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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

リアクション

「すまない。そっちを抑えてくれるか?」
「はいれす。こた、がんばるれす!」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は、【機晶技術】を駆使してキリエに応急処置を施した。
「これでどうれすか? きりーしゃん、すこしうごいてくださいれすお」
 コタローに言われてキリエが足を動かす。
 すると、先ほどまでカクカクと動いていた足が、すんなりと動くようになっていた。
 離れた位置で様子を窺っていた生徒達もホッと胸を撫で下ろした。
「あくまで応急処置だからな。根本的な部分はちゃんとした施設で治すしかない。キリエが望むなら俺達が送り届けてやるが……」
 顔を覗きこみながら尋ねてくるダリルに、キリエはゆっくりと首を振った。
「本当にいいのか。後悔するかもしれんぞ?」
「そうだぞ。生きていれば、楽しい事が色々とあるぞ」
 ダリルに続いてエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が説得に入るが、キリエは一向に首を縦に振らなかった。
「まぁ、どうしても嫌なら無理強いはしないが……もし、もっと生きたいとか思っても知らんぞ」
 エヴァルトの鋭い目つきに、キリエの肩がびくりと飛び上がった。
「こら、あんまりキリエを睨まないの!」
「俺は睨んでつもりはないぞ。この目は昔からなんだ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)に叱られ、エヴァルトはやれやれと肩を竦めた。
 ルカルカの横を通り過ぎて、夏侯 淵(かこう・えん)がキリエに近づく。
「なぁ、ぬしよ。少々、尋ねたいことがあるのだが、よいか?」
 正面に立った淵は腰に手を当ててキリエを見下していた。
「ちょっと、淵もそんな高圧的な態度じゃ、キリエが怖がるでしょ!」
「ん? そんなことはないと思うのだがな……」
「いいから、男どもはあっちいってなさい」
 ルカルカは淵を睨みつけると、手を振って退散を命ずる。
 エヴァルト、ダリル、淵は顔を見合わせると、面倒そうしながら壁際へと引き下がった。
 改めてルカルカはキリエの前にしゃがみこんで話しかける。
「キリエ。ルカ達はキリエや大広場の騎士、それにここで研究をしていた人達のことも知っておきたいと思っているのよ」
「創られた魂は通常自傷や自殺が出来ない仕組みだ。だから終りを願うしか出来ない。キリエが今まで自ら命を絶たなかったのはそのおかげだろうと考えているからな」
 腕を組んだダリルは抑揚のない声でルカルカの話に補足した。
 ルカルカは咳払いして話を戻す。
「だめ、かな?」
 キリエは暫し、逡巡していた。だが、ゆっくりルカルカの質問に答え始める。
「広間の首のない騎士様の名はレイゼル様ちょよ。現在あゆむと呼ばれている女性のお兄様に当たった方ですちょ」
 室内にいた全員が驚きの表情を浮かべていた。
「あいは皆さんが≪首なしの豪傑騎士≫と呼んでいるお方……レイゼル様に仕えていたちょよ……」
 キリエは自身が、≪首なしの豪傑騎士≫レイゼルと彼の妹であるあゆむに仕えていたと話した。
 だが、兄であるレイゼルは機晶石で動いているようには見えない。
 ルカルカがそのことを指摘すると、キリエはこの場所で何が行われていたかを話した。
「この研究所では物に記憶を移行する事で永遠に生きる……『不老不死』の研究が行われていたちょよ」
 研究は薬物、人体改造、魔法による実験、あらゆる人権を無視した実験を行っていた。
 その結果、多くの人は肉体、精神を壊し、大半が亡くなった。
「あい達もアイツのモルモットにされ、元の肉体を失ったちょよ」
 元々は普通のシャンバラ人だった彼らは、人体実験によって、あゆむとキリエは機晶石に、レイゼルは鎧に記憶を移し替えられたのだと言う。
 暫く、室内に思い沈黙が流れた。
 すると唐突にエヴァルトがドアに向けて歩き出した。
「おぬし、どこにいくのだ?」
「研究に使われた資料が残っていないか探してみる。身体を元に戻す方法が見つかるかもしれないからな」
 エヴァルトは淵に返答すると、止めていた足を動かして部屋を出て行った。
「ルカ、俺もいってくる」
「こたもおともするらよ」
 ダリルとコタローも後を追って部屋を出て行った。
「じゃあ、私達はお洋服を作りましょうか!」
 重い空気が再び戻りそうになる中、ジーナが手を叩いて場の空気を変えようとした。
「ワタシはキリエ様にお似合いの可愛いお洋服を作りたいと思いますわ」
「そうですね。一緒に素敵なドレスをプレゼントしましょう」
「ああ、俺達も協力するぜ」
 様子を伺っていた白雪 椿(しらゆき・つばき)健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)達がジーナに続く。
 ジーナは近づいて、ひんやりしたキリエの手を優しく握る。
「キリエ様はどんな感じの服が好きですか?」
 キリエは戸惑いながらも、ジーナの質問に答えた。
 その話を聞きながら、椿と天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が話し合ってデザインの意見を出していく。
「意見を取り入れるとこんな感じでしょうか?」
「やっぱり白とピンクが可愛くていいですよね」
「いいですね。きっと、キリエさんにすごく似合いますよ」
 楽しそうに笑って話しをする椿と咲夜を見て、キリエの表情が少しだけ柔らかくなる。

「カルミも魔法少女に変身してアイデアを考えるのです!」

 魔法少女の衣装で登場したアニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)はその場でクルッと一回転すると、小さな拳でこめかみをコツコツと叩いてアイデアを捻り出す。
 ふいにカルミの頭上に電球が光ったような気がした。
「おお、ひらめいたのです! ドレスと言えば、やはりフリルなのですね!」
「あ、フリルでございますか? 凄く可愛くて綺麗ですね!」
 カルミの発言に天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が同意する。
「そうですわ。ご主……健闘さんはどう思いますか?」
「うん。俺も可愛くていいと思うよ」
 勇刃は「ご主人様」と言いそうになった咲夜に苦笑いを向けていた。
 そこへ咲夜がやってきて、背後で手を組みながら勇刃の顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
「ねぇ、健闘くんの意見、もう少し聞きかせてもらえませんか?」
「おう、いいぜ」
 快く了承する勇刃。
 すると、咲夜がありもしない眼鏡を持ち上げるような仕草をして質問をたたみかけてきた。
「じゃあ、好きな色と好きな衣装、後好きなシチュエーションとかありますか?」
 勇刃は戸惑いながらも、咲夜の質問に一つ一つ丁寧に答えていた。

 キリエから聞き出した話を取り入れつつ、ドレスのデザインが完成した。

 友見とカルミが、実験を思い出して震えるキリエを落ち着かせながら、サイズを測った。
 咲夜が勇刃と協力しながら生地を切っていく。
 それをジーナと椿が縫い合わせ、生徒達はキリエのドレスを完成させるため、イキイキと作業を進めていった。

 気が付けば室内にはたくさんの「笑顔」で溢れていた。