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『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

リアクション公開中!

『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

リアクション

 ―― 空京の繁華街 ――

「そんなにやりたければ、お前一人でやれ。俺は手伝わないからな。……あっ、切りやがった」
ケータイを手に呆れ顔でため息をついたのは、エリート役をやることになった、アッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)であった。実のところ、彼は繋ぎ役でエリート役の参加者は他にいる。だが、まだ出演の準備が出来ていなかったため、急遽出演することになったのだ。かなり戸惑いながらも、アッシュは役をこなす。ドラゴンに振り回されっぱなしで、疲れている様子は結構上手く表現できていた。
 忙しくて猫の手も借りたいのに、ドラゴンはいない。勝手に空京を離れ別の町に行ってしまっていた。いや、いないほうがいいのか……そんなことを考えながらアッシュは足を警察署と別の方へ向ける。行き着けの喫茶店で一息つくことにしたのだ。

「あら、いらっしゃい、アッシュ。どうしたのこんな早くに。今日はもうお仕事はおしまい?」

 やさしげな笑顔で出迎えてくれたのは、エリート刑事の幼馴染でこの喫茶店で働いている女の子、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だった。

「やってられねえぜ」

 いつものカウンター席に着くとアッシュはため息をつく。

「なんなんだ、この事件は。どいつもこいつも狂ってる。……俺はどんな危険で難解な事件にでも挑むつもりだが、あんなよくわからない連中に命を預ける気にはなれねえぜ」
「アッシュは正義感が強いものね」
「そんな、ドラゴンに言うようなせりふはやめてくれ。俺は市民を守るという使命の下、義務感と責任感で働いているだけだ」
「実は、二人って似たもの同士なのかもね」
 
 歩はクスクスと微笑みながら、いつものようにブラックコーヒーを出してくる。それを美味そうに飲みながら、エリート刑事は呟く。

「そう……刑事は仕事だ。趣味や遊びじゃない。警察は自己表現の場所じゃない。組織である以上、ルールや協調性は何より大切なんだ。感情の赴くままむやみに熱血や正義感を振りかざすのは児戯にも等しい。それをあいつはわかっていないんだ」

 そんなアッシュの言葉を、歩はただ黙って聞いている。

「俺は、自分の事を偉いだなんて自惚れたことは一度もないけど、ドラゴンは間違っている。このままじゃ、あいつとはもう組めない……」
「ふふ……」

 歩は微笑しながら何やら考えていたが、ほどなく棚から箱を取り出し中を開く。そこにはリボンが入っていた。

「……ねぇ、このリボン覚えてる? 昔、小学生の頃、私がクラスの男子にからかわれてて、このリボン取られて泣いてた時、取り返そうとしてくれたよね?」
「あれ……、まだ持っていたのか」
「当たり前じゃない。アッシュとの思い出の一品なんだもの」
「そうだったかな……」
「でも、相手多かったからアッシュってばボロボロになっちゃって。何でそこまでしてくれたのかって聞いたら『困ってる奴は放っておけない!』って。ふふっ、今じゃ考えられないよね」
「や、やめてくれ。思い出したら恥ずかしくなった。あれは……つい、というかなんというか……」
「でも、マイトが刑事になったのもその気持ちの延長だったんじゃないかな? 色々あって変わっちゃったけど、あなたの本質は変わってないわ。……本当はドラゴンって人がうらやましいんでしょ?」
「おいおい、冗談はよせよ。あんな爆弾野郎、そばにいるだけで疲れるぜ」
「……じゃあ、私がドラゴンさんを助けてほしいって言ったら助けてくれる?  理由は……私の初恋の人に似てて放っておけないから、とかじゃダメ?」
「へぇ……、お前に初恋の人なんて、いたんだ? こりゃ隅に置けねえな」

 アッシュは歩の話に興味なさそうに相槌を打って、コーヒーを飲み干す。カウンターの上にお代を置くと、ごちそうさんと手を小さく振り、喫茶店を出て行った。
 
「ドラゴン、今どこにいる? 捜査を始めるぞ、すぐに来い。え……ドラクーン・シティ?
 これから研究施設に乗り込むって? 勝手に先走るなと言ってるだろ。いいから戻って来い。……少しだけなら、手伝ってやれる仕事がある」

 喫茶店を出るなりケータイで話していたアッシュは、すぐさま駆け出した。
 それを窓越しに見ていた歩は小さく微笑む……。
 こうして、エリートは無事ドラゴンと捜査を始めることが出来るようになる。

 ―― 空京警察特務刑事課 ――

「ばっかもん!」

 一方、空京警察の特務刑事課では、いつもごとく課長のどなり声が響いていた。

「空京刑事が殉職しただと!? その間何をしていたのだ、お前たちは!」

 正面の課長デスクでドラゴンを相手に血相を変えて怒っているのは、ドラゴンの上司の課長役のカールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)であった。
 他に課長の役がいなかったので彼が引き受けることになったのだが、これでなかなか楽しんでいるようだった。普段のナンパな言動は極力押さえ、いかにも中間管理職といわんばかりの神経質そうな面持ちの役を上手く演じている。
 上司まで美形なので、これはこれで視聴率が上がるかもしれない。

「各所から山ほど苦情がきているぞ! 建物を破壊した上に、温泉でも大暴れしたそうじゃないか! どれだけの損害を出せば気が済むんだ、ドラゴン!?」
「まだ事件は解決していない。損害か有益かは、全て決着がついてから結論を出してもらおう」

 高円寺海が扮するドラゴンは堂々と言い返す。相手が誰であろうと、己の信念は曲げないし、臆することがない。これが彼のスタイルだ。これまでの失敗や暴走だって悪気がってのことではなく、あくまで熱い正義からの行動だ。何一つ恥じ入ることはしていないと、彼は信じていた。

「き、き……貴様というやつは!」

 課長のカールハインツはデスクの引き出しから胃薬を取り出すと、一気に流し込むように飲み干した。声は大きいが神経症でプレッシャーに弱い中間管理職という設定だ。ドラゴンの暴走に胃を痛めて、腹を押えてううう……、と椅子に座り込む。

「その辺でいいでしょう、課長。元はと言えば、コンビであるこの私が彼を抑えきれなかったことにも責任があります。お叱りなら、私も受けましょう」

 なだめたのは、ドラゴンの相棒でエリート役のルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
 ルカルカは、今日は皆のよく知る可愛らしい女の子の姿ではなく、エリートらしく一分の隙もなくピシリとスーツを身に纏い金髪をオールバックにした鋭い青年の風貌だ。メタモルキャンディーで外見男性になってまで役になりきるほどの気合の入りっぷりは、見物しているギャラリーからも感嘆の声が上がるほどのパーフェクトな配役だった。

「事件の全貌は、すでにおおむね掴んでおります。あとは所定の手続きに則って処理を下すだけですので、ご安心ください」

 まだ何か言いたげなドラゴンを、ルカルカ(♂)は強引に引っ張って、自分のデスクの前に座らせた。

「まずは黙って話を聞け、ドラゴン」

 ルカルカ(♂)はエリートとして当然の如くそつのない捜査で事件を調べ終わっていた。
 
「先んじてその製薬会社の研究施設への潜入捜査を行っている女性捜査員が消息を絶った。不測の事態に陥っているとみて間違いないだろう。そして、本社施設を捜索しようとした空京刑事も殉職だ。私たちも、捜査に当たっては十分に慎重を期す必要がある」
「馬鹿な。そんな会社どうして今まで放っておいたのだ?」

 ドラゴンはありえないという表情でルカルカ(♂)を見つめる。製薬会社からゾンビが溢れ出してきたから事件に着手できたものの、そうでなければ今なお『カテゴラス製薬』は誰にも止めることはできずに悪を続けていたということになる。目撃情報や噂がある疑惑の段階で、どうして少しでも調べようとはしなかったのか。

「警察の上層部もすでに抱き込まれて腐敗している。製薬会社から賄賂を受け取っている形跡が見受けられる。まだ人物の特定には至っていないが、由々しき事態だ」
「何ということだ! 許せん、じっとしてはおれない!」

 ドラゴンは、バンッと机を叩いて立ち上がると、ルカルカ(♂)を押しのけ、課長の席に突進した。いきなり相手の胸倉をつかみ上げる。

「誰だ、汚い金を受け取っているのは!? 悪魔の製薬会社と癒着しているのは貴様かぁっ!」
「ばっかもん! なにをしている、落ち着け!」

 突然の暴挙に、カールハインツは驚いて咳き込んだ。それでもギリギリと課長を締め上げようとする海を、ルカルカ(♂)はつつがなく回収する。

「またしても申し訳ありません、課長。彼は、しばらく大人しくさせておきますから……」
「……もういい。署内で騒ぎまわられても困る。さっさと捜査へ出たまえ」

 カールハインツはまたしても胃薬を飲みながら、厄介なドラゴンたちを追い出しにかかる。ドラゴンは、釈然としないまま捜査に赴くことになった。
 海とルカルカ(♂)は覆面パトカーに乗り込んだ。屋根にパトライトを載せると、派手にサイレンを鳴らしながら出発する。

「うおおおおおおおっっ、燃えてきた! 現場が俺を呼んでるぜ!」
「ばかやろう! ハンドルを握ると性格が変わる二重人格者か、お前は!? ……いや、性格変わってないか。ドラゴンはいつもこんな感じだし。……とにかくスピード落とせ! 警官なら警官らしく市民の模範となる交通マナーを示せ」
「警官の本分は、一刻も早い事件の解決だ!」
「ここで事件を起こしてどうするんだ!」

 交通ルール完全無視のフルスピードで無免許のドラゴンはパトカーを飛ばす。それを助手席から突っ込むルカルカ(♂)。
 やがて、二人は有刺鉄線に囲まれた本社施設に到着した。用心しながら敷地内に踏み込むも、今回はロシアンマフィアも女傭兵は登場しないらしい。
 拳銃を構えたまま硬く閉ざされた扉を開くと、中からは不気味なうなり声と不穏な空気が流れ出てくる。生臭い匂いが漂いかなりの気持ち悪さだ。
 本社施設に侵入した二人は完全に無言だった。目配せと手での合図をしながら、海とルカルカ(♂)は、慎重にフロアを捜索していく。
 と、その二人の正面からモヒカンゾンビがやってくる。毒々しい紫色の髪で、動きはすばやい。どろどろに腐った肉体で衣装もぼろぼろのナイスなメイクで足早なのは、いっそう気味が悪い。

「ふん、こんな雑魚ども俺一人で十分だ。……って、なにっ!?」

 早速モヒカンゾンビを倒そうとした海だったが、相手は防御してきた。コンビネーションを駆使した戦術で翻弄し始める。考えていたゾンビたちよりはるかに強いようだった。さらには、ドラゴンたちの到着を察知したかのごとく、通路の向こうからも紫髪のモヒカンゾンビたちがわらわらと押し寄せてきた。

 ルカルカ(♂)は物陰に隠れ、ゾンビを的確に射撃していく。相手は、拳銃一発では死なない。固くて倒すのに時間がかかりそうだ。某ゾンビゲームなら、ショットガンを用意した方がいいくらいの敵だろう。

「これだけ一気に出てきたということは、敵はすでにこちらの侵入に気づいているだろう。もたもたしていたら逃げられる」

 ドラゴンはいきなり走り出す。ばかやろう! と追いかけるルカルカ(♂)。だが、彼女(♂)の静止を無視してドラゴンは走り続ける。野性的な嗅覚が働いているようだった。罠も敵も潜り抜け、ドラゴンが扉をけり破った先には、すでに敵が待ち構えていた。

「フハハハハッッ! 我が名は悪の秘密製薬会社オリュンポスの天才科学者Dr.カテゴラスこと、ドクター・ハデス(どくたー・はです)! ドラゴンよ! よくぞここまでたどり着いたな!」

 悪の秘密組織オリュンポス幹部のハデスは、今回、Dr.カテゴラス役で映画に出演していた。悪党志願の割にはとても礼儀正しく、いつも丁寧に名乗りを上げてくれるナイスガイだ。今回とて、映画に出演するついでに、彼の組織オリュンポスの宣伝も行うつもりだった。
 ゾンビを作り出していたらしいおどろおどろしい研究機材が並ぶ部屋を背に、彼は威風堂々と立ちはだかり高笑いをあげる。だが、今回は相手が悪かった。ドラゴンは、全然話を聞かない類の人種だったのだ。

「うぉりゃあああああっっ!」

 ドラゴンのカンフーが、仁王立ちのハデスにクリーンヒットする。ぐはああっっ!? と叫びながらハデスは吹っ飛んだ。

「そこまでだ、ハデス。神妙にお縄を頂戴しろ」
 ルカルカ(♂)は銃を向ける。

「ちなみに、ここはカテゴラス製薬の本社施設なのであって、オリュンポス製薬ではない。まあ、お前はただの家屋の不法侵入に過ぎないから、すぐに釈放されるだろう。本物のドクターはここではなく、ドラクーン地方の研究室にいる」
「ば、ばかな……、この俺がそんな小物だっただと……?」
 
 ハデスは愕然とした。逮捕される直前の状況に、ではなく、ただのDr.カテゴラスの騙り野郎と断ぜられたことに。そして、それは彼の誇りとして許せないことであった。人々に恐れられる大悪党として死ぬなら本望だが、小物として官憲ごときの手を煩わせるのは、彼にとって死ぬより耐えがたきことだ。たとえ映画の脚本の中でも、だ。
 だが、そこへ彼の忠実な部下が救いの手を差し伸べてくる。

「やれやれ、仕方がないですねぇ、ハデス君……ではなく、Dr.カテゴラス(笑)」

 ゾンビを率いて救援にやってきたのは、研究所員A(笑)役の天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)であった。登場した十六凪は【リビングアーマー】【レイス】【スケルトン】【ゾンビ】らにドラゴンへの攻撃を命じる。

「まとめてぶっとばしてやるぜ」
「待てドラゴン」

 攻撃を開始しようとする海をルカルカ(♂)は、止める。一瞬目を離したすきにハデスは全力で逃げ出していた。年季の入った悪党逃げで、普通なら追いつかない。

「……ハデスを追え、ドラゴン。やつは何かを知っているかもしれない。ここは私が援護する」
「何をいう、ルカルカ(♂)。お前が暴れてどうする? 評判を落として出世に響くぞ」
「お前こそ、たまには周りの評価を気にするようになれ。無欲で純粋……お前のそういうところ嫌いじゃないが、それだけでは本物の悪に勝てない時が、必ず来る。組織と人をうまく使え、ドラゴン。組織こそ力、だから私は……エリートを目指したのだ」
「ルカルカ(♂)……」
「ほら、のんきに喋っている場合か。早く行け、これは命令だ」

 ああ、とドラゴンは頷くとゾンビたちの群れを飛び越え、ハデスを追う。

「そうはさせません」

 十六凪はスキルをフルに使ってドラゴンを止めようとするが、見事な手並みでそれを援護するルカルカ(♂)。銃器の名手の腕前は、確実に敵をしとめていく。

「知っているか、十六凪。私はかつて……、最終兵器と呼ばれたことがあるのだ」

 ルカルカ(♂)は、普段ドラゴンの前で見せるエリートの仮面をはぎ、ニヤリと笑った。

「さあ、始めようか」



「ククク、天才科学者であるこの俺を追い詰めたことは褒めてやろう!」

 ハデスは、崖の上に追い詰められていた。細い足場に、眼下では波が激しく打ち寄せ砕けている。落ちたら確実に死にそうな高さであった。
 空京の撮影地にこんな場所があっただろうか? 気にしてはいけない。

「だが、俺を捕まえたところで、事件は解決せぬ。本当の敵は……」

 今回は、ハデスの厄日であった。ドラゴンは話を聞いていなかった。手の届く距離にいる犯人は問答無用で捕まえる。そして手が届かない犯人は手が届くところまで近寄るまでだ。ハデスの台詞が終わるより先に、ドラゴンのカンフーが炸裂する。

「お、俺は、あのお方の指示で研究をしていただけなのだっ……う、うわああっ!」

 ハデスは、断崖絶壁から足を滑らせ海に落下する。

「いやあああぁぁぁぁぁぁ……」

 高い崖の上から渦巻く海へと落ちていったのは、ハデスのスタントマンのアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)だった。ハデスは落ちるフリだけして、カメラに映らないように岩場の影に伏せている。
 その彼の目からも、長い滞空時間だった。
 リアルな飛び込みシーンのためには、浮き輪なんか当然だめで、白衣をまとっただけの姿でアルテミスは着水し渦へ飲み込まれていった。

「死んだか……。愚かな、生きて罪を償えば新しい道も開けたものを……」

 まったく浮いてこないアルテミス。崖を見下ろしながら、ドラゴンは言った。話も聞かずに自分で追い詰めておいて、結構ひどい言いざまであった。
 
「……なっ!?」

 戻ってきたドラゴンは、驚愕に目を見開く。ルカルカ(♂)はさっきの場所で血を流して倒れていた。
 ちなみに、十六夜も、ゾンビたちの残骸とともにその場で動かなくなっていた。一見相打ちしたのかと思いきや、違った。
 ルカルカ(♂)は、不意打ちのように背後から胸を撃たれていたのだ。ゾンビと戦った傷ではなく、明らかに狙撃された弾痕であった。

「おい、しっかりしろ! なにがあった!?」
「……ばかやろう……なぜ……戻って……きた……」

 海が抱き起こすとルカルカ(♂)はうっすらと目を開ける。見たところ、弾は胸部を貫いているらしかった。胸の辺りから血がとめどなく溢れてきている。それは海の手にも流れ落ち、真っ赤に染めた。

「私と、したことが……うかつだった……あいつ、は……」
「もういい、喋るな。すぐに救急車を呼んでやる」
「……自分の傷の……深さくらい、わかる、さ……。もう助……からない、ことくらいは……」

 迫真の演技で途切れ途切れに話すルカルカ(♂)。シーンとしては数分ほどだが、リハも含めてちょうど一時間になっていた。全て計算どおり。キャンディーの効果は一時間。
 血塗れのルカルカ(♂)の体が抱きかかえられた海の腕の中で女に戻っていく。失敗シーンではなく、これも脚本の一部だ。

「お前……女の子だったのか……」
「……本当に……馬鹿なんだから……。そう、よ……本当は女よ、だって……」

 元の姿に戻ったルカルカ(♀)が、力ない手で海の頬をなでながら最期に小さく微笑む。

「ずっ、と……一緒、に……」
「もういい、喋るな」

 海は、ルカルカ(♀)の口をキスで塞ごうとして顔を近づ
「CMです!」

 プラカードを持ったルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が突然画面をさえぎった。

 「守りたい人がある。
  守りたい国がある。
  守りたい誇りがある。
  守りたい伝統がある。

あなたの大切なものは、なんですか……?

一人でも多くの人を守るために、あなたの力を。

愛と平和を仕事にする。

      シ ャ ン バ ラ 教 導 団

== ただいま国軍兵士募集中 ==

 お問い合わせは最寄の教導団詰所まで。貴方のご参加をお待ちしています」

「ところで……」

 助監督としてシーン演出から演技指導までしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、画面から見えない場所でポツリと呟く。

「深夜番組視聴者で、このCMを見て国軍兵士を志す人がいたら……。果たして軍人として頼りになるのだろうか。それだけが心配だ……」

 そいつを言っちゃおしまいだ……。