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【依頼5】隕石の落下阻止



 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は言った。

「蒼木屋が絶体絶命なの!」

 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は言った。

「家を曳けばいい」

 こうして蒼木屋曳き計画が始まった。

「油圧ジャッキもこれだけ並ぶと圧巻ね」

 床下はおろか、外側から見える位置にまで綺麗に設置された油圧ジャッキを見ながら、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)は呟いた。
 平屋一戸建て造りの蒼木屋周辺では、改装工事もかくやといった数の工具が置かれ、床下からはナイロン製のロープが波のように伸びている。
 ロープは全て油圧ジャッキに結ばれてあり、これを牽引して蒼木屋ごと移動させる計画だ。
 牽引するのはずらりと並んだイコンたち。
 隕石迎撃に集まった人々に、欠片でも当たったら蒼木屋が半壊すると危険性を説いて、曳くのを手伝ってもらうことになったのである。

「水道管、ガス管、電線、オールクリア。いつでも実行可能な状態よ。隕石の様子はどう?」
「天気は快晴、雲少量。風速ゼロメートル、無風状態だな。隕石落下予測ポイントに変更はない。落下予定時刻まであと二時間十七分だ」

 床下から出てきたルカルカが身体に付いた汚れを払いながら通信を送ると、ゴウ内で気象情報と隕石の位置を確認していたダリルが必要な情報を返してきた。

「了解! 移動方向の修正はしなくても大丈夫そうね。さっさと始めてしまいましょう」

 ルカルカもゴウへ搭乗すると、ダリルが指揮通信用プログラムを走らせた。
 指揮機となったゴウから各イコンに引く方向とパワー配分のデータが送られていく。
 隕石は東の方角から落ちてくるため、移動方向も東となる。

「皆、お願い! タイミング合わせてねっ」

 ルカルカの合図に、ロープを持ったイコンたちがゆっくりと歩き始めた。地面に寝ていたロープがピンと張り、やがてじわりじわりと蒼木屋が動き出す。
 五メートル、十メートル……百メートル、今のところ建物が歪んだりすることもなく、順調に曳かれている。
 ニケが建物に伴いながら微調整を行うが、深刻な影響は見当たらない。
 このまま引っ張っていけば蒼木屋の破壊は免れる、そうルカルカが喜ぼうとしたとき、ノートパソコンを確認したダリルが叫んだ。

「馬鹿な、隕石の落下予測ポイントが変更された。初期の位置から東に百メートル、丁度俺たちが今居る場所だ」
「何かにぶつかって軌道が変わっただけかもしれないわ。蒼木屋を移動させる方向を変えましょう」

 移動を中断し、ジャッキの角度を変えて再牽引を行った。
 しかし、それに合わせて隕石も軌道を変えてしまう。

「これが言霊の力……!?」

 ◇

 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は秘密のルートで回ってきた隕石の写真を見て絶句した。
 宇宙空間をバックに、月を縮小させてディフォルメ化したような岩が映っている。横には大きさやら何やらのデータが細かくびっしりと書かれているが、意味までは分からない。
 目の前の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はなぜか燃えていた。物理的にではなく、精神的にである。

「いや、何かの冗談だと思っていたのだが……誰も本気で隕石落ちてくるとは思わんだろう!?」

 エクスは頭を抱えた。
 地表でこれだけの物体を投げつけられたら、ます逃げるだろう。
 だが、今回はそれを正面から迎撃するのだ。
 顔を上げれば、普段はものぐさな唯斗が珍しくやる気を見せている。

「酒場の警備としては止めないと行かんからなぁ」
「ああ、もうやるしか無いのだろうなぁ」

 覚悟を決めたエクスが立ち上がる。
 非現実的で馬鹿げた光景でも、起きるであろう災厄を見過ごせる性質ではないのだ。

「唯斗、指示してくれ」

 唯斗とエクスは魂剛を駆り、全てのバーニヤを全開にしていた。
 隕石が地表につく前に、そして後続のためにも重要な役割を請け負っていたからである。
 まずは割る。
 それがミーティングで出した結論だった。
 質量が大きい程、空気抵抗の影響が小さくなって迎撃が難しくなる。
 そのため、出来るだけ超高高度で隕石を割り、早めに減速させる必要があるのだ。

「相対速度は……大気による減速と……魂剛の速度がブレて計算が追いつかない。レーダーの位置だけ送る」
「なに、問題ない。この魂剛ならやれる!」

 唯斗とエクス、そして魂剛は、隕石を確実に割るための一撃を任されていた。
 重装甲パワー型ながらも推進力に優れた魂剛ならではのポジションである。

「目視と同時に仕掛ける。エネルギーを全て駆動系に回してくれ」
「出力70……80……100……120%」

 バーニアを止め、鬼刀を構えた魂剛の遠く正面に、炎に包まれた隕石がきらりと光る。
 歴戦の必殺術と急所狙い3で隕石の弱い部分を見抜いた瞬間。

「ちぇええええええええいっ!!」

 考える前に身体が動いていた。
 補陀落山おろしの要領で隕石の運動エネルギーを受け流し、そのまま斬撃の威力に転化して叩きつける。
 確かな手ごたえを感じた。

「割れなかったか!」

 だが、隕石は巨大な一つの塊のまま、魂剛の横を通り過ぎていく。
 しかし唯斗には見えていた。
 イコンの何十倍もある隕石に、致命的な傷が刻まれているのを……!