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6つの鍵と性転換

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6つの鍵と性転換

リアクション

1.

 ヒラニプラの街を五百蔵東雲(いよろい・しののめ)リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は歩いていた。
「おい、そこの君。ちょっといいかい?」
 と、突然声をかけられて東雲はそちらを振り返る。
 端正な顔立ちの青年は、手にした小箱を彼へ差し出した。
「少し困ったことがあってね。まず、これを見てくれ」
 蓋の開いた小箱には紫色のボタンらしき石と周りにいくつかの鍵穴らしきものが見て取れる。
 東雲は好奇心に駆られて箱へ手を伸ばした。指先が紫色のボタンを押した直後――。
「え、あ、あれ!? か、髪が……いや、身体がっ」
「ちょっと、東雲!? いったい何が起こったの?」
 と、リキュカリアは女性の姿へ変わったパートナーを見つめる。すらっとした高身長に長い髪、大きな胸。服装はそのナイスバディを強調するように襟の開いたワンピースだ。
「……シノー!!」
 背後から聞きなれた声がして、はっと東雲は振り返った。
「うわぁ、カズ!? ちょちょ、ちょっと、ま……」
 瀬乃和深(せの・かずみ)は東雲に向かって勢いよくルパンダイブをしてきた。しかし彼の手が東雲の触れる寸前のところでリキュカリアが割って入る。
「近寄るなー! 瀬乃和深ぃ!!」
 と、間髪入れる隙もなく爆砕槌を振り回し、和深を追い払う。
 東雲が尿退化する瞬間を目撃してしまった和深は、友人が自分好みの美女へ変身したとたんに理性を捨てていた。
「くそぅ、あと少しだったのに……」
 と、和深は東雲の前に立ちはだかるリキュカリアを睨む。
 和深と同じく性転換の瞬間を目撃していたセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)は、諦めのつかない様子の和深が次はどんな行動を起こすかと傍観している。
「っ……それなら俺だって! 女になって触ってやるー!!!」
 と、和深はリキュカリアの横を抜けて箱を手にした美青年へ近づいた。
 ぽちっとボタンを押し、和深はあっという間に女性の姿へ。
「これでいくらでも触りほーだ、い……」
 と、自分の胸を触る和深だったが、視線の先には東雲の大きな胸があった。自らが女体化したところで、東雲の胸には勝てなかった。
「あれ、背は俺のほうが大きいね。って、胸も大きい?」
「何でだよ。同じ女性のはずなのにー!」
「知らないよ。って、揉むなぁ! カズ、落ちつけってー!!」
 東雲の巨乳を堪能し始めた和深にリキュカリアは再び爆砕槌を振り回す。
「……」
 一方、和深のそばにいたセドナもまた性転換して男の姿になっていた。
「だーかーら、やめろって言ってるでしょ!? こら、逃げ回ったって無駄なんだからね!」
「いーだろ。シノだってまんざらでも、あ、すみません、ごめんなさいっ!!」
 和深はすっかり痛めつけられて涙目になっている。そのいたいけな姿を見て、セドナの血が騒ぎ出した。
「はっはっは! もっと良い声で鳴いてみろ!」
 と、光条兵器を取り出しては鞭のようにして和深の身体を叩く。リキュカリアの攻撃もあいまって、和深はその場へ倒れこんだ。
「痛っ、師匠何して……あっ」
 和深が思わず高い声を出すと、セドナの鞭はさらに激しさを増した。昼間から見てはいけないシーンだ。
 東雲は胸を両腕でガードしつつ、こっそりと和深たちのそばを離れた。
「愛の鞭、ってやつなのかな? それにしてもこの状態、誰が止めるんだろう……」
 騒動の発端である箱を持った青年の姿は、いつの間にか消えていた。

「うーん、やはりこれは性転換の機械なのか」
 色素の薄い金色の髪を揺らしながら、リズィはてくてくと歩いていた。
 いいかげん男性の身体にも慣れてきたが、やはり元に戻りたいのが本心だ。しかしどうしたらいいものか……リズィは途方に暮れた。
「何か困りごとか?」
 声をかけてきたのは夜月鴉(やづき・からす)だった。
「ああ、そうだな。これを見てもらえるか?」
 と、リズィは機械を鴉へ差し出す。
「ふぅん……何かボタンがあるけど」
 無意識にボタンへ伸びる人差し指。鴉はそして――女の子になった。

「え、これは何の機械なんですか?」
 と、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は首をかしげた。
 箱を手にしたリズィは蓋を開けて見せ、彼女たちの好奇心をくすぐるように言う。
「気になるだろう? これは、性別を変えてしまう機械なんだ」
「性別?」
 と、聞き返したのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。
「このボタンを押せばいいの? 和輝、押してみてー」
「え、俺が? 何でそんな……だいたい、今日は買い物に来ただけだろ?」
 と、佐野和輝(さの・かずき)は嫌がるそぶりを見せる。
「そうですけど、気になりませんか? こんな機械、初めて見ますし……」
「そうよ、和輝。ちょっとボタンを押すだけじゃない」
 と、スノー・クライム(すのー・くらいむ)はルーシェリアの言葉に同調し、和輝を見た。
 三人の女性に視線を向けられ、和輝は機械へ手を伸ばした。
「すぐに戻れるんだろうな? これ押して、も――」
 ぽちっと押した直後に煙が和輝を包み込み、小柄な少女の姿へと変身する。
「か、和輝……っ!!」
「和輝さん、可愛いですぅ!」
 女性陣の目の色が変わり、和輝はわんわなとこぶしを震わせる。性転換するのは説明を聞いていたから良いのだが……。
「何で幼くなるんだっ!?」
 和輝は???になっていた。
「それでどうやったら元に戻れるの?」
 と、アニスが尋ねると、リズィはにこやかに言った。
「それが分からないんだ。ちょうど、元に戻る方法を探しているところでね」
「嘘!? 急いで元に戻る方法を見つけないとっ」
 と、慌てるアニスだったがルーシェリアに袖をつかまれ、そちらへ顔を向けた。
 和輝はため息をこぼしつつ、ボタンの周りにある鍵穴をよく観察する。
「なるほど、鍵穴が6つか……これって、組み合わせによっては――」
 と、何かに気づいたところで和輝は左右から両腕を取られる。
「にひひ〜。さあ、和輝ちゃん、お着替えしましょうねぇ♪」
「え、え? ちょ、お前ら……」
「きっと他の人が元に戻る方法を見つけてくれるわ。それまでの辛抱よ、和輝」
 ルーシェリアはにっこりと楽しそうな笑みを浮かべており、和輝はさっと顔を青白くさせる。

 彼女たちにだけは見つかってはならない。
 隠れる場所を探していた鴉は物陰に身を潜めながらそう思った。
「行くわよ、和輝」
「お着替えですね、楽しみですっ」
 生贄となった和輝の姿を哀れみつつ、鴉は近づいてくる彼女たちからどう逃げようか思考した。今ここで出て行くのはまずいが、場所を変えなければ見つかってしまう。
 幸いなことに鴉は動きやすいボーイッシュな服装になっていた。これなら走ることも苦ではないのだが……。
「あら? まさかそこにいるのは、鴉さんですか? まぁ、鴉さんも変身してしまわれたんですねっ」
 ルーシェリアに見つかった。心配しているのかと思いきや、とても嬉しそうな口調だ。
「え、えと、あの、えと……すごく嫌な予感がするから、じゃっ!」
 と、鴉は飛び出した。
「ダメですぅ。せっかくの機会なんですから、楽しみましょう♪」
 服の袖をがしっと掴まれてしまい、鴉はルーシェリアに抱きしめられるのだった。
「それではどこかのホテルへ行きましょうか」
「そうだね! 和輝、逃げようなんて考えちゃダメだよ〜?」
「ふふふ……大丈夫よ、悪いようにはしないから」
 女の子になった二人の男は、三人の女性の笑顔を見て抵抗を諦めた。
 そんな彼らを見送りながら、リズィはつぶやく。
「楽しそうだな」
 仲間に入れて欲しいとは思わないが、何と平和なのだろう。機械の詳細を解き明かすことさえ出来れば、彼女たちのように楽しむ人たちも増えるだろう。
 そしてリズィは他に声をかけられそうな人を求めて歩き出した。