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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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第四章 弱き者と強き者

「はあっ、はあっ、はあっ……どうして……どうして……」
 高峰 雫澄は、走っていた。
 心の中に絶望を飲み込んで。
 目の前で、人を殺された。
 差し出した手を、切りつけられた。
 奇跡的に、話に耳を傾けてくれた人はそのまま殺された。
 そして今、雫澄は逃げている。
「待って、待って。あなた円ちゃんに話しかけたでしょう円ちゃんを狙ってるんでしょうだったら許さないから!」
「歩ちゃん……」
 追いかけているのは包丁を手にした七瀬 歩(ななせ・あゆむ)桐生 円(きりゅう・まどか)
(もう、もう駄目だ……)
 茂みに隠れるように、座り込んでもたれかかる。
 その手には日本刀。
 がさり。
 音がした。
 茂みの中から手が伸びる。
 雫澄の包帯が巻かれた手に、触る。
「うわあああああああっ!」
 夢中で、日本刀を茂みの中に刺しこんだ。
 何度も、何度も。
 やがて茂みの中からは、チョコレートが流れ出る。
「あ……やっ、た……」
 日本刀を抱きしめるようにして、雫澄は茂みに手を伸ばす。
 ごろり。
「え……」
 中から出てきたのは、雫澄が知っている顔。
「そんな……嘘、だ……」
 つい先程まで雫澄と会話していた、高峰 結和だった。
「あ……け、が……」
 結和はチョコレートにまみれた手を雫澄に伸ばす。
 しかしその手はチョコとなりどろりと崩れ落ちた。
「あ……あああああ……」
 声にならない声が、雫澄の喉から絞り出る。
 ころころと、雫澄の足元に何かが転がってきた。
 雫峰は、それが何だか認識できない。
 いや、たとえ認識できたとしても、何もできなかっただろう。
 ダイナマイトだった。
 チョコレートとなって散らばる雫澄を、嬉しそうに笑いながら見ている人物がいた。
「くっくっく……汚い花火ですね」
「余計な事をしないで!」
「煩いですね。これも、私と主の未来のため……」
「荒神とあたしの未来に、キミは不要なの!」
「いいから、行こう。ボートを目指して」
 ダイナマイトを使ったのはアルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)
 主である神崎 荒神(かんざき・こうじん)のためと主張して、アルベールは事あるごとに蒼魔 綾(そうま・あや)と反発していた。

「円ちゃん、あの人たちも、殺す?」
「歩ちゃん、いいんだ、もう。ボクの為にそんな事しなくても……」
「それとも、ボート行く?」
「そうだね、早く脱出しよう……」

 弱き者は死んでゆく。
 そして、強者はボートを目指す。





 高峰 結和:死亡
 高峰 雫澄:死亡