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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「あれが今噂になってる空京の族ね。……それじゃ、お手並み拝見といきましょっか」
 たった今、目の前を通り過ぎていった『ビッグ・ベアー』の後ろ姿を見つめて、芦原 郁乃(あはら・いくの)が準備運動を始める。脚を曲げ、伸ばし、捻り……と、まるでこれからひとっ走りするような様子に、はて、と疑問に思った荀 灌(じゅん・かん)が尋ねる。
「ところでお姉ちゃん、マシンは?」
「見てわっかんないかなぁ〜? マシンに勝るこの脚を。まぁ〜見てなさいって」
「はぁ……」
 パンパン、と自分の脚を叩く郁乃、荀灌がなんとも言えないといった返事をする。確かに、バイクレースだと思っていた所に自らの脚で参加すると言われては、なんとも言いようがないだろう。
「さぁ〜いくよッ! どっちが最速か、勝負よ!!」
 準備運動を終えた郁乃が、スタート姿勢からダッ、と走り始めたかと思うと、すぐに見えなくなった。契約者である以上、皆、陸上界で活躍している選手並みには走れるのだ。むしろ非契約者でありながらあれだけ走れる彼らが凄いのだ。
「わぁ〜、お姉ちゃん待ってよ〜」
 置いて行かれる形になった荀灌が慌てて、自身の愛馬である『震電』に跨り、手綱を握る。
「震電、あなたと私ならきっと、風になれると思うんです。
 ……さあ、行きましょう。私たちの息の合っている所を、見せつけてきましょう」
 荀灌の言葉に震電が一声啼いて応える。
「……いきますっ!!」
 勢い良く地面を蹴って、震電と荀灌が先に行った郁乃を追いかけ、走り出す。

「お、おい、あいつ、走ってるぞ!」
「そりゃ当たりめぇだろ……げええぇぇ!? な、なんだありゃぁ!?」
 文字通り“走る”郁乃を見つけ、『ビッグ・ベアー』のメンバーが目を剥いて驚く。
「ふふ〜ん、驚いてる驚いてる。これなら楽勝だね――!?」
 見せていた余裕の表情が、背後から迫る気配に掻き消える。

「速さで勝負? ……おもしれぇじゃねぇか!
 アタシもそれなりに速さには自信持ってんだ、最初から全力で抜きにかからせてもらうぜ!」

 やはり同じように自らの脚で駆けるウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が、身体を地面に這いつくばらせんばかりに傾け、『ビッグ・ベアー』と郁乃を抜き去っていく。彼女にとりそれらは相手ではなく、自分が一番でゴールすることだけが目的であった。
「む〜、味方とはいえ、私の前に出るとはなかなかやるわね!
 こっちだって負けていられないよっ!」
 ウルフィオナの走りに闘争本能を刺激されたようで、郁乃も走る速度を上げ、ウルフィオナに離されんとする。
「おっ、アタシに付いてくるか。けど、誰であろうとアタシの前は走らせねぇ!」
 すっかり勝負事に熱中しているウルフィオナは、一緒にレースに巻き込まれたはずのレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)のことを忘れてしまっていた。
 そのレイナはというと――。

「……というわけでかくかくしかじか」
「……なるほど、状況は理解しました。怪我の方はもう大丈夫ですので、事が済むまで大人しくしていてくださいね」

 攻撃を受けて、地面に転がっていたゆる族を介抱しつつ事情を聞いたレイナは、ふぅ、と息をつく。
「……また、あの子ですか……。前回あれほど言い聞かせたにもかかわらず、またこのようなことを……。
 これは、もう一度言い聞かせる必要がありますね……ウルさんもどうやら、先に行ってしまったようですし……」
 ウルフィオナの性格はよく知っている。概ね、「アタシに抜けないものはない!」とばかりに自らの脚で勝負を挑みに行ったのだろう。
「無茶してないといいんですけど……」
 色々と心配事を抱えつつ、レイナは箒に乗って後を追う。

「……なんだったんだ、一体?」
「さあ……まあ、ありゃ一部の例外ってヤツだろ。契約者はなんつうか、人外なヤツらが多いって聞くから」
 競うように走り抜けていった郁乃とウルフィオナを見送り、『ビッグ・ベアー』のメンバーがなんというか、という表情をする。
「……お、おい、見ろよ。ようじょがいるぞ」
「ん? こんな夜中に出歩くなんて、悪い子だな……げええええええええぇぇぇぇぇ!!??」
 完全に自分たちのことを棚に上げた発言を繰り出した彼らは、そのようじょを目にしてバイクからひっくり返らんばかりに驚く。

「ひめこおねーちゃん、すごいんだねー。わたしでもかべぬけできなかったよー。
 んー、たのしみたのしみー。きょうはどうしてあそぼっかなー」

 とてとて、とまるで効果音が聞こえてきそうな走り方なのに、速度は並走するバイクより格段に速いという状況も、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)なら仕方ない。
 その本人はというと、本当は今レースが行われている空間の外に出て姫子の観察でもしようと思っていたのだが、なんということか、アルコリアでも空間を抜けられなかったため、仕方なく空間の中を走って追いかけている最中であった。だから周りのゆる族やら魔法少女やらは眼中に無いのだが、彼女の噂を知る彼らはいつ災厄が身に振りかかるかと、全身汗だくでアルコリアが通り過ぎるのを待った。
「…………お、オレ、生きてる」
「腕ついてるよな? 頭どっかに置いていかれたってこと、ないよな?」
 アルコリアに目を付けられたが最後、身体の細かな一パーツまでバラバラにされると思っていた彼らは、何も被害が及ばなかったことに心底から安堵する。
「オレ、もうちょっと真面目に生きてみようかな」
「ああ、オレもそう思ってた。ゆる族人生もまだまだ、捨てたもんじゃないよな」
 どうやら命の尊さを再確認したことで、彼らは更生への道をたどる決意をしたようである。よく『とんでもない力は、それだけで抑止力となりうる』ことがあるが、まさに今はその瞬間……だったのかもしれない。

「オウ、ここはどこデスカ!!
 『かまくらで1ヶ月100ゴルダ生活』の為に、せっかく空京までかまくらで来たノニ!
 空京の摩天楼が、謎のチューブになってるじゃないデスカ!」
 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が、自らの武勇伝を作り上げるべく挑戦しようとしていたことを妨害され、憤慨する。と、目の前を数台のバイクと、数人の魔法少女が飛び過ぎていく。
「オウワッ! 何デスカあの乱ボー怒りのバイクハ!」
 轢かれそうな所を回避したジョセフが、頭にピコーン、と浮かぶものがあった。
「分かりマシタ! 流石ミーの賢明な脳みそデス。これはレースゲームなのデスネ!
 なら、ミーの武勇伝を『かまくらでレースゲームに優勝』にシフトチェンジデス!」
 そうと決まれば、とばかりにジョセフは早速かまくらの中に入る。普通に考えればかまくらは動かない。だがパラミタ仕様のかまくらはそんじょそこらのかまくらとは違う。
「フフフ……ミーのかまくらをなめないほうがいいデスヨ……。
 『入ったままで歩く程度のスピードで移動できる』ソウ……具体的にスピードは記されていないのデス!
 その伸びしろは無尽蔵! ミーの歩く速度がすべての乗り物を超えた瞬間、最速の乗り物と化すのデスヨ!
 ……ムム! 今、「だったらわざわざかまくらで参加せず、自らの脚で参加した方がいいのでは……」という声が聞こえマシタ! 多分美央デスネ!
 ノンノン、アナタ何も分かってナイ。『かまくらで優勝』こそが最も重要! インポータンッ!」
 パートナーであるにもかかわらず自分を長々と放置した赤羽 美央(あかばね・みお)へ悪態を吐いていると、突如かまくらの速度が上がる。
「オウ? まだミー走り出してマセンヨ?」
 訝しがるジョセフの意図にかかわらず、かまくらはどんどんと速度を上げる。そう、まるで斜面を転がり落ちる岩のように、加速度的に速度を増していく。

「こんなんじゃ満足できねぇよ! もっと、サティスファクションしようぜ!」

 まるで人格が変わったように、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がジョセフのかまくらに取り付き、アクセルを全開にする。
 ……そう、かまくらも『乗り物』である以上、『何らかの加速させる要因の影響を受ける』のだ! それがたとえ、絶対装備されていないであろうものであっても!

「チョ、チョット待ってくだサイ、ブレーキは――アッーーー!!」

 アクセルはついてることにされてるのに、ブレーキがないことに不満を漏らそうとしたジョセフは、壁に盛大に激突して壊れたかまくらの下敷きになる。これで季節が冬なら危なかったが、もうすぐ春。この事件が終わる頃には自然と救い出されているだろう。

「……ん? ジョセフの声が聞こえた気がしましたが……まさか、ですよね。
 4ヶ月も姿見かけてませんし――」
 その頃、ジョセフの前方を『龍馬ラクシュ』に跨って進んでいた美央は、聞こえてきたジョセフの悲鳴をなかったことにした。
「おい、俺とデュエルしろよ!」
「!!」
 突然、傍に駆け寄ってきた人物、大佐の登場に美央が咄嗟に盾を構える。
「おいおい、騎馬兵が盾を持ってちゃ、サティスファクションできねぇだろ!」
「こ、これは違うんです。決していつもの戦法ってわけではないんです。
 攻め続けるということは走り続けるということ、つまりはある程度護りも必要ということは、盾を構える必要があるというわけで……」
 厳しい所を突っ込まれた美央が言い訳がましくアレコレと並べ立てているその隙を狙い、大佐が美央の騎乗するラクシュのアクセルを全開にする。動物であっても関係ないのだ!
「!!」
 突然加速する愛馬に、しかし美央はなんとか持ち堪える。流石、普段から騎乗慣れしているだけあって、この辺りの手綱さばきは見事という他なかった。
「邪魔立てするというのなら、受けて立ちます!
 魔槍少女の真髄、お見せしましょう!」
 武器を盾から槍に持ち替え、卓越した槍捌きで美央が、駆ける大佐を追いつめんとする。しかし当の大佐に真っ向から戦うつもりはなく、ただ「オレと光の向こうへ行ってみないか?」などと口にしながら乗り物のアクセルを全開にしていくのを繰り返す。前回、姫子によって洗脳を受けた影響が今回も発動しているらしく、しかも姫子から何らかの力を受けているのか、ひとたびアクセルを全開にされた乗り物の加速力は凄まじく、乗り手はあっという間に操作を謝ってコースアウトしていった。
「これは、厄介ですね……。なんとかして私の方に意識を向けられればいいのですが、一向にこちらを向いてくれません」
 大佐の存在を脅威と感じ取り、美央が自身に攻撃の目を向けさせんとするものの、何故か大佐には効果がなかった。挑発も一つの洗脳であると考えると、既に強力な洗脳を受けている大佐には効果が発揮しないと考えてもおかしくない。
「美央殿、ここは我輩にお任せを!
 いくら可愛い子であっても、他の可愛い子たちに攻撃を加えることは、我輩が許さないのである!」
 『可愛い子がたくさん集まっているから』という理由でバイクレースに参加を決め、今まで己のレンズに可憐な姿を焼き付けていたノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)が、その楽しみを妨害する大佐を例外的に敵と決めつけ、攻撃に移る。もちろん、行動不能に陥らせた後は優しく介抱し、何らかのお礼を期待していることは明白であったが。
「俺のデュエルについてこれるかぁ!?」
 イコンの装甲ですら容易に貫くであろう威力を持つプラズマを避けつつ、大佐がこれまでと同じようにノールの傍まで行き、アクセルを全開にする。
「……フッ、甘いっ! カキ氷にかける練乳よりも甘いっ! 砂糖で出来た雪だるまよりも甘いっ!」
 ノールの手が伸び、大佐を捉える。そのまま自らに跨らせるようにして乗せたノールが、得意げに告げる。
「この鋼鉄のボディは、可愛い子を乗せるために存在しているのである! つまり、我輩こそが“乗り物”!
 いくら加速されようとも、我輩だけが加速するのみ! そして我輩自身を制御することは、我輩にとって不可能ではない!
 さあ、このままレースに勝利してしまうのである! 黒幕らしき子も可愛いとの噂であるし、最後のお楽しみであるな!」
 上機嫌で、ノールが大佐を乗せたまま走り抜けていく。それでいいのかという声に対しては、おそらく「それこそが本望なり!」と清々しく答えたであろうノールに連行される形で、大佐がレースの場から退けられる。ちなみにこの後、洗脳が解けた大佐はノールをフルボッコにしたのだが(ノールの方は何故かとても喜んでいた)、それはまた別の話である。

 別の話ついでに、この前買い出しに出かけたきり帰ってこないルイ・フリード(るい・ふりーど)はというと。

 〜一日目〜
「さて、ここは何処でしょうね」
 自分が迷ったことに気付いたものの、迷うのはいつものことなので平然とした顔をしていた。

 〜三日目〜
「あれ? この海辺は一昨日も通りましたね」
 一度見たような景色に、ルイが首を傾げる。とはいえルイの場合、一日に百キロはゆうに移動するため、場所を特定するのはひどく難しい。

 〜七日目〜
「うぅむ……記録更新です。
 そろそろ家に到着したいのですが」
 ここにきて、ルイの顔にやや焦りが生じる。今まではこれほど迷う前に、いつの間にか家に到着していたから。

 〜十四日目〜
「……買った食材が、痛んでしまいました」
 しょぼんとした顔を浮かべるルイ。今度からは対策を練った方がいいのではと思いながら、ひとまずは家に帰るべく脚を動かす。

 さあ、彼が無事家に辿り着くのは、いつになるのか?
 次回を待て。