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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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   16

 土方 伊織とサー ベディヴィエールは、咄嗟に朱濱 ゆうこへ体当たりを食らわせた。
 ゆうこは勢いよく地面を滑り、頭を打って気絶した。
 イブリスの放った魔力は、その直前まで立っていたゆうこの頭部を通過し、地面を抉った。
 契約者たちの間に緊張が走る。遺跡が壊れてしまう――!
 その時、これまで成り行きを見守っていたエレインが大きく手を広げた。彼女全体から魔力が放射され、それが光となって半円状に外側へ向かって広がっていく。
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)は、滑るように地面の色が変わっていくのを見た。それが遺跡のすぐ外まで行くと、たちまち光は消え、再び月の明かりを映した赤へと戻った。
 エレインが膝をつく。
「エレイン会長!」
 博季・アシュリングが咄嗟に支える。エレインは細切れに呼吸を繰り返していた。フードが外れ、ウェーブがかった白髪が彼女の額と頬にかかっていた。ぽたり、と汗が落ちる。
「大丈夫です……少し休めば……。これで……遺跡が壊れることはありません……」
「結界か……」
 なぶらの言葉に、エレインが頷く。
「会長が身体張ってくれたんだ。瑠璃、先陣を切るぞ!」
「分かったのだ!」
 木之本 瑠璃(きのもと・るり)は右の拳を逆の手の平に叩きつけた。と同時に【神速】を使って地面を蹴る。狙うはイブリスの前に立ち塞がる魔術師である。
 魔術師は杖を構えた。瑠璃がどう出るか、その動きに目を凝らしている。
 なぶらは「守護宝剣スターライトブリンガー」を抜いた。星々の刻印が淡い煌きを放ち、独特の神々しさに包まれている。
 その剣で素早く印を切ると、魔術師の周囲に小さな結界が出来た。
「!?」
 驚いた魔術師が出ようとすると、何かに弾かれてしまう。
 その隙に瑠璃は魔術師の背後に回っていた。なぶらが結界を解くや、同時に魔術師の腕にやんわりと触れた。手を繋ぐ、といったレベルの優しさだ。
 次の瞬間、瑠璃はその手に力を込めた。自動防御術式が発動し、魔術師の周囲に光の文字列が浮かぶ。瑠璃は跳ね飛ばされたが、その力には逆らわなかった。
 ただし、魔術師の腕は掴んだままだ。衝撃に耐え、顔をしかめながらも瑠璃は離さなかった。
 後ろへ引っ張られた魔術師は呪文の詠唱ができない。そこになぶらが【バニッシュ】を放つ。
「ぐあっ!」
 全く無防備な魔術師が白目を剥く。ふっと一瞬、光の文字列が消えた。
「トドメなのだ!」
 瑠璃は手を放すと、【閻魔の掌】を魔術師の急所へ叩き込んだ。そのまま魔術師は、ずるずると地面に落ちた。
「まずは一人なのだ!」
 瑠璃が親指を立てた。


 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は、エレインが到着した時点で【叡智の聖霊】を使っていた。増えた魔力を今度は「ニーベルングリング」に注ぎ込む。
 メニエス・レインはフレデリカが何か仕掛けてくると察した。饗団の魔術師に止めるよう指示したが、
「近づかせません!」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が【弾幕援護】で近寄らせない。
 ならばと離れたところから魔法で攻撃するが、今度はクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、
「いくよ!」
と【オートバリア】でフレデリカを守り、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、
「やらせませんわ!」
と魔術師たちの詠唱を【氷術】で邪魔する。
 そこでメニエスは【アボミネーション】を使った。僅かではあるが、全員の動きが鈍くなり、そこを魔術師が炎で攻撃した。
 フレデリカの召喚が終わり、全身を火で包まれたフェニックスが現れる。メニエスは舌打ちした。これはよくない。
 しかしフェニックスを前にしても、イブリスは平然としたものだった。
「迸る息を持ちし、異界の幻獣か」
「『炎を吐く異界の幻獣か』と申されています」
「どれ――幻獣の力、試してくれよう」
 イブリスがゆっくり手を上げたのを、如月 夜空はスコープで覗いていた。
「邪魔だ!」
 狙いを定めているが、仲間の動きが激しすぎて撃てない。
 もう少し様子を見よう、と日比谷 皐月は言った。


 小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)は【隠形の術】で姿を隠し、イブリスたちの背後に回っていた。メイザースを拘束している物を外せないだろうか、と彼女は考えていた。
 木製の拘束具を外そうとメイザースの傍に近づいたとき、ネイラが怒鳴った。
「敵か!」
 アキラは衝撃波を受けて転がった。ネイラの目が、アキラをしっかり捉えている。まずい、来る――!
 だが、ネイラの背中に何かが当たり、彼は仰け反るように吹っ飛んだ。
 風間 宗助が【光条兵器】で狙ったのだ。然程のダメージではなかったが、アキラが逃げるには十分だった。
「ありがと!」
 聞こえないのは承知でアキラは礼を言い、再び姿を消した。
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は仲間たちがイブリスたちと戦っている間に、アキラと同じくメイザースのすぐ傍まで来ていた。ブラックコートとベルフラマントで徹底的に気配を殺している。
「助けに来ました」
 涼介は小声でメイザースに言った。
 だが、涼介が計画を行動に移すより速く、全能の書 『アールマハト』が動いた。
「対象より敵対の意思を確認。殲滅対象と認識します」
「アールマハト」の左手から、【凍てつく炎】が発射される。
 涼介は「アールマハト」の姿を認めるや、「必ず!」とメイザースに告げ、【バーストダッシュ】でその場を離れた。