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『しあわせ』のオルゴール

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『しあわせ』のオルゴール
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リアクション

 スノの事が気になっていたのは、柚たちだけではなかった。
「やあ! ボクと契約してお友達にならないかい?」
「わあ、かわいい!」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)の持っていたぬいぐるみが、スノに声をかける。
 彼女の式神の術で動き出したぬいぐるみは、スノの手を取ってアニスの元へ連れてきた。
「にひひ……えっと、おねーちゃんと遊ばない?」
「うん!」
 勇気を振り絞ってかけた声に、笑顔が返ってきた。
(よかった……)
 人見知りのアニスはほっと息を吐く。
 この学校には、任務のためにやって来た。
 それなのに、この子のことが気になって仕方がなかった。
 周囲の人間からつまはじきにされているこの子が、まるで少し前の自分のようで。
(アニスは、和輝に会えたから。でも、この子は)
 ぎゅっと、スノの手を握る。
「お友達に、なってくれる?」
「うれしい」
 そんな二人の様子を、ほんの少し離れた所から佐野 和輝(さの・かずき)は見守っていた。
 和輝自身、アニスと似た所があるスノを放ってはおけない。
 周囲の子供たちが彼女に何かしないかと、それとなく気を配っていたのだ。
 アニスと一緒になって遊ぶスノは、笑っていた。
 楽しげに。
 しかし、その様子は和輝の目にはどこか不自然に映った。
 和輝の目に映る違和感。
 それは、もしかしたら彼が追っている“仕事”と関係があるのかもしれない……

「よかったら、私ともお友達になってくれない?」
 アニスと遊んでいたスノの手に、ひとつの手が重なった。
(あ、このひとも)
 アニスはその手の主を見て、どこか心が共感するのを感じた。
(このひとも、アニスと同じ)
 アニスと同じく、スノの境遇に過去の自分を見た神崎 零(かんざき・れい)だった。
「私も、長い間一人で彷徨ってたの。でも、今は優のおかげでとっても幸せ。あの時、声をかけたおかげで」
「声を?」
「良かったら、俺達とお話しないか?」
 零のパートナー、神崎 優(かんざき・ゆう)がスノの隣に座る。
 真面目な表情の優を、スノは不思議そうな顔で見る。
「君は、もしかしたら周りから虐められてるんじゃないのかい?」
 いきなり本題を切り出した。
 優の言葉に、スノは少し戸惑った様子を見せる。
「えっと…… そんな事、ないよ」
「周囲から、はじかれてると感じたことはないかい?」
「ううん。みんな、やさしいよ」
 スノの言葉に、偽りの色はなかった。
「……それで、良いのか?」
「え?」
「君は今のままで本当に幸せなのかい?」
「……うん」
 僅かな間の後、頷くスノ。
 その瞳はどこか焦点が合わず、揺れている。
「それは、本当の幸せじゃない! 俺には分かる。それは、君の本当の気持ちじゃない」
 優はスノをそっと抱きしめた。
「今のままじゃ、君の心と体はボロボロになる。それはいずれ必ず君を、君の大切な人々を不幸にする。怖くても勇気を出して自分の気持ちを伝えなきゃ、前を進まなきゃ何も変わらないんだ。幸せは与えられるモノじゃない。自分でつかみ取るモノなんだ!」
 スノは優の言葉を黙って聞いていた。
 少し困惑しているようだったが、優の顔から視線を外すことはない。
「……今はまだ、俺の言葉は、本当の気持ちは届かないかもしれない。だけど、覚えていてくれ」
 スノの顔を覗き込むと、優は告げる。
「本当の幸せを掴もう。皆に友達になろうって伝えよう。大丈夫。俺達も一緒にいてあげるから」
「私も一緒にいてあげる。みんなとも友達になろう」
 零も、続ける。
 二人の言葉に、スノは無言のままだった。
 汗ばんだスノの手の中に、小さな四角い箱が握られていた。
「ね、スノちゃん、遊びましょう! もっと楽しくなるように」
 沈黙を破ったのは、柚だった。
 スノの手を取って、笑う。
「また、うたうおにいちゃんたちが歌い始めましたよ。歌いましょうか? それともお絵かき? ね、行きましょう」
(負けません)
 スノの手を握る手に力が入る。
(スノちゃんの心を締めているものに負けないくらい、楽しく遊んじゃいましょう)
「え、私、楽しいよ……?」
「お友達ができたり、恋したりしたら、もっと楽しくなりますよ」
「そうなのかな……」
「俺も、一緒に遊ぼう」
 魔鎧を纏い『ネクロ・ホーミガ』と名乗っている鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)も前に出る。
「『お姫様と騎士ごっこ』なんてどうだろう。俺がスノちゃんを守る騎士になる」
「わあ、すごい」
「よろしく、姫」
 スノの周りに輪が出来はじめた。
 その時だった。

 ガタン!

 大きな音がした。
 その場にいた全員が、そして数人が警戒をしながらそちらを見る。
 長尾 顕景(ながお・あきかげ)が、子供の机を蹴り倒した音だった。
「子供相手に何をやっておるのじゃ」
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が窘めようとするが、顕景は止まらない。
「いいや。私はただ『いじめ』がどういう事か、この子たちに教えてやっているだけなのだよ」
 数人の子供が、顕景の前で硬直している。
「なぁんで、机の上にこんなもん置いたりしてるんだ?」
 ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が子供たちの前に立つ。
 手の中には大小いくつかの石。
「う……」
「こんなもん置かれて喜ぶ子がいると思うのか?」
「やってみれば良い。ほら!」
 顕景がウォーレンの手から石を取り上げる。
 石を置いたらしい子供の机を確認し、ごん、ごんと上に置いていく。
「ほら、これで君たちも、晴れていじめられっ子の仲間入りだ。どうかな?」
「……」
 沈黙する子供たち。
「やめて!」
 小さな声。
 その声の主を確認し、顕景は少し意外そうな表情をする。
 顕景が確認する、いじめられていた張本人のスノだった。
「みんな、仲良くして」
 そう言うと、持っていた四角い箱を開けた。
「これを聞けば、みんな楽しくなるから。仲良しになれるから!」
 中から音楽が流れ出る。
「……これ、なんかまずい。みんな、耳を塞げ!」
 ウォーレンが野生の感で耳を塞ぐ。
 しかし、その場にいたほとんどの人物が間に合わなかった。
 恐怖に震えていた顕景の前の子供たちの表情が、とろんと呆けてくる。
「きれいなおと……」
「うん、なんだか、たのしいね……」
 教室に笑いが広がる。
「石、楽しいね。もっと置いて」
 顕景の手を取って笑う子供。
「お人形さん……そうか、ワタシが愛されているカラ、こんなに子供たちにいじられるんデスネ。もっと、もっといじってくだサイ!」
 嫌がっていた子供たちの中に飛び込むアリス。
 ぴちん。
 きゃはははは。
 夢悠が作らせた割り箸銃を打ち合って遊ぶ子供。
「ふふふ、良かった。子供たち、みんな、楽しそうね……」
「いや、なんかこれは喜ばしい状況じゃないよ!」
 嬉しそうな雅羅に、瑠兎子がツッコんだ。