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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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●空京:夜

「……ここは?」
 強大な魔力の奔流に、思わず視線を逸らした馬口 魔穂香が辺りを見回すと、先程まで見えていた空京の夜景ではない、なんとも異質な空間が広がっていた。少し先に進むと左にカーブしている道、そして左右と上下を囲まれた状態はまるで、巨大なチューブの中にいるような感覚を抱かせる。
「ダメッス、場所の特定ができないッス。こんなことが出来るのは――」
「……そう、あの子の仕業、ってわけ。一度じゃ懲りなかったのね。
 素直じゃない人ってキライなのよね、私」
「……それ、魔穂香さんが言えることッスかね? とにかく、事の元凶なはずの彼女を探してどうにかしないことには、ここから出られなさそうッスよ」
 馬口 六兵衛の言葉に、魔穂香が頷く。
「そういえばあの薄汚い着ぐるみ、バイクレースで勝負だなんて言ってたけど――」

 瞬間、魔穂香と六兵衛を無数のヘッドライトが照らし出す。
 眩しさの中、微かに見えたのは自らの『愛機』に跨り、エンジンを吹かすゆる族の集団と、彼らの先頭に位置するモップス・ベアー(もっぷす・べあー)の姿。

「さあ、勝負なんだな!
 誰にも、ボクら『ビッグ・ベアー』を抜かすことはできないんだな!」

 モップスの声を合図に、『ビッグ・ベアー』と名乗った彼らが一斉に走り出し、あっという間に魔穂香と六兵衛を追い抜いていく。彼らの中には銃火器で武装している者も少なからずいたが、この時点で発砲することはなかった。あくまでレースの中で決着を付けるつもりらしい。
「……見たッスか?」
「ええ、確かにあの子がいたわね。……面倒だけど、私のネトゲ時間を取り戻すためには仕方ないわ。
 行くわよ六兵衛、何かあった時はよろしく」
「理由が不純ッスねぇ……ま、やる気になってくれるならそれでいいッス。
 ……盾にするのは勘弁ッスよ?」
「さあ、どうかしらね」
 フッ、と不敵に微笑んで、魔穂香が自らの箒を召喚し、不安な顔の六兵衛と共に『ビッグ・ベアー』を追う。
 今ここに、波乱の展開を想像させるバイクレースのフラッグが振られたのであった。

「真夜中に騒がしいですよ、あなた達。
 いいでしょう……何でもありにしたことを、後悔させてあげます」
 何やら不機嫌な様子で『龍馬ラクシュ』に跨った志方 綾乃(しかた・あやの)が、蛇行を繰り返す派手な電装を施したバイクの真後ろにつく。
「ヒャッハー! わざわざ真後ろにつきやがって、マヌケだぜぇ!
 おい、あんな時代錯誤な馬なんて、撃ち殺しちまえ!」
 見るからにガラの悪い乗り手に命じられ、後ろに乗っていた『ビッグ・ベアー』のメンバーが銃火器を構え、発砲する。綾乃と愛馬に向けられる無数の弾丸、しかし、龍と名がついているのは伊達ではないと言わんばかりに、綾乃自身のスキルも利用して弾丸を全て弾き返してしまう。
「……は? ウソだろ、銃だぞ銃!? なんで全部跳ね返すんだよ!」
「あなたの常識で生きてないんですよ、こっちは。
 そんなんだから、やられちゃうのも志方ないね」
 みるみるうちに距離を詰めた綾乃が、装備した武器……を使わず、ゆる族の決して触れてはならない箇所、背中のチャックに手を伸ばす。
「や、やめろ、お前、自分が何をしようとしているのか分かっているのか!?
 お願いしますやめてください――ぎゃーーー!!」
 直後、ちゅどーん、と盛大な爆発が起こる。爆風を浴びてもなお、綾乃と愛馬は次の標的を目指して走り続ける。

 前方で爆発が生じ、大破したバイクがスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)の乗る軍用のバイクに迫る。
「お義父さん、前!」
「慌てるな、慌てれば避けられるものも避けられん――ふっ!」
 あくまでクールが大事とばかりに、直前でスプリングロンドがバイクを傾かせ、転がるように迫ってきたバイクを避ける。そのまま走り続け、普通の感覚で言えば天井の位置に位置取りする。
「これはまた、不思議な感覚だな。逆さの状態であるように思うが、普通に走れている。
 ……面白い、走り切ってやるさ、今夜のレースをな」
 過去、乗り慣れていた頃の記憶が蘇り出すと、スプリングロンドのバイク捌きにもキレが加わり始める。まともに走る気のないメンバーなどは相手にもならず、真っ当に走っているメンバーでさえも引き離されてしまう。
「お義父さん、すごい! 僕も頑張ってサポートするよ!」
 特殊な環境に早くも適応して走り抜けているスプリングロンドをかっこいい、と思いながら、リアトリスは邪魔しようとしてくる『ビッグ・ベアー』のメンバーの妨害に入る。
「うお!? な、何も見えねぇ? おい、どうなってんだ一体!」
「わ、分からないッス! アニキ、運転得意なんスよね? 頑張って乗り切ってくださいッス!」
「無茶言うんじゃねぇ! だいたいよく分かんねぇうちによく分かんねぇコース連れてこられて、俺だってどうすりゃいいか分かんねぇんだよ」
 リアトリスに闇術を施され、視界を封じられたメンバーがあれこれと愚痴る。どうやら姫子の策は、『ビッグ・ベアー』の全員が周知しているというわけではなかったようだ。
「ふーん、そういうことなんだ。それなら、リーダーを止めれば今回のはすんなり解決しそうだね。
 お義父さん、このまま先頭まで走り抜けちゃおう!」
 リアトリスの言葉に、スプリングロンドはアクセルを全開にすることで応える。

「今日は経験値2倍の日なのに、『ビッグ・ベアー』のせいで台無しだよ!!
 魔穂香、レースに勝ってネトゲ三昧の日々を取り戻すよ! 大丈夫、私達が組めば負けることなんてあり得ないよ!」
「ええ、まったくその通りよ。予定では今日中にレベルカンストして転生するつもりだったのに。
 行きましょう美羽、急げばまだ今日に間に合うわ」
 前回の事件の時、同じネトゲをプレイしていることが分かったことから意気投合した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と魔穂香は、街の安全はもちろんある程度は意識しているだろうが、それよりも自分たちのネトゲ時間確保のため、元凶であるモップスを追う。
(うーん、その理由はどうなんだろう……。夜更かしは程々にして欲しいと思うけど……こうして仲良く一つのことに取り組むのは、うん、いいことだよね)
 美羽を乗せたジェットドラゴンの操縦を任されたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、二人のただならぬ勢いに複雑な思いを抱きつつも、せめて楽しく遊んでもらえたらとの思いで操縦桿を握る。全速で小型飛空艇の2倍の速度を出すことが出来る乗り物だが、ただ闇雲に前に出ただけでは敵に狙い撃ちにされるだけ。最後はモップスのバイクを抜き去って勝利するにしても、まずは邪魔者を減らさないことには始まらない。
「私はこれで、バイクを狙い撃つ! これはね、魔法少女にとって因縁の武器なんだよ」
 そう言って美羽が取り出したのは、マスケット銃と呼ばれるものであった。一発一発弾を込めるため連射は効かないが、威力は現用の銃よりも高い。加えて美羽の持っているのは特別仕様である。
「そんなオモチャで、オレたちを止められると思ってるのか!?」
 射撃準備をする美羽へ、調子づいた『ビッグ・ベアー』のメンバーからの弾丸が襲う。美羽を振り落とさないように気を使いながらコハクが回避動作を続けるが、徐々に追い詰められていく。
「どうしたどうしたぁ? もう逃げ場がないんじゃないのかぁ?」
「それはこっちのセリフだよっ! せーの、吹っ飛んじゃえー!」
 ついに射撃準備を完了した美羽の、マスケット銃が火を噴く。施された魔術的ライフリングの力を受け取った弾丸は、物質でありながら音速をゆうに超え、メンバーの乗っていたバイクを貫く。
「……へ?」
 一瞬何が起きたか分からないといった顔をしたメンバーは、次の瞬間、爆発するバイクに巻き込まれて黒焦げになりながら地面を転がった。
「どう? すごいでしょ!」
「へー、やるじゃない、美羽。じゃ、私も行ってみようかな。
 ……乗り物で射撃しても、ルール違反じゃないわよね?」
 箒から降りなければ大丈夫よねと納得付けて、魔穂香が箒から魔弾を発射、バイクを撃ち抜いてメンバーを次々とリタイアさせていく。

「はぁ……魔穂香さんがやる気になってくれたのはいいけど、理由がなんともだなぁ」
「そうですねぇ……って、部長、なんでボクたちの方にいるんですか?」
 もっと魔法少女らしい理由を抱いてほしかった、と嘆く六兵衛に、『INQB』では上司と部下の関係に当たる空澄 スバル(からすみ・すばる)が尋ねる。ちなみに六兵衛は営業部長、ということになっているらしい。故にスバルは六兵衛を『部長』と呼んでいるのである。
「魔穂香さんと一緒にいたら、間違いなく盾にされるだけだと思ったから」
「うーん……部長、残念ですが、こっちにいてもそう事情は変わりませんよ」
 チラ、と視線で示した先を六兵衛が見ると、ビデオカメラを回したサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)からの声が飛ぶ。
「そこのぬいぐるみ二つ、お嬢様の盾として振る舞いなさい。
 箒に一緒できるだけでも光栄に思うのですよ?」
「はわわ、べディさん何やってるですかー。後ろから映すのは止めて下さい、その、見えちゃいますー」
「お嬢様はまったく、お気になさらずお心のままに行動なさって下さいませ。不肖このベディヴィエールがお嬢様の勇姿を余すところ無く捉えて差し上げます」
「そんなの余しちゃってくださいー」
 土方 伊織(ひじかた・いおり)の反論も、ベディヴィエールには届かない。
「……でしょ?」
「……そうみたいだな。それよりおい、うっかりパンツが見えないように注意しておけ。魔法少女は『見えそうで見えない』が大切なんだ」
「ちょっとくらい見えた方がいいような気もするんですけどね。分かりました、その辺は抜かりありません」
「そっちもそっちで何話してるですかー。僕は男のこ――」
「「そんなの関係ないね(です」」
「はうぅ……」
 二人のマスコットに即否定され、伊織がしょげこむ。
「まったく、あいつらは何をやっているのだ。……まぁ良い、俺も魔法少女とやらになることが出来たのだ。
 箒が空を飛んだり、魔法少女名を決める必要があるなど、面妖な事も多いがな。だが、俺の知略を世に示す時がついにやって来たのだ。
 見ておけ、妨害とはこのようにするのだ」
 未だに魔法少女のことを勘違いしている感のある馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)が、得意気に箒に乗りながら『ビッグ・ベアー』のメンバーの乗るバイクを上空から追い抜き、そこに痺れをもたらす粉を散布する。
「おぉ、ようじょのシャワーウマウマ」
「ばっかお前、ロリコンは病気だぞ? 早く治さないと慢性化するぞ」
「構いやしないね、人間は高邁な思想と下劣極まりない妄想を共に抱いて初めて人足りうるんだ。
 行為を伴わない限り、何を妄想したって咎められることはないね!」
 粉の影響で思考が痺れたのか、メンバーが何か怪しげな発言を繰り返す。そこに伊織の放った電撃が炸裂し、彼らは妄想に身を浸らせたままばたり、と意識を失って倒れ伏す。