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我が子と!

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我が子と!

リアクション

 
 「もう大丈夫だ!次のフロアに進める!先に行け!!」
 「ありがとうございます!行こう詩音!」
 「うん!」

隔壁を破壊し、警備システムを一掃したのを確認して林田 樹(はやしだ・いつき)が後方に呼びかける
言葉を聞いて騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と娘の詩音が手を取り合ってフロアに飛び込んだ

アダムと出会ったときは穏やかな雰囲気だったセントラルビル内も今はダンジョンと化している
敬愛する【アイシャの騎士】を名乗る流石の詩穂もそのトラップと暴走した警備システムに苦戦し
子どもを守りながら戦うという行為に慣れず、苦戦のあまり前に進めずにいた

そこへ樹達が助けに入り、事情をきいて一緒にビル内を進んでいたのである
フロアに入ると、警備兵を一掃し終わった緒方 章(おがた・あきら)と息子らしき少年が彼女達に呼びかける

 「最上階への非常階段はこの先だ、ルートはこの広いエントランスを抜けるしかない、急ぐぞ」
 「わかった、ありがとう!」

詩穂に続いてありがとう……といいかけ、詩音は瓦礫と埃にまみれた手をはたいてる少年と目があった
少年は無邪気ににこっと笑って彼女に親指を立てる

 「俺、とーちゃんとかーちゃんの息子!拓ってんだ、よろしくな!」
 「わたし、詩音……よろしくね!」

ぺこりと頭を下げる詩音の後ろで、樹が近づきながら大きな声で拓に怒鳴るのが聞こえる

 「拓!ここは戦場だ!身内とはいえ気安く親を呼ぶな」
 「うっせーな!とーちゃんはとーちゃん、かーちゃんはかーちゃんだろ?
  それともしっかり自己紹介してやろうか?俺は林田樹と緒方章の子で〜すって」

途端に遠くからでも解るように樹の顔がぼんっ…と赤くなるのが見えた
変って章の方は動揺せずに、ため息をつき追いついた林田 コタロー(はやしだ・こたろう)に声をかける

 「まったく、コタ君のお願いとはいえ、とんでもない事になりましたね。現実よりも賑やかですよ」
 「だってこた、おとーとがほしかったんれす」

場を完全に無視して照れるコタローに、拓が話しかける

 「ずっと弟弟って言うけどさ、俺の方が大きいじゃん?こたろ、お前何年生だよ?」
 「う?…こた、いちにぇんしぇー」
 「勝った〜俺6年!だからお前がいもーと、ハイ決まり〜!…って〜、何すんだよかーちゃん!」

勝ち誇った刹那、背後から樹の鉄拳報復を受けた拓が涙目で抗議する
先程の赤面もなんのその、毅然とした口調で拳を掲げて樹が拓に吼える

 「馬鹿者!理由が何であろうと年長者が年少者を泣かせた場合は、年長者が悪くなってしまうのだ!
  例えふざけていたとしても、そのような下らない丈夫で自慢はするんじゃない!
  …それとコタロー、お前もワガママが過ぎるな
  例え仮想の世界でも、何でも思い通りになるわけではないのだぞ!」
 「…あい、わかったれす、ねーたん」

しょげるコタローと拓を見て章が苦笑する

 「ははっ、樹ちゃんらしい指導の仕方だなぁ
  まぁ最も、その思い通りを通そうとしてる子がいるんだけどね」
 「ごめんね、完全にほったらかしにして…大丈夫?」
 「え?あ…はい!」

突然振られて詩穂は戸惑ってしまう
……だが一番戸惑うのは、この会話が相当なスピードで走られながら行われているという事
それもケンカしてるようにみながら、巧みに前衛と後衛を入れかえている
それは徹底したフォーメーションの様でもあり……まるで……

 「……楽しく遊んでるみたい」

自分浮かんだのと同じ言葉を詩音が言った。それに苦笑しながら章が詩穂達に呼びかける

 「気を緩めないで下さい詩穂さん。邪魔するのがここの警備システムだけとは限りませんから」
 「え?それってどういう」
 「この世界を望む人間が修復を許さない……そんな事もあるかもしれません
  …特にあの『先生』だけは、要注意、ですね」
 「……?」

章の最後の聞き取れない言葉に首を傾げる詩穂
だが彼の予想を具現化するように、コタローの【ユビキタス】が警報を鳴らす

 「ねーたん!したのふろあーからふくすーせんとうのはんのうがあるお!こっちにくるお!」


刹那、轟音と共に床が割れ七尾 蒼也(ななお・そうや)ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が飛び出す
追う様にでてきた大勢の警備兵が二人に向かって飛び掛る刹那

 「「そこっ!!」」

床下から放たれた親子ほどの大きさの二つの【真空波】が飛び出し、警備兵を一掃する
その後に技の主……月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)と娘の愛が飛び出して、蒼也達の前に降り立つ

 「どうやら、我々以外にここを目指す連中も集まって……」

………そして援軍を頼もしく語る樹の動きが止まった
その表情は硬く、眼差しは床の穴からゆっくりと出てくる影を射抜くように見据える

 「ようやく会えましたね、イツキ」
 「………驚いたな、貴様とここで出会うことになろうとは」
 「ここの趣旨を考えれば当然でしょう?ボクが求めている物が何か?知っているはずですよ?」

邂逅するなり向けられた樹の殺意の視線
それをアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は両手を広げて受け止める
凍てつく空間の中、キリカ・キリルク(きりか・きりるく)と息子に守られながら
ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)と娘のティナ、ひっつきむし おなもみ(ひっつきむし・おなもみ)
フロアにあわられ、詩穂達を見つけて駆けつけてきた

 「気をつけてください!
  アダムだけでなく第3者によって通路を含む警備システムがコントロールされてます
  恐らく……」
 「わかっています、恐らく【情報攪乱】……あの男の仕業ですね
  つまり、あの人はアダム側に付いている……そういう事ですか」
 「貴様……どういうつもりだ!」

ジーナの呼びかけに章が答えて警戒し、樹が激昂する
それぞれの言葉を受けてアルテッツァが嬉しそうに答える

 「だから言っているでしょう、求めている者はあなた達と同じ……自分の子です」

そして彼の言葉を待っていたかのように一人の少女が現れた

 「ご紹介致しましょう、彼女の名はチセ。私と……あなたの子ですよ、イツキ」

成る程……と章は胸の内で納得する
このシュミレーターはイメージさえあれば片親でも成立する。その場合イメージは自由だ
故に、相手が同じになる可能性もある……よってこの様な悪夢のような【if】同士の邂逅もあり得るのだ

 「全く、悪趣味な事この上ないですね」
 「あ〜ら?先生が悪趣味なのはいつもの事でしょう?」

章の声に応える様に、続けて現れたのはパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)
チセの頭を撫でながら彼女は話を続ける

 「可愛らしいでしょう?…でもそこの子どもよりずっと根性は座ってるのよ、うふふっ♪」
 「そう、可愛いんですよ。これがボクの愛ですよ?
  ボクはね、どのような姿になってもいいから、イツキ、キミが欲しいんです
  だからよ〜くわかるんですよ、アダム君の叫びがね。
  だって消したくないじゃないですか?こんな大切な宝物……ねぇ?」
 「そうね、ワタシはダディと一緒にこの世界で暮らしたいなと思ってるの
  マミィも一緒にいてくれると嬉しいんだけど…」

アルテッツァの言葉に嬉しそうにチセが応える。仲睦まじく禍々しく父子の会話は続く

 「だからボクはアダム君に協力する事にしたんです
  彼の支配下の警備システムに介入し、妨害を強化してみたんですが……いやはや皆さんお強い
  このままだと、ボク達が直接手をくださないといけなくなるんですよ
  そんな事でボクは娘を傷つけたくないんです、だから………」

突如鳴り響く銃声で彼の会話が止まった
銃口を向け、明確な殺意と拒絶を言葉に込めて

 「…私に張り合おうと思い上がるでない、このド三品が!
  貴様は、私を得たいのか?それとも、過去を壊したいのか?どっちだ!
  いいやもうそんな問いも必要ない……手加減せぬから覚悟しろ!」
 「さすがマミィ……でもどうであれ、あたしのヤルコトは変わらないわよね、ダディ☆」

殺意を受けて、チセが容赦なくで母ある対象に【アルティマ・トゥーレ】をかけた銃弾が炸裂する
膨大な粉塵の中、ひゅうと口笛を吹いて感嘆するパピリオにチセが呟く

 「ダディとマミィの娘だもの、これくらい出来てトーゼンよ」

だがその粉塵を衝撃が切り裂き【スナイプ】の銃弾が彼女とアルテッツァに向けて放たれる
ヴァルの【黒曜石の覇剣】の斬撃と樹の攻撃だった

 「行け、詩穂殿!ここは我々が何とかする!」

パピリオの【サンダーブラスト】をコタローの【耐電フィールド】でカバーしながら樹が叫んだ
【疾風突き】の態勢を取りながら章が拓に呼びかける

 「拓!護衛を頼みます!彼女達を守ってあげなさい!」
 「……わかった!とーちゃん!かーちゃん!頑張れよ!」

ヴァルも息子に背中を向けながら語る

 「お前も行け!この世界の者同士として対話を果たせ
  見事一人で大儀を貫く事ができたなら……その時は遠慮なく呼んでやろう、お前の名を!」

その言葉に黙って頷き、後押しするキリカを見て息子は一礼をして拓と共に詩穂と詩音の元に向かう
彼女らの前で【銃型HC】で位置とルートを再確認した蒼也親子が隔壁をこじ開けた

 「俺が案内する、もう少しだ!行こう!!」
 「そうはさせませんよ!」

アルテッツァの言葉で蒼也や詩穂たちの前に新たな警備兵が立ち塞がる

 「愛、力を合わせて!」
 「「レンズを奴の眉間に定て!Wラブレンズマイト!」」

だがそこにあゆみと愛の親子の声が重なり【ビームレンズ】が炸裂!警備兵を一掃した
フロアの方でも未だ戦闘音と衝撃が鳴りやまず激戦を繰り広げている
それに背を向けながら、詩音があらん限りの声で最上階に向かって叫んだ
膝を抱えたあの男の子に少しでも声が届くように……


 「アダムくん、もうやめて!こんな哀しいこと。このままじゃアダムくん寂しすぎるよ!!」