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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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第3章 お教室で実技勉強 Story2

「ディンス、皆さんの傍から離れてしまっていますよ。戻りましょう」
 パートナーが気負いすぎて失敗しないよう傍にいるのだが、仲間への気配りも忘れず、クリスティーが狙われないように戻る。
 実戦に参加してみたいという気持ちはあるのだが、教室内で共に実技を行いたいと思う者もいるだろと配慮し、コレットたちとチームを組んでいる。
 トゥーラは訓練場内ではスペルブックを使っていたが、新しい知識としてペンダントも扱ってみようと、扱う魔道具を変えたのだが…。
 彼が魔道具を変更した理由はそれだけではない。
 ペンダントと宝石を持参した本当の理由は、同じものを扱うことでディンスが無茶な事やミスをした時に、自分がフォローしてあげるためだ。
 彼女が扱い方をいまいち理解していなかったり、間違った使い方をしてしまったりすることもあるかもしれない。
 もちろん知識だけでなく、チームを組んで魔道具を使って戦う経験をさせることも必要だ。
 しかし、トゥーラがフォローしようとしても、もしかしたら…彼女が周りの者に負担をかけてしまう可能性がある。
 もしも…のことを考えると、やはりいきなり実戦で学ぶよりも、今回は教室で学んでもらうほうがよいだろうと考えた。
 だがディンスの判断は彼にも予想出来ず、彼女にもそれなりの考えはあったようだから少しばつが悪いようだ。
「ゆっくり進んだほうがよかったカナ」
「この辺りにいるリスには反応がありますね」
「でも…使い魔を呼び出している途中で、狙ってくるかも…。もうちょっと探してみようかな…、ン…?何か反応が弱くなってきたヨ」
 だんだんと輝きを失っていく宝石を見つめながらディンスが首を傾げる。
「どのリスですか?」
「そこの椅子の近くにいる子だヨ。あっ、まだ調べていないのニ!」
「ディンス、追いかけてください!」
「逃がさないヨ。―…やっぱり、あの子みたいダネ。宝石の反応がない!」
 机の下に駆け込んだリスに近づくと宝石は光を失い、やっぱりソレなのだと発見し、声を上げる。
 正体がバレてしまった魔性は、可愛らしい小さなボディを異形化させる。
「(やっぱり狙ってきたか)」
 パートナーのために演奏を続けているクリストファーが一輝に視線を向ける。
「サイズは変化前とあまり変らないんだな」
「器がコレだからってナメンナヨッ」
 拳のような形に変質させたふさふさの尻尾を振り回し、龍鱗の盾をぶっ叩く。
「ジブンを、カワイイとか言うんじゃネェーゾッ。カワイイって言ったらテメーの頭、尻尾で100回殴ってやるからナッ」
「(小さいくせに、どこにこんな力が…っ)」
 クリスティーの前に立ち、殴り飛ばされないよう必死に踏み留まるが、その一撃はボクサーのパンチ並の重さだ。
「(チームで実技を行うのだから、想定内だけど…。使い魔の召喚を急かすわけにはいかないからな)」
 クリストファーは視線をパートナーの方へ戻す。
 だが今、自分が出来ることは精神を落ち着かせてやることだけ…。
 リュートを弾きながら歌い続ける。



 魔性の騒ぎ声や仲間の声すらも耳に入らず、クリスティーは祈りを捧げることに集中する。
 ようやく聖杯に零れ落ちた涙を、自分の血…一滴と混ぜ、魔方陣の上へポタリと落とす。
 彼によって描かれた魔方陣が、淡い緑色の光を放ったかと思うと、その中心からトゲのついた緑色の蔓が延び、葉の嵐が吹き荒れる。
 葉の嵐は徐々におさまり、葉は重なり合い女性のような姿を形へと変っていく。
 ポレヴィークは主であるクリスティーよりも少し背が高く、スレンダーな身体には白いドレスを纏っている。
 ロサ・ギガンティアという、つる性の薔薇のイメージのような女性の姿だ。
「キミがわたくしの主なのね?」
 緑色の双眸でクリスティーを見つめ、聖杯を抱える彼に話しかける。
「何か…気になることがあるみたいね。そのような精神では、守りたいモノも守れなくなるかもしれないわよ?」
 返事を返さない彼の考えを読んだ彼女は眉を顰める。
 コンプレックスである背の低さを気にしているのか、自分に言葉をかけようとしない。
 その“気になること”については口に出さないが、ポレヴィークは口元に片手を当てて、ふぅ…とため息をつく。
「う、うん。そうだよね…」
 ボクはボクなんだし…背のことで一々刺激されているようではいけない。
 余計なことを考えるのはやめようとクリスティーは、ふるふるとかぶりを振る。
「わたくしの役割は、キミたちを守ることでいいのね?」
「うん、頼りにしてるよ」
「捧げモノをいただいたんだから、それなりのコトをしておかないとね」
 使い魔は足元からズルズルと蔓を伸ばし、周囲にまとわりつかせる。
「ムム…、邪魔ッ」
 主であるクリストファーしつこく狙う魔性だったが、トゲつきの蔓に阻まれて近づけない。
「こんなもの、噛み砕いてヤルッ」
 イラついた魔性はガチガチと歯を噛み鳴らし、蔓にかぶりつく。
「噛み砕いて突破する気みたいだよ」
「落ち着くんだ、焦ると守りの力が弱くなってしまう」
「―…うん、大丈夫だよ」
 クリストファーの歌声を聞き、深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「ねぇ使い魔さん、守りの強化をしてほしいんだ。できれば、器にされているリスさんを傷つけないようにね」
「えぇ、任せて」
 ポレヴィークは静かに頷くと蔓のトゲを伸ばし、守りの壁に噛みつこうとする魔性の牙を阻む。
「ウゥウウ…ッ。ジブンの自慢の牙で噛み砕けないモノがあるナンテッ。だったらコイツから片付ケルッ」
 硬質化させたトゲに阻まれ、守りを破るのを諦めた相手は床に飛び降り、コレットにターゲットを変更する。
 だが、一輝の龍鱗の盾がそれを許さず、コレットにも近づけない。
「クソッ、邪魔ッ、ジャマァアッ」
 1人も倒せないことにイラ立ち、尻尾を立てにビッタンビッタンと叩きつける。
「コレット、スペルブックの章を使うんだ!」
「わ、分かったわっ」
 訓練場でイメージトレーニングと、他の生徒が章を使っていた感じを参考に唱えてみようとスペルブックを開く。
 スペルブックから光の嵐が吹き荒れ、器にされているリスの中へ流れ込む。
「プギャァアッ」
 魔性はたまらず叫び声を上げ、リスの群れの中へ紛れ込もうと逃走する。
 変質化させた身体を元に戻して正体を隠してしまう。
「追いかけますよ、ディンス。僕の傍らか離れないでくださいね」
「1人で行動しちゃいけないんだよネ?」
 トゥーラとディンスは逃走する魔性を追い、群れの中に潜む者を探す。
「椅子の下に走っていった子を狙ッテ!」
「うん!逃がさないよ」
「ァーアウァウァウアァアッ」
 哀切の章の直撃を2度もくらった魔性は、床にへばりつくように倒れ、気絶してしまった。
「まだ器についているか、調べてみましょうか」
「そうだネ。ン…。宝石の反応があるヨ?」
「ということは、器から離れたということですね。まだその辺にいるかもしれませんよ…」
 まだ相手は反省していないだろうと思い、トゥーラはペンダントに触れたまま教室内を注意深く歩く。
「その姿を暴くことなく、悪行を重ねる者であろうとも咎めることなく、汝の存在のみを知る者…」
 不可視化してしまった相手の姿を見ることは出来ないが、今は気配が探知能力で十分だ。
 トゥーラはその者が隠れ潜む場所を発見するために祈る。
「見つけました、狙ってください!」
 彼がドア側まで行くとアークソウルが琥珀色のように輝き始め、ソレがいる位置を人差し指で示し、コレットたちに教える。
「まだ悪さをするなら、術を使うよっ。降参するならやめてあげるけど…、どうする!?」
 魔性が反省する気があるのかコレットが呼びかける。
「ムゥウ…。ジブンの負ケ……」
 力なく小さな声音で言うと、黙り込んでしまった。
「リスさん、大丈夫かナ?」
 ディンスは床にしゃがみ、まだ目を覚まさないリスに触れる。
「寝ているだけみたいですよぉ〜。リスさんは少し疲労しているので、しばらく大人しくしていれば自然に回復するはずですぅ」
 すやすやと眠るリスを、エリザベートがカゴの中に入れる。
「他のリスたちはどうする?」
 やはり捕まえるのかとクリストファーが言う。
「コレで呼び集めるから大丈夫ですぅ〜。憑かれていた子とは別々のカゴに入れるんですよぉ〜」
 エリザベートはドングリを詰めたエサ箱を開け、自分の方へリスたちを集合させてカゴの中に入れた。
「元気になったらお友達と一緒に、イルミンスールの森に返してあげるんですぅ〜」
「早く元気いっぱいに走れるようになるといいな」
「それまで、私たちがお世話するんですぅ」
 エサでリスを全てカゴの中へ誘い込んだ校長は、教壇の傍へそれを置いた。
「ありがとう、戻ってもいいよ」
「また何かあったら呼んでね」
「うん。その時がきたら、またお願いするよ」
 クリスティーはポレヴィークに礼を言い帰還させた。



 実技の様子を眺めていたアルマンデルは、ノートに書き込みながら扱い方を学ぶ。
「ほう…。アークソウルとは本来、あのような能力を持っているのじゃな」
「私が持っているものも…、その力を秘めているということですね……」
 ペンダントや宝石、扱うための基本能力も備わっているというのに、まだ扱えないレイナは悲しそうに顔を俯かせる。
「(うーむ…。まず、あの問題を解決しなけならないしのぅ)」
 沈んだ顔をするパートナーに追い討ちをけないように心の中で呟く。
 アルマンデルがすぐ扱えそうなものといったら、スペルブックなのだが、使い魔の能力も捨てがたい。
 もう少し学んでみてから決めるべきだろうか、と1つのテーブルに集まって雑談を始めているチームへ視線を移す。
 “訓練場では守りというより、ポレヴィークを祓魔用に使っていた人がいたわよ”と、コレットがクリスティーに話しかけている。
「そうなんだ?ボクが守りとして扱ったりする以外にもね。治療に必要な薬草を出してくれたりするんだよ」
「へぇー…、そんなことも頼めるのね」
「まだどんなものが効き目があるか分からないから、頼まなかったけどね」
「3回目の授業だし。分からないことがあったら質問してみたらいいんじゃないかな?」
 2人の会話を黙って聞いていたクリストファーがパートナーに言う。
「うん、次の授業までに聞きたいことを纏めておかなきゃね」
「今回は上手くいきましたけど、これに慢心してはいけませんよ」
「分かってるヨ…」
 もう仲間の信用を失うような失敗はしたくない。
 トゥーラの注意を真剣に聞き、ディンスは小さく頷いた。
「なんだかトゥーラくんは、パートナーに厳しいな」
「そ、そうですか?ちょっといろいろあったので、注意しておいたんですよ…。まぁ…、実技は成功しましたし。よく頑張りましたね、ディンス」
「うン、これからも、もっと頑張るネ。あ…皆に渡したいものがあるんだヨ」
 沈みかかっていた表情がパッと笑顔になり、カバンから名刺を取り出す。
「これからもよろしくネ」
 ディンスはそう言うと、クリスティーやコレットたちに渡した。
「ありがとう、もらっておくよ」
「うん、よろしくね」
 コレットは一輝が無くさないように、彼の分も持ち帰ろうと荷物の中に入れる。