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天下一(マズイ)料理武闘会!

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天下一(マズイ)料理武闘会!

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第一章 キッチンの ほうそくが みだれる! 1

「ネタ料理大会はっじまるよ〜♪ テレビの前の皆は常識を捨てて細かいことは気にしない精神で見てね☆」

「天下一料理武闘会」のオープニングのセリフを任された……というより、どさくさにまぎれてぶんどったのは鳴神 裁(なるかみ・さい)であった。
 ……いや、あるいは彼女に憑依している奈落人の物部 九十九(もののべ・つくも)だったのかもしれないが、ぶっちゃけこの二人はほとんど性格からして同じなのでほぼ区別のしようがない。

「……って、選手の方はご自分の持ち場に戻ってください!」
 不意打ちで最初のセリフをかっさらわれた卜部泪(うらべ・るい)が、大慌てで裁を追い払う。
「失礼いたしました。さて、いよいよ予選開始間近となりました『天下一料理武闘会』。すでに出場選手の皆さんが続々とキッチン入りし、その腕前を振るっています」

 そう、この大会は一応チーム参加も可能なのだが、ほとんどのチームが少人数で、個人で参加している選手も少なくない。
 そういった選手への配慮もかねて、バトルロイヤル開始前に「クッキングタイム」が設けられたのである。
「それでは、さっそくキッチンの森下さんを呼んでみましょう。森下さーん?」





 映像が切り替わった次の瞬間、番組の視聴率が一気に急降下した。
 当然だろう。
 メイド服を着た身長2m強の巨漢が、鍋に向かっててでハートマークを作りつつ「おいしくな〜れ♪」などと叫んでいる様子を映すのは、出オチを通り越して普通に放送事故以外の何物でもない。
 この漢、冥土院 兵聞(めいどいん・へぶん)が鍋で煮詰めているのは特製のうな丼のタレである。
 それはいいのだが、調理台の上に並んだメープルシロップとハバネロソースの瓶、そしてゴーヤの「わた」の部分などは一体何を意味しているのであろうか?
 ……いや、わかる。わかるのだが、わかりたくない。
 わかりたくないので、わからなかったことにして、カメラは次に向かう。

 次に映ったのは、エプロン姿の二人の女性――セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)であった。
 しかもただのエプロン姿ではなく、それぞれエプロンの下はビキニとレオタードなのである。
 おわかりいただけるだろうか。
 身体にピッタリ密着したレオタードや、その上さらに布地の少ないビキニであれば、真っ正面からカメラにとらえた場合、その全てがエプロンで覆い隠されてしまうのだ。
 一応さらにその上からロングコートなんかも羽織ってはいるが、それは主に身体の側面と背面であり、エプロンとはカバーする場所が違う。
 つまり……いや、この何がどう刺激的であるのかをいちいち語るような野暮はよそう。
 紳士諸君にはすでにここまでの描写で十分であろうし、それ以外の人々は……彼女たち自身よりも、むしろ彼女たちの前に置かれた大鍋の方に注目していただろうから。
「セレン、なんでいきなりお米入れるのよ!」
「ん?」
 見るに見かねて、といった様子で声を荒げるセレアナを、セレンフィリティは満面の笑顔で見つめ返した。
「そもそも、どうしてシチューにお米が必要なのよ……」
 そう、彼女が作っていたのは「シチュー」だったのである。
「普通のシチューじゃつまらないでしょ? あたしの料理の実力を世に示す絶好のチャンスなんだし」
 ご機嫌な様子で応えるセレンフィリティ。
 確かに、軍で支給された各種レーションを片っ端から放り込んだり、ロクに下処理をしていない海産物各種に塊のままの肉、大量の野菜や調味料に加えて駄菓子や牛乳まで放り込んだりしたその料理は、すでにシチューというよりただの闇鍋と化しており、彼女の「実力」を、彼女の思惑とは全く別の方向性ではっきりと示している。
「んー。ここにワインと……日本酒と紹興酒も入れちゃいましょ」
 セレアナが止める間もなく、闇鍋の闇がよりいっそう深くなる。
「ああ、もう知らないんだから……」
 浮かれ気分でどんどん謎料理を悪化させていくセレンフィリティの横で、半ば涙目でつぶやくセレアナ。
 そんな彼女のアップを最後に、映像が再び切り替わった。

 さて、すでにお分かりの通り、謎料理の最大のお友達は「鍋」である。
 とりあえず何を入れても煮込めるので何とかなる、その大雑把……いや、懐の大きさが、謎料理の跳梁を許す……もとい、料理人の個性を最大限に発揮させてくれるのである。
 そして、こちらにも大鍋にぐらぐらと湯を沸かしている参加者が一人――泉 椿(いずみ・つばき)であった。
「さて、麺をゆでるのは食べてもらう直前にして……っと」
 鍋の近くに積まれているのは生麺の入った箱。
 椿が作ろうとしているのは、以前彼女がパートナーとともに、というか主に彼女のパートナーが作って大好評を博した「イケ麺」であった。
 故に、基本的にはおいしくなるはずなのだが……ほとんどの場合、謎料理が誕生する最大の原因は「勝手にレシピに手を加える」ことである。
 そしてもちろん、この場合もその例に漏れなかった。
 取り揃えられた具材のテーマは「秋の味覚」。
 しかし百歩譲ってサツマイモあたりまではわかるとしても、りんごや梨やぶどうなどの果物類をそのままトッピングするのはいかがなものだろうか?
 あげく、栗をイガごと飾ろうという発想もとんでもないし、そこから「何となくウニっぽく見えた」という理由で海産物を混ぜ込もうとする思考の玉突き事故がさらなるカオスを予感させる。
「ま、下準備はこんなところか」
 下準備だけでもこれである。はたして実際に料理されたらどうなってしまうのだろうか……?