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黒の商人と代償の生贄

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黒の商人と代償の生贄

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●プロローグ

「お願いです、お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けて!」
 少女――ウイユの懇願に、訓練キャンプに滞在していた契約者たちは一斉に動いた。
 キャンプに滞在していた者の多くは、数多くの任務をこなしてきた熟練の契約者だ。だれに指揮されるわけでもなく自然と隊列を組み、急ぎ洞窟へと向かった。
「ここです。どうか……」
 ウイユが泣き出しそうな顔で一行に向かって頭を下げると、大丈夫よ、任せなさい。どこからともなくそんな声が次々上がる。
「洞窟の中の状況はわかりますか?」
 先頭グループの中から御凪 真人(みなぎ・まこと)が一歩進み出て問いかける。ウイユは少し目を伏せると、少し考えて、
「……先ほどお伝えした通り、モンスターがいっぱいいて、一番奥にヒュドラが棲みついてる水源がある、っていうことしか……村の人間だけじゃ、そうそう入れないから……」
申し訳なさそうに小さな声で答える。
「でも、水源が破壊されるようなことがあったら、水があふれて土石流になったり……逆に、川がせき止められるようなことがあったら村の水は枯れてしまいます」
「なるほど……やはり、派手な戦闘は避けた方がよさそうじゃのう」
 二人のやり取りを聞いていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が、周囲に言い含める意味も込めて呟く。
 周囲の契約者たちも、それに頷いた。
「洞窟も壊さず、お姉さんを救出し、ヒュドラも倒す……なかなかシビアな条件だねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)がひょいと肩をすくめる。
「でも、それでこそ立ち向かう価値があるというものだわ」
 早く行きましょう、と浮足立った様子を見せているのはミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)だ。
 その言葉に一行は頷きあい、洞窟の中へと足を踏み入れる。
「じゃあウイユ、君は村で――」
「私も行きます!」
 待っていて、と続けようとした北都の言葉を遮るようにウイユが叫ぶ。その声に、一同は驚き顔を見合わせた。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが、死んじゃうかもしれないのに、一人で待ってるなんて、できません!」
「でもウイユ、危険すぎる」
 数人の契約者がウイユの周囲で足を止めて説得するが、ウイユの瞳に宿った決意の色は揺らがなかった。
 はぁ、とトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がため息を吐く。
「じゃあ、必ず僕たちより後ろを進むこと。危なくなったらすぐに逃げること……僕たちにかまわず、だよ。いいかな、魯先生」
 トマスの言葉に、パートナーの一人である魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)がやれやれ、と首を振る。
「私たちはみなさんの後をついて、足場を固める作業を行います。落ち着いて作業ができる程度まで魔物が退治されていれば、そこまでの危険は無いでしょう」
 よろしいですか、と子敬は周囲をふり仰ぐ。先行する隊の後に続こうとしているメンバーが、仕方ないという様子で頷いた。
「ありがとう……ございます!」
 ウイユは深く頭を下げた。

●目次●

1:プロローグ
2:水源を目指して
4:闇商人と黒の商人
5:願いを叶えて
5:邂逅
6:戦闘、開始
11:黒の商人
13:ヒュドラとの対峙
15:インターセプター
16:エピローグ