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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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【2022バレンタイン】病照間島の死闘

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第六章 告白

「あははははははっ! 死ね死ね死んでください!」
「死ぬのはあなたよ……お馬鹿さんね」
 御堂 椿(みどう・つばき)の振り回す鉈を、エヴェレット『多世界解釈』(えう゛ぇれっと・たせかいかいしゃく)がナイフで受ける。
 ガキリ、ガキリと硬質な音が響く。
「あああ……シュバルツ、頑張って。私、役立たずでごめんね」
「ま、俺たちを襲ってきたんだから椿にやられても自業自得って奴だ」
 瞳に涙を滲ませながらエヴェレットを応援していた東雲 いちる(しののめ・いちる)は、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)の言葉にきっと彼を睨みつける。
「お、襲ってきたって……あなたたちが、私達に突然襲い掛かってきたんじゃありませんか!」
「大丈夫……愛してるわいちる。どんな攻撃が来たって私が貴女を守ってあげるわ。すぐに、この女もそこの男も殺してあげる」
 ナイフを閃かせながら、それでもエヴェレットはいちるに言葉をかける。
「シュバルツ……頼ってばかりで、ごめんね」
 いちるの顔が曇る。
 本当は、誰とも戦いたくないのに……
 そんないちるの心を見透かしたかのように、エヴェレットは言葉を続ける。
「優しい優しいいちる。優しい貴女は誰かを殺すなんて嫌だと思うけど」
 ガキッ。
 エヴェレットを狙った椿の鉈が、彼女が避けたことで後方の木に突き刺さる。
 一瞬動きが止まる椿。
「……誰かにいちるを殺されるくらいなら、私は、殺す!」
 エヴェレットがナイフを振り上げる。
「いちる。見ててください……いちる!?」
 エヴェレットの手が止まる。
 ほんの数秒前、言葉を交わしていた愛するパートナー、いちる。
 彼女の姿が跡形もなく消えていた。
「……いちるを何処にやったあああああ!」
 目の前の椿を放り出し、マクスウェルに向かって走り出すエヴェレット。
 かしゅ。
 その首から、チョコレートが拭き出した。
 鉈を引き抜いた椿が、エヴェレットの首にそれを突き立てていた。
「あああ……い、ちる……」
「ウェルさんを傷つけようとする人は、許しません! 死ね、死ね、もっと死ね!」
 椿が数度切りつけると、エヴェレットの首はチョコレートとなって地面にぽとりと落ちた。
 それだけでは収まらず、何度も何度もそのチョコを鉈で破壊し尽す椿。
「死ね死ね死ね死ね死ねえええっ! ……さあ、ウェルさん、終わりました。……ウェルさん?」
 愛する主に褒めてもらいたくて、チョコレートまみれの顔を向ける椿。
 しかし、そこにはマクスウェルの姿はなかった。
「ウェルさん、主、どこ、どこに行ったんですか……ウェルさん!」

   ※   ※   ※

「……すぐに殺しちゃダメよ、カノン」
「ええ、分かっています、イリスさん」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)と設楽カノンの前には、二人の人間……いちると、マクスウェルが転がっていた。
 イリスが茂みに隠れて引きずり込んだのだ。
 二人ともまだ、息はある。
 しかし、二人にはあるはずのものがなかった。
 両足。
 少し離れた所に、4本のチョコレートが転がっている。
「ああカノン。あなた、すごくクールだわ。愛してる。私の為に、もっともっと切り刻んで」
「嬉しいです、イリスさん。イリスさんが喜んでくれるのでしたら、あたし、あたし、何でもやります!」
 カノンが嬉しそうに鉈を振り上げる。
「あ、あ、あ……」
 いちるの絶望の声が響く。
 ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ。
 右腕。
 左腕。
 そして首。
 頭が破壊される頃には、いちるの姿はなく、ただのチョコレート塊があるだけだった。

   ※   ※   ※

「ウェルさんを、ウェルさんを、どこにやったあああああっ!」
 椿が設楽カノンに襲い掛かる。
「カノン! カノンは僕が守るっ!」
「駄目です。レオさんは私が、私が守るんです!」
 身を挺してカノンを守ろうとする平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)の脇をすり抜け、カノンはピストルを構える。
「あたしのレオさんに近づくなあっ! 死ねえっ、この淫売があっ!」
 パン。
 パン。
 パン。
 パン。
 音がする度に、椿が躍る。
 その度に拭き出すチョコレート。
 全弾撃ち尽くした頃には、椿はチョコレートの塊になっていた。
「あははははっ。やりましたレオさん。大好きな大好きなレオさん。褒めて貰えますか?」
 返り血のついた笑顔をレオに向けるカノン。
 その曇りのない笑顔に、レオはつい心の呟きを漏らす。
「なんてことだ……カノンがヤンデレなんて」
 頭を抱える。
「あまりにもいつも通り過ぎて、全然動揺できないよ!」

   ※   ※   ※

「また誰かが通りかかったみたいですね。やりましょうか、カノン」
「ええ……あ」
 マクスウェルを解体していたカノンの動きが止まった。
 カノンの視線の先を見たイリスも、同様に動きを止める。
 そこにいたのは、カノンとレオ。
 カノンとカノンの視線が交差する。
「まずい、カノン、早く逃げよう」
 急いでカノンの手を取って走ろうとするレオ。
 しかしカノンは動かない。
 ゆっくりとピストルを構える。
 カノンも、鉈を構える。
「カノン……死ねえええええっ!」
「カノンこそ、死ね死ね死ね死ねえっ!」
 ピストルを撃つカノン。
 その弾を、鉈で弾き飛ばすカノン。
「カノン、止めるんだカノン! どのカノンでも……僕は、僕の目の前でカノンが殺されるのは嫌だ!」
「それじゃあ、見えないようにしてあげる!」
 レオの目が、顔がぐしゃりと潰れた。
 イリスが鉈でレオの顔を殴りつけたのだ。
「や、いやああああああっ!」
 カノンの悲鳴が響く。
 動揺のあまりピストルを取り落し、両手で目を覆うと叫び続ける。
「レオさんレオさんレオさんああああああっ……ぐっ」
 カノンの悲鳴が止まった。
 カノンが、カノンが落としたピストルを彼女の口にねじ込んだのだ。
「さっさと消えなさい、カノン!」
 乾いた音が響いた。




 東雲 いちる:死亡
 エヴェレット『多世界解釈』:死亡
 マクスウェル・ウォーバーグ:死亡
 御堂 椿:死亡
 平等院鳳凰堂 レオ:死亡
 設楽 カノン:死亡