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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

 ジャンゴのアジトは完全に崩れ落ち、燃え尽き、がれきと化していた。
 ……火が周囲に広がった頃、がら、とそのがれきが崩れ、2つの人影が起き上がる。サンダラーだ。
「ふたり同時に相手は無理だ。引き離すぞ!」
 燃えさかる町の中、契約者が、無法者がサンダラーを囲んでいる。飛び出したのは、帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)だ。
「最強っていうなら、おれと勝負してもらおうか!」
 両手の銃が激しく火を噴く。むろん、サンダラーからも反撃があるが……
「……やーっ!」
 別の角度から、空飛ぶ箒に跨がった三山 雛菊(みやま・ひなぎく)が飛び出す。サンダラーの一方……ライフル使いへと突撃する。が、雛菊の気配を察したのか、その銃口がぴたりと眉間を狙っていた。
「……ひやっ!?」
 空中で突進する瞬間に放たれた銃弾を、きりもみ回転で買わす雛菊。自然、突撃の角度は乱れる。
 その間に緑郎が弾丸を放つ。ふたりのサンダラーが別の方向を向いている間に、その間に銃を放って距離を離させるのだ。
「こいつは俺が押さえる!」
 路地の中、拳銃使いを相手に立ち回る緑郎。激しく連射し続けるが……
「なんてやつだ。こっちは二挺だぞ……」
 拳銃使いの連射が、わずかに上回っている。となれば、緑郎は身をかわすことを考えなければ撃ち負ける……!
「だったら、四挺ならどうよ!」
 横合いから飛来した弾丸が、サンダラーの腕に突き立つ。わずかに逸れた弾丸は、緑郎の横を通過した。
「ジェニファーさん!」
 なんとか空中で軌道を取り戻した雛菊が、現れた助っ人に叫ぶ。
 拳銃使いを中心に、緑郎が3時。ジェニファーが7時の方向。短針と長針のように、別のタイミングで位置を取りながら、拳銃使いの胴へ銃弾をたたき込む。それでも、棒立ちの体勢のまま、拳銃使いはふたりに銃を向けている。
 完全に、拳銃使いの意識はそちらに向いている……!
「今です!!」
 叫ぶ茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)。その後方、影にポジショニングしたレオン・カシミール(れおん・かしみーる)がライフルの引き金を引く。
「……援護する!」
 長距離から、伏せた緋山 政敏(ひやま・まさとし)も引き金を引く。十字砲火だ。サンダラーの狙撃手はふたりの銃弾を浴びながら、両手で構えることなく、片手だけでぴたりとふたりを狙う。
「させません!」
 衿栖の指が震われると、周囲に四体の人形が起き上がり、力場を展開。
「もうっ!」
 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)のフラワシが、大きく変形しながら政敏への狙撃を防ぐ。
「……まだ動いているのか? 信じられん……!」
 レオンも位置を変えながら狙撃を続ける。少なくとも十発はこの短時間にくらっているはずだというのに。
 炎に巻かれる街路に、銃弾の音だけが響き渡る。
 火薬のにおいの風を引き裂いて、異様なものが路地から現れる。丸太のような胴を持つ蜜首の蛇……
「アジ・ダハーカ、やれ!」
 ザッハーク・アエーシュマ(ざっはーく・あえーしゅま)の指示に応えて、蛇が鎌首をもたげる。その3つの首の顎が、弾けるように撃ち抜かれた。たったふたりながら、雨のような銃弾がサンダラーから放たれている。
「……馬鹿め!」
 そのライフルを持つ腕に、蛇の影から飛び出した狼が飛びついた。サンダラーの腕が顎に砕かれる、異様な音が響いた。
「……今度こそ、やあーっ!」
 大きく旋回した雛菊が、勢いよく突撃。腕を封じられたライフル使いの体を大きく突き飛ばす。
「やれ、ライラ!」
 ザッハークの叫びに合わせて、狼が低いうなりを上げる。それを目印に、屋上から影が飛び出した。
「お任せあれ……はあっ!」
 踊り子のように体をひねって着地したライラ・メルアァ(らいら・めるあぁ)が、杖でポーズを取るように銃口をサンダラーの狙撃手に向けていた。
 ドンッ。
 重い音を立てて、その弾丸が頭蓋を貫く。ぐらりと、狙撃手の体が傾いだ。
「……だめ押しだ!」
 政敏の放った弾丸が、倒れた狙撃手の胸を撃ち抜く。政敏は油断なく身を伏せたまま、リーンに告げる。
「道案内を。まだ拳銃使いは狙ってくるぞ!」
「オッケー、逃げるわよ!」
 リーンが示す方へ、契約者が走る。ジェニファーは影に隠れながら悔しげに顔を歪める。
「待って、今がチャンスなのに……」
「無理だ、走るぞ!」
 緑郎が先に立って駆け出す。拳銃使いの銃が、緑郎を狙う。路地に飛び込みざま、その弾丸が脇腹をかすった。
「……ぐっ!」
 転がる緑郎のもとへ彼のパートナーたちが駆け寄り、共に逃げ出す。
「あいつら……」
 囮になって拳銃使いを引き寄せてくれているのだと気づいたジェニファーは、唇を噛みながら、別方向へと走り出した。