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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●誰がために

 とても腹が立つ。
 打ち付ける刃に炎を乗せ、目の前の氷を砕こうとミルファ・リゼリィの体を乗っ取った剣の怨念は歯噛みする。
 誰かを助けたいがために、動く。
 なぜ。どうして。理解できない。
 助けたいがために付けた知識、力は、過ぎたるモノと疎まれ、果てには狂気の沙汰だとまで揶揄される。

(姉さんは、体のいい捨て駒として使われたんだ)

 ただ一人で皆と渡り合える力を持ってしまったから。
 そんな力を疎んで、姉は危険な戦いに借り出された。
 そうに違いない。そうじゃないとおかしいのだ。
 打ち付ける刃は目の前の氷を易々と溶かす。
 燃える恨み辛み、妬み嫉み。その全てを刃に宿る炎として振るう。

(ボクだって本当は、ただみんなを護る為に……)

 悔しさに滲む涙が、瞳から溢れ出す。
 しかし、冷気がその涙すらも凍てつかせる。

「はは……そうだよ。この凍った涙のように。ボクはもう復讐するしかできないんだよ!」

 もう何もかも考えるのが面倒だった。
 全て破壊して、無かったことにしよう。
 ここに村は無かった――
 そして、乗っ取っているこの子には悪いけれど、君も存在しなかった。
 それでいいじゃないか。

「そう、それで……いい……じゃ、ないか……」

 小さく上がる声に混ざる嗚咽。
 今は一人だから、か。
 それとも、周囲を囲まれた氷が、死に際を思い出してしまったから、なのか。
 でも、一度きりのこぼした雫で泣き言はおしまい。
 顔を上げたときにはもう、先ほどまでの狂気が浮かぶ笑みを湛えていた。

「さあ、壊そう。全てを。その思いは無駄だということを“証明”してあげようじゃないか!」

 高らかに上がる笑い声は、氷の檻の中に反響しているのだった。