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冒険者の酒場クエスト

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冒険者の酒場クエスト

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 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)がイコンE.L.A.E.N.A.I.で出撃のために浮上したのは、モヒカン村から爆音が伝わってきたときだった。
 E.L.A.E.N.A.I.の後ろには蹂躙飛空艇に乗ったイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が付き、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は空飛ぶ箒ファルケで、さらにその後ろへと移動する。
 近遠とユーリカがモヒカンイコンを撃ち落とし、イグナがE.L.A.E.N.A.I.の補佐と周囲の哨戒。アルティアはイグナの補佐と連絡を担当する手筈だ。

「どうやら戦闘が始まったようです。ユーリカさん、火器管制の方はどうでしょうか?」

 煙の立ち上がる村の光景がモニターに映し出された。
 近遠が尋ねると、あーでもないこーでもないとやっていたユーリカが顔を上げる。

「調整完了ですわ。ツインレーザーライフルもマジックカノンも調子は良好、いつでも行けますわ」
「わかりました。イグナさん、アルティアさん、交戦に入ります。どうやら敵イコンの数が多いみたいなので、無理はしないようにしてください」

 既に村の近辺では、戦闘を示す曳光弾の軌跡や銃撃音が鳴り響いている。
 今はまだ奇襲の効果で拮抗しているが、こちらは数で不利な分、長引けば厳しくなってくるだろう。
 近遠はE.L.A.E.N.A.I.を高い建物などの障害物が少ない村の西側へ移動させた。手にはツインレーザーライフルを構えている。

「後続のイコンがさらに飛び立っていますね。ユーリカさんお願いします」
「どんどんいかせてもらいますわ」

 離陸直後の初速が乗らないモヒカンイコンに対して、ユーリカは次々とレーザーを撃ちこんでいった。
 やがてE.L.A.E.N.A.I.に気付いたモヒカンたちがマシンガンやバズーカを持ち、奇声を上げて向かってくる。

「地上の敵は我に任せてくれ」

 イグナはそう言うと、蹂躙飛空艇をモヒカンたちに向けた。
 速度を上げてそのまま突っ込んでいく。

「へぶしっ」

 先頭のモヒカンが飛空艇にぶつかり、吹き飛ばされる。
 そのまま勢いに任せて、イグナは次々と蹂躙していく。
 一方、イグナが気付かないほど離れた位置でも戦闘が行われていた。
 飛空艇にバズーカを向けているモヒカンを見つけたアルティアが、後ろからそっと回り込み、ごめんなさいと言いながら気絶させていく。

「あまり良い状況とは言えませんね」

 近遠は飛んでくる弾を巧みに避けながら、戦場を見回した。
 戦闘は拮抗状態のまま、押し切れずに苦戦している様子である。
 モヒカンたちも馬鹿ではなく、援護射撃で威嚇したり、建物の影からイコンを飛ばすなどをしており、出撃する敵イコンを完全には抑えきれていない。
 そのとき突然、E.L.A.E.N.A.I.の前に敵のイコンが現れた。
 頭のモヒカン状の角からつま先まで、真っ赤に塗装されたイコンである。
 近遠が反応する間もなく、赤いイコンはE.L.A.E.N.A.I.の腹部へ強烈な蹴りを放った。
 イコンごと地面に叩きつけられた近遠の意識が遠くなる。
 赤いイコンは巨大斧を構えると、倒れたまま起き上がれないE.L.A.E.N.A.I.へ振り下ろした。

 ◇

 E.L.A.E.N.A.I.への攻撃を受け止めたのは、村雲 庚(むらくも・かのえ)壬 ハル(みずのえ・はる)が駆るソルティミラージュだった。
 巨大斧を横へと流し、右肩でタックルをするとそのままの状態でバーニアを吹かす。
 急激なGと共に、ソルティミラージュは星の瞬く夜空へと赤いイコンを押し出していく。
 そして近遠たちから十分に離れたのを確認し、離脱しながら庚は叫んだ。

「今だ、撃て!」

 その合図にディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)ユピテル・フォルモーント(ゆぴてる・ふぉるもーんと)の搭乗したアルテミスが、構えていたレーザーマシンガンを撃つ。
 放たれた無数のレーザーは発射と同時に着弾し、オレンジ色の爆発が赤いイコンを飲み込んでいく。

「やったか……?」

 庚はビームランスを握りしめながら、注意深くソルティミラージュの速度を落とす。
 その瞬間、爆炎の中から煙を曳いた赤いイコンが現れた。一部の塗装が剥げ、背部にあった増加燃料タンクが無くなっているが、致命的なダメージを受けた様子はない。
 赤いイコンは直線軌道でソルティミラージュとの距離を詰めると、横に構えていた巨大斧を振った。
 慣性と質量の乗った攻撃をビームランスで防いだ庚は、連続して繰り出される攻撃をパイルバンカー・シールドで受けながらアルティアに叫ぶ。

「こいつは俺たちがなんとかする! 今のうちに体勢を立て直して、奴らのイコン出撃を抑えてくれ。このままじゃ数で押されてしまう」
「わかりました、そちらはお任せいたします」

 アルティアとイグナが急いで近遠のところへ向かう。
 二人を狙っていたモヒカンイコンを撃墜しながら、ディアーナは庚の方に注意を戻した。
 ソルティミラージュと赤いイコンは、距離を取ってはまたすぐにぶつかり合い、すれ違い、頻繁に位置を変えている。

「このままでは援護射撃ができませんね。下手に援護をしようとすれば、庚さんたちに当たってしまいます」
「あの赤いイコンは強敵だけど、それだけじゃなく状況は悪くなっているみたいだね。見ておばあちゃま」

 ユピテルに促されてディアーナが目を向けると、多数のモヒカンイコンが赤いイコンを援護するように集まってきていた。
 このままでは逃げ道を塞がれたソルティミラージュが敵の集中攻撃で沈んでしまうだろう。
 赤いイコンが現れるまでは、ソルティミラージュがモヒカンイコンを引き付け、それをアルテミスが着実に撃ち落とす戦法で動いていた。
 だが、今は状況が違う。敵に通常の速度が三割増しのイコンが居るのだ。容易には引っ張れないだろう。

「ユピテルさん、やりましょう」

 ディアーナの真剣な眼差しに、ユピテルは出撃前の光景を思い出していた。
 しばらく使われていなかったアルテミスのメンテナンスに手間取り、ディアーナは何時間もずっと操縦席に籠って調整をしていたのである。
 ユピテルが駆動系は問題ないと休憩をすすめるが、ディアーナはありがとう、と言いながらも真面目な顔で作業を続けていた。

「庚さんたちを頼りにしているけど……甘えたくはないの」

 ……そう言ってたときと同じ瞳だね。
 ユピテルはアルテミスの出力を最大まで上げると、超電導バリアを展開しつつ加速を入れた。

「操縦は僕に任せて! おばあちゃまは撃つのだけに集中して」

 一番近いモヒカンイコンに体当たりを行うと、ディアーナは横薙ぎにレーザーマシンガンを連射した。
 その攻撃に、包囲寸前だったモヒカンイコンたちの動きが乱れ、隙が出来る。

「悪いな、助かったぜ」

 意図を察した庚が離脱するが、モヒカンイコンたちはバラバラになった陣形のまま、逃すまいとソルティミラージュを追いかける。
 庚は背後から飛んでくるマシンガンを高速機動で回避し、フェイントをかけて急上昇した。

「撃て! ディアーナ!!」

 鋭い庚の声に、アルテミスの多弾頭ミサイルランチャーから無数のミサイルが放たれる。
 猛り狂うミサイルはモヒカンイコンたちに襲い掛かり、次から次へと爆散させていく。
 赤いイコンはギリギリの体勢でミサイルを避けるが、そこに待ち受けていたのはソルティミラージュのビームランスだった。

 ◇

 上空でイコン同士が激突している。
 爆発の光が地面を照らし、戦場を悠然と歩く二つの影を長く伸ばす。
 瞬く光に照らされたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 暑苦しいモヒカンたちが斧や槌、チェーンソーにマシンガン、はたまたバズーカや火炎放射器を構え、今まさに襲撃者を血祭りに上げようと怒声を上げたそのときだった。
 不意に現れた二人の姿に、モヒカンたちは混乱したのである。
 唖然としたモヒカンたちは、まず自分たちの目を疑い、次に自分の姿を確認し、仲間たちの様子を見た。
 こいつらは何者だ、という疑問に誰も答えを出せない。
 それ程までに、戦場に似つかわしくない存在がそこにはあった。
 普段から上に着ているロングコートを脱いだセレンフィリティは、眩しい肢体をトライアングルビキニで隠したきりのきわどい姿で立っている。
 同じくロングコートを脱いだセレアナも、セクシーなプロポーションがくっきりと浮かび上がるレオタードだけの恰好だった。
 二人は、蠱惑的な笑みとクールな無表情で、モヒカンたちへ視線を送る。

「モヒカンの分際で地道に農作業って、世の中舐めてんじゃない? 似合いもしないことやってさわやか系モヒカンとか狙ってんの? あーマジダセぇ」

 セレンフィリティが突然、中指を立てながら挑発を始めた。
 モヒカンたちは、いきなり受けた行為にぽかんとした表情を返す。
 やがて、やっと理解した男たちが顔を真っ赤にして襲い掛かってきた。

「ちょっと挑発しすぎなんじゃないの?」

 踊るように女王の加護を展開しつつ、セレアナが諌める。
 しかし、セレンフィリティは両手に持った銃を撃ちながら、蠱惑的な笑みで舌なめずりをするだけだった。
 二人は背中を合わせ、襲い掛かってきたモヒカンを処理していく。
 上から来る敵には銃を撃ってポーズを決め、突進してくる迂闊なモヒカンには艶のある脚でカウンターを食らわせてポーズ。
 同時に襲ってくる敵を艶やかに躱し、追加射撃で難なくポーズをとる。

「ねえセレン、そのポーズはいったい何なのかしら? さっきから物凄く気になるんだけど」
「こうすることにより、あたしのセクシー度が高まって妖艶な戦いを演出するのよ!」

 タイミングをずらして襲ってくるモヒカン三人へ、石火のごとく則天去私を決めながらセレアナが問うと、セレンフィリティは自信満々の笑みで答えた。
 セレアナは左手を自分の額に当てながら、斧を振り上げたモヒカンへ右手でカウンターを打ち込む。

「気付いてないでしょうけど、そんなポーズをしなくても、貴女は十分に魅力的だから安心なさい」