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【第二章】20

 その少し前の事。
「はああっ!」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)の剣が一閃し、敵を切り裂く。
 まるでBGMのように優しく流れる東峰院 香奈(とうほういん・かな)の歌声は強盗団達を眠らせていた。
 忍と背中合わせで刀を抜いているのは織田 信長(おだ・のぶなが)だ。
 
 事件に巻き込まれたのは香奈と信長の2人が新しい下着を買う為にランジェリーフロアに行った時の事だ。
「ふむ、またキツくなってきたかのう」
 と信長がバストサイズに悩んでいる頃、忍は2人の買い物が済むまで下階で時間を潰していた。
 その時放送で事件を発生を知ったのだ。

「信長は一人でも大丈夫そうだけど、香奈は絶対に守らないと!」
 躊躇せずに三階へ向かった忍はすぐに香奈を探して走り出した。
 やがて試着室の周辺で彼女と信長を見つけだした。
「しーちゃん!!」
「香奈、怪我は?」
 白い上下の下着を身に付けたままの香奈に自分が着ている黒いコートを上から着せてやりながら聞くと、香奈は彼の気遣いを嬉しそうに微笑みふるふると首を振る。
「おまえ、たまには私の心配もしないのか?」
「信長は大丈夫だろ」
「違いない!」
 カカカと笑う信長に、忍はふっと吹きだす。
 香奈も笑顔をみせている。
 ――大丈夫そうだ。
 そう思って忍は香奈を守るためにと光条兵器出してもらい、強盗団を退治しに向かったのだ。
「私も守られてばかりじゃ駄目だから!」
 そう決意した香奈のサポートの中、忍は目の前に立ちはだかる強盗達を剣で薙いで行く。
 疾風の如く駆け、正面の強盗に突きを喰らわせる。
 その後周囲を取り囲まれる姿には、香奈は思わず悲鳴をあげそうになったが忍は歴戦の武術で窮地を脱した。
 ふと視界の隅に信長が戦っているのが見えた。
 信長は倒した強盗達を山積みにしている。
「信長、余りやりすぎるなよ」
 信長は紅い下着姿で強盗団を相手に立ちまわる。
 どの相手も彼女にとっては力不足。
 役不足もいいところだ。
「私の邪魔をするとはいい度胸じゃな! 貴様ら覚悟は出来ておろうな!」
 勢いよく啖呵をきって飛び出していく信長をみながら、忍は自分の忠告は恐らく無意味だったろうな。
 と、微妙な気分で息を吐いた。


 そんな彼等の後ろで、イチャイチャするひと組のカップルが居た。
 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)
「俺の嫁に何しようとしてんだ、このタコォ!」と最高速度で現れたハイコドは、勢いのまま強盗達を吹っ飛ばし、
 試着室で――スケスケ下着着用の為動けなくなっていた彼の婚約者のソランを助けたのだ。
「ソラ、平気?」
 言いながら座り込んでいたソランに手を伸ばす。
 ハイコドの手を掴んで立ち上がったソランは自身の身体をハイコドの胸に預けた。
 で。その後。御約束のらぶらぶちゅっちゅが始まったのだ。
「ハコってば、こんなに汗かいて……私の事そんなに心配だった?」
「当たり前だろ。ソラは僕の大切な大切な婚約者なんだから」
「もうっハコったら!」
 手つなぎ、抱き合い、見つめ合い、キスしてたり。
 そんな二人の隣で、藍華 信(あいか・しん)だけが冷静に周囲を分析している。
 安全にして万全。
 時間的にもいい加減警察の突入があっておかしくない頃合いだ。
 兎に角これ以上彼等の障害になるものはなさそうだ。と、信は思う。
「帰るか」
 信が口にすると、ソランと口づけを交わしていたハイコドが、突然ソランから唇を離して喋り出した。
「帰る? 何言ってるんだ信さん」
「そうよね」
「お楽しみはこれからだよ」
 そう言って笑う二人の目は不敵に輝いていた。