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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第一章 「カフェ・ディオニウス」 1

 一方その頃。
「カフェ・ディオニウス」には、今日も新たな客が訪れていた。

「ここのようですね」
 カフェのドアが開かれ、ベルが軽やかな音で客の来店を伝える。
 やってきたのは、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)たちだった。

「カフェ・ディオニウス」の名物といえば、店主である美人三姉妹と、そしてその長女・トレーネの淹れる美味しいコーヒー。
 より噂が広まっているのは前者であったが、今回近遠たちが聞いてきたのは後者の方だった。

「いらっしゃいませ! 何になさいますかー?」
 注文を取りに来たのは、三女のパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)。 
「それじゃ、ボクはコーヒーを。みんなは?」
「我も同じものをもらおう」
「あたしもコーヒーと、あとはこのケーキをお願いしますわ」
「では、アルティアも同じくコーヒーとケーキをお願いいたします」
「はーい。少々お待ち下さいませー!」
 近遠たちの注文を聞くと、すぐにそれをトレーネ・ディオニウス(とれーね・でぃおにうす)に伝えに戻る。

「楽しみですわね」
「そうでございますね」
 楽しそうに話すユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)、そしてそんな二人を静かに見守るイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)
 そんな普段通りの光景を眺めながら、近遠は店内に流れるBGMに耳を傾けていた。
「これ、何の曲でしょうね?」
 何気なく口にしたその言葉で、ユーリカたちも流れる曲に耳を澄ます。
「聴いたことがある気はしますけど……何の曲だったかまでは覚えていませんわ」
「アルティアは……初めて聴く曲でございます」
 近遠たちがそんなことを話していると、隣のテーブルのカッチン 和子(かっちん・かずこ)が話に入ってきた。
「『神劇の旋律』。ファウスト・ストラトスの曲よ」
 その名前を聞いて、近遠も、そしてイグナとユーリカも納得した顔をする。
「道理で、どこかで聴いたことがあるはずです」
 唯一、アルティアだけはその名を聞いたことがなかったようだが、彼女が封印から目覚めたのがほんの一年ほど前であることを考えればそれも無理もないことである。
「初めて聴くお名前ですけど、素敵な曲ですわね」
「私はここで初めて聴いたんだけど、いきなりぐっと引きこまれたよ。
 それまでクラシックは何となく避けてたんだけど、聴いてみたらどの曲もすごく素敵で……」
「さすが、『神劇の旋律』と呼ばれるだけのことはありますね」
 五人がそんな話をしていると、そこへトレーネがコーヒーとケーキを運んできた。
「お待たせいたしました」
 にこりと微笑んで、コーヒーのカップとケーキの皿を手際よく並べていく。
 その作業が一段落するのを待って、近遠はトレーネに声をかけてみた。
「この曲……ストラトスの曲ですか。意識して聴くのは初めてですが、素敵な曲ですね」
「ええ。わたくしも彼のファンでして、それでいつも店内にも彼の曲を流していますの」
 近遠と和子がトレーネと少し話をしていると、先にコーヒーを飲んでいたユーリカが嬉しそうに会話に加わってきた。
「でしたら、またここに来れば別の曲も聴けますの?」
「もちろんですわ。CDだけでも結構な枚数がありますもの」
「それなら、また来ましょう! コーヒーも噂通りに美味しいですし」
 その言葉に、近遠もコーヒーに口をつけてみる。
「……本当だ、美味しいですね」
「コーヒーも、ストラトスの曲も、気に入っていただけたなら嬉しいですわ」
 と、そんな話をしていると、突然和子がこんなことを言いだした。
「ところで、トレーネさん。突然だけど、アルバイトの募集なんてしてないかな?」
「あら? 急にどういたしましたの?」
 きょとんとするトレーネに、和子は嬉々として売り込みを始める。
「だってさ、『神劇の旋律』も聞けるし、美味しいコーヒーの近くにいられるし、トレーネさんたちはみんな美人だし。
 こんなお店で働けたら最高だと思って……これでも経理は多少勉強したんだけど、どう?」
 トレーネは少し考えてから、軽く苦笑してこう答えた。
「そんなにこのお店を気に入っていただけたのは嬉しいですけど、今はまだわたくしたちだけで十分ですわ。
 でも、もしもっとお客さんが増えて、人手が足りなくなりそうなら、真っ先に相談しますわね」
「本当!? 本当に本当だよ、絶対だからね!」
 今すぐに、とはいかずとも、今後の「約束」を取りつけることができて、和子は実に満足そうだった。





「こんにちは」
 次に来店したのは、中原 鞆絵(なかはら・ともえ)たちだった。
「あ、鞆絵さんこんにちはっ!」
 嬉しそうな笑顔を浮かべるパフュームに、鞆絵の隣にいたアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)がすっと一歩進み出た。
「へぇ、聞いてた通りの美人さんだな。俺はアストライトってんだ、よろしく」
 そのノリの軽さに微妙に引き気味になるパフューム。
 その様子に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が割って入る。
「ちょっとあんた、いきなり何言ってるのよ……っと、ごめんなさい。私はリカイン、よろしくね」
「ンだよバカ女、せっかく俺がだな……」
 そのままいつもの調子で口げんかを始める二人を、静かな、しかしどこか威厳を感じさせる声で鞆絵が止める。
「二人ともやめないか」
 そうして二人がおとなしくなると、鞆絵は一つため息をついた。
「せっかくなので、この二人を連れてきてみたのですが……ご迷惑をおかけしてしまったかもしれませんね」
 そんな鞆絵に、パフュームは苦笑しながらぱたぱたと手を振った。
「あはは、全然そんなことないよ。それじゃ、今日は何にする?」
 すると、アストライトは少し考えるような仕草をした後、パフュームの方に向き直ってこう言った。
「そうだな……それじゃキミを、ってのは?」
「あんた、まだ懲りてないの!?」
 当然のごとくすかさずリカインからツッコミが入り、鞆絵がもう一つため息をついたのだった。

 ……と、はたから見ると完全にコントな三人組ではあるのだが。
 実はこのアストライト、三姉妹が楽器を収集しようとしている動機に不審を抱いてこっそり調査しに来ていたのである。
 そしてリカインはというと、三姉妹の行動に疑念を抱くアストライトと、三姉妹の知り合いとして力を貸したいと言っていた鞆絵のどちらにも完全には賛成できず、結局板挟みになる感じで一緒に様子を探りに来ていたのであった。

 そんな二人の様子に、鞆絵は心の中でもう一度ため息をついた。
 彼女としては三姉妹に協力したかったのだが、こうまで三人のスタンスが違うのでは動きようがない。
(まあ、今回はせめて店の売り上げにでも貢献できればよしとしましょうか……)