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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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第5章

「ここが……」
 荒野をひたすすみ、夕陽が傾きはじめた頃。到着した場所に、閃崎 静麻(せんざき・しずま)がぽつりと呟いた。
 眼前には、廃墟をいくつも合わせてより怪しく仕上げたような、異様な雰囲気の建物。特別汚れているわけでもないのに、なぜか退廃的な雰囲気を放っている。
「財宝の眠る遺跡ね!」
 氷見 雅がびしっと腕を振り上げた。……同行している皆の視線が、じっと向けられる。
「もしかして、ワタシたちだけ目的がずれてるような気がするのです」
 雅の隣で、タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)が呟いた。
「とにかく、中に入ろう。大いなるものに冠する手がかりが見つかるかも知れない」
 武神 牙竜が入口らしき場所を示して、言う。
「それでは、私が先に向かいましょう。私が中の様子をメモリーに記録すれば、後で再生できますから」
 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が、数名の斥候と共に中へ入る。多少窮屈そうに、肩を狭めて進む。
「では、ワタシも」
 タンタンがその背に隠れるように続く。ふらりと、契約者たちも、列を作って続いていく。
「……猛々しき賢者、と書かれているわね」
 壁に書かれた字を眺めた雅が呟く。ごそごそと、調査報告書にまとめられたこの土地の文字と照らし合わせながら読み上げる。
「……大いなるもの? をこの遺跡に封じた……ここにあるのは一部だけだ……」
 呟きながら、雅の瞳がぱっと輝く。
「多額の財宝がここに! しかも、まだまだたくさんあるなんて!」
「いや……教えてあげたほうがいいのか?」
 その様子に、キルラス・ケイ(きるらす・けい)がぼつり。なにやら大がかりな調査をするようなのでついてきた彼だが、さすがに雅のテンションの高さと目的のズレには驚きを隠せない。
「いや、彼女にとってはそれこそが目的なのだ。自分のなすべきこと、なしたいこと……それを目指して何が悪い」
 最後尾で後ろを警戒していたヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が、キルラスの呟きに腕を組んだまま答える。
「あんた、その口調で言えば納得してもらえると思ってないだろうな?」
 疑わしげに目を向けるキルラス。その間も、ずんずん進んでいく。拍子抜けするほどに、遺跡は静だ。
「誰かが、先に来たみたいですね。あの本を書いた調査隊かな?」
「そこまで昔でもないみたいだけどね」
 緊張感がかなり抜けて来たらしく、軽い調子でロザリンド・セリナとテレサ・エーメンスが言葉を交わしている。
 と……
「待って。……この先、嫌な感じがする」
 大きな扉らしきものの前に立ち止まり、龍ヶ崎 灯がぽつりと呟く。リュウライザーは立ち止まり、ふむとうなった。
「……皆様、遺跡を傷つけたくはありませんが、一応、武器の準備を。……よいですか?」
 一同がそれぞれに武器を構えるのを見て、リュウライザーは自らも片手にガトリングを握ったまま、ドアを押し開ける。
 瞬間、異様な気配がドアの向こうから溢れてきた。イナンナの加護を受けた灯以外にもはっきりと感じられるような異質感。そこには……
「こいつは……銃、か?」
 静麻がおそるおそる、中をのぞき込む。がらんとした倉庫のような空間に、無数の銃が積まれている。さながら武器庫だ。
「ハンドガンに、ライフルに……ショットガンやマシンガンもあるぞ。すごいッスね!」
 その量に驚いたシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が、部屋の中に足を踏み入れる。
「待て!」
 引き留めるヴァル。じわ、とその額に汗が浮かんでいる。
「これが……これが、正体か」
「正体……大いなるものの?」
 聞くテレサに、灯が首を振る。
「いえ……たぶん、これは大いなるもののごく一部……封印が弱まって、こぼれてきたものなんだわ」
「よくわかんねーけど、どういうことだ?」
 キルラスが聞くと、牙竜が周囲を示す。リュウライザーが同様に見回して、部屋の中を記録。
「どうやら、この遺跡……この場所が、大いなるものの封印をしている場所に違いないらしい。だが、徐々に封印は弱まっている……」
「それなら、大いなるものは自分の力を増すために何かをしようとするはずですね?」
 と、ロザリンド。
「おそらくは、この銃がそうです。……この銃が何かをすることで、大いなるものは封印を破ろうとしている……」
「でも、銃の使い道って言ったら、何かを撃つことだけッスよ」
「よくわかんないけど、何かを撃ちまくればそのお宝が出てくるわけ? さすがにそういうの、感じ悪いわね」
 シグノーの言葉に、雅が肩をすくめる。ヴァルが眉間に深いしわを寄せた。
「もし、我々より先にこの遺跡に来たものが銃を手に入れたとすればどうだ? この遺跡の場所は、市長の持っていた地図で分かった。そして、サンダラーは市長が雇っていた。
 ……もし市長が、サンダラーをこの遺跡に向かわせたことがあるとしたら」
「そういえば、大いなるものは負の感情から生まれるんだったか?」
 キルラスが軽い調子で言う。
 しばしの沈黙。
「サンダラーが人を撃ち殺すことが、大いなるもの復活の儀式になってるんだ!」
 誰からともなく、推理の結論が口をついて出た。



 焼け跡と化したダウンタウンを、巳灰 四音(みかい・しおん)は歩いていた。逃げ遅れた人が、万が一生きて残っているかも知れないからだ。
 それに……
「あっ!」
 四音が声を上げる。路地に倒れているのは、ボロボロの包帯に破れたポンチョの人物……サンダラーの拳銃使いだ。ハットは風にどこかへ飛ばされているようだ。
「大丈夫!? そんな……みんなと戦ったんだ……」
 全身にひどい傷を負っているサンダラーは、動く様子すらなかった。四音はがっくりと肩を落とした。
「……もっと話をして、仲良くなりたかったのに……やっぱり、敵として戦う事しかできなかったの……?」
 涙をこぼしながら呟く四音。その視界に、サンダラーの銃が映った。
「……せめて、安らかに……」
 そっと、四音はその銃をサンダラーの胸へと戻す。
 瞬間、ぴくりとサンダラーの体が動いた。
「……えっ?」
 驚いた瞬間。四音は自分の額を撃ち抜く弾丸が放たれる音を聞いていた。



 同じ頃……ジャンゴのアジトに向かっていたブラット・クロイチェフ(ぶらっと・くろいちぇふ)もまた、サンダラーのライフル使いによって胸を撃ち抜かれていた。
「ば……かな、死んでる……はず、だ……」
 目を見開き、血を吐きながらブラットはうめく。
 狙撃手は答えもせず、その心臓に向けてもう一度、引き金を引いた。