ダンタリオンさんが来られるのを、心待ちにしておりましたの」
「そうか……私は、また無理やり外出をさせられたのだがな……」

 思い起こせば、昨晩から和輝とのバトルは始まっていた。

「だから言っているであろうが、本は運動などしないと……ああーっ、分かっている!
 自分で動くから脇に抱えようと……だーっ!
 子供あつかいするな!!」

 まぁせっかく行くのだからと、自身の蔵書から選んできたのである。
 かくして、しばしのあいだ、静寂に包まれていた……だが。

「む〜飽きたのう……ハイナ殿。
 どうすればそのようになるのか、訊いてもよいか?」

 半刻ののちに、ミアが音を上げる。
 次の関心事は、ハイナの巨乳らしい。

「パートナーのレキも実年齢の割に大きいし……年上として、やはりこの差は見過ごせぬわ」
「気晴らしにハイナ様の衣装を着てみたいな……じゃない、みたいんですけど、いいでしょうか?」
「ん?
 別に構わぬが……」
「でもむしろ、房姫にハイナ様の衣装を身につけてみて欲しいかな」
「ほほう」
「衣装交換したらきっと印象変わるよ。
 女同士だし、恥ずかしいことないよ……ね?」
「面白そうでありんす。
 房姫、やってみるかの!」
「え……えぇっ!?
 ちょ、本気ですかってきゃあ〜」

 お姫さまだっこで連れ去れた房姫は、ハイナの衣を身にまとい現れた。
 ぶかぶかの胸元を、少々気にしているご様子。

「その気持ち、判る……判るぞ!」

 その空白を見やり、ミアは思わず拳を握った。
 ハイナも房姫仕様で、なにやら胸のあたりがキツそうだが。

「はいはい、笑って〜!
 チーズ!」

 2人の貴重な姿は、レキのカメラにしかと収められたのである。