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【神劇の旋律】三姉妹怪盗団、参上!

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【神劇の旋律】三姉妹怪盗団、参上!
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第11章 戦闘

 仮面をつけた3人の少女が走っていた。
 いや、追いかけられていた。
「ほらほらほら、どうしました? あなた達の得意な魔法で民間人やこの屋敷ごと私をぶっ飛ばしたらいいじゃありませんか?」
 志方 綾乃の光条兵器が一閃する。
 間一髪で避ける三人組。
 武器は柱を通過するが、柱は破壊されない。
「外しましたか。志方ありませんね。ですが追い詰めるのは時間の問題。なんとしても怪盗さんの息の根を……」
「綾乃! 俺達の任務はあくまでも名器の警備だ。やりすぎるな!」
「……分かっています」
 言葉ではそう返すものの、綾乃は本気だ。
 本気で、三人組の命を狙っている。
 逃げている三人組が持っているバッグがもぞもぞと動いた。
 ぱふん。
 中から顔を出したのは、チョコ・クリス。
「たたた、大変でしゅ。ピンチでしゅか?」
「危ないから顔を出したら駄目ですわ」
 チョコを窘めたのは、仮面を被ったチェルシー・ニール。
「うぅ、逃げるだけとはいえ……かなりキツいわね」
「がんばって。今私達に追手が集中すれば、それだけシェリエ達が動きやすくなるわ」
 三人組は、三姉妹ではなかった。
 怪盗三姉妹になりすましたチェルシーと白波 理沙、白波 舞の三人だった。
「にしても……かなりの大物が来ちゃったんじゃない? 無事に逃げることができるかしら……?」
「あたち、助けを呼んできましゅ!」
「え、ちょっとチョコ」
 鞄からぽろりと飛び降りるチョコ。
 そのまま追手の足元をかいくぐって見えなくなってしまった。
「だ、大丈夫でしょうか……」

「くそっ、あちこち騒がしくなってきたな」
「本物のストラトス・ティンパニを探しているのかもしれんな」
 ティンパニを抱えて走る茅野 菫と相馬 小次郎。
 追手は見えてはいないが、その存在をひしひしと感じていた。
「ん!?」
 走っている菫の目の前に、突然人間らしきものが現れた。
 ナノマシン集合で現れたンガイ・ウッドだった。
「くっ、追手か!?」
「……ん? よく分からぬが、乳白金の魔女に、足止めを命じられてな。……銀髪の魔女よ、お役に立てたかな?」
「ええ。とっても。感謝しますわ」
「おかげで、逃げられなくて済んだようね」
「おとなしくそのティンパニを渡すのだ! なーんてね」
「あ……あんた達は!」
 菫がンガイに気を取られている間に、目の前に三人の女性が立っていた。
 仮面をつけ、怪盗三姉妹となったディオニウス三姉妹だった。
「な、何言ってんだ。これはあたしが金を払って手に入れたティンパニのレプリカだぜ」
「あなたがお買いになったレプリカは、残念ながらついさっき粉々に砕けてしまいましたわ」
「本物は、ワタシ達がいただくわね」
 シェリエが菫の持つティンパニに手を伸ばす。
 その時。
 むに。
「ひゃ……んっ!」
 シェリエの胸に、何者かの手が伸びた。
 三人の意識が菫とティンパニに集中したその隙に、気配を消して近づいたオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。
 驚いて硬直したシェリエに対し、素早く手首を掴んで後ろ手に固める。
「シェリエ!」
「シェリエ姉えっ!」
「おっと、こいつがどうなってもいいのか?」
 駆け寄ろうとしたトレーネとパフュームを、シェリエを盾にして牽制する。
 むに、むに、むに。
 シェリエの胸を掴んだオルフィナの片手が蠢く。
「あっ……」
「良いモノ持ってるな、お前。気に入ったぜ」
 シェリエの耳元を舐めるかのように唇を近づけ、何事か囁くオルフィナ。
「くっ……」
 赤くなり、俯くシェリエ。
「思いの外、あっけなかったですね」
「もっと楽しませてくれるかと思ったのですが…… まだまだ、覚悟しててくださいね」
 獲物を持ったセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が現れた。
 二人の獲物は、それぞれトレーネとパフュームの首に狙いを定めている。
「ひ……卑怯者めっ!」
「賊がいっぱしの口聞くじゃないですか」」
「狼に堂々と喧嘩を仕掛けたんだから。相応の覚悟はできてる筈よね」
 悔しげに噛み付くパフュームに、エリザベータとセフィーは冷たく告げる。
「さあ、変な真似したら、分ってるな? 全員、武器を捨てて投稿しろ!」
「うぅ……」
「仕方ないわね……」
 二人が武器を手放そうとした、その時だった。
「ぐあ……っ!」
 オルフィナが、小さな声をあげた。
 彼女の片手に、トランプのジョーカーが刺さっていた。
 その隙に、オルフィナから離れるシェリエ。
「だ……誰だ!」
 トランプを投げた相手を睨みつけるオルフィナ。
 そこには、魔鎧を身につけた人物が立っていた。
 がしぃいっ!
 オルフィナの問いには名乗らず、黙ってポーズを決める魔鎧。
 彼こそは謎の正義のヒーロー(自称)『インベイシオン』こと、白星 切札(しらほし・きりふだ)
 三姉妹を助けるために、魔鎧インベイシア・ラストカード(いんべいしあ・らすとかーど)を纏って駆けつけたのだ。
「ここは私に任せて、さあ、先へ!」
「あ……ありがとうございます」
「あ、喋れるんだ」
「すみません。感謝しますわ」
 解放されたシェリエはパフュームとトレーネの元に合流する。
 それぞれにインベイシオンに感謝の言葉を継げると、再び逃げ出した菫たちを追って走り出した。
「ちょっと、待ちなさいっ!」
「おっと、言ったでしょう? あなた方の相手は、私だと」
 三人を追いかけようとするセフィーの前に、インベイシオンが立ちふさがる。
「……甘く見られたものね。たった一人であたし達を足止めするつもり?」
「一人じゃない、二人だぜ!」
 白星の魔鎧となっているインベイシアが口を挟む。
「彼女たちのピンチを助け、時間を稼げればそれで十分……なんて言うつもりはありません!」
 構えるインベイシオン。
「ちょっと予定が狂ったけど、怪盗の代わりにまずあんたを噛み殺してあげるわ!」
「インフェルミーナの姫騎士エリザベータ・ブリュメール、参るっ!」
「さっきはよくもやってくれたな!」
 セフィー、エリザベータ、オルフィナがインベイシオンに向かって行く。

   ◇ ◇ ◇

「シェリエさん! よかった、無事だったんですね」
「ティンパニは、まだ……?」
 菫を追跡中、名前を呼ばれ一瞬警戒する三姉妹だが、声の相手を見て警戒を緩めた。
 三姉妹の協力者、杜守 柚と杜守 三月だった。
「柚ちゃん……心配は嬉しいんだけど、その、ここで名前を呼ぶのは」
「あ、ごめんなさい」
 シェリエの言葉に慌てて頭を下げる。
 シェリエから事情を聞いた二人は、三姉妹と同行して菫を追いかけることになった。
「たしか、この先に非常口があったからこの廊下を真っ直ぐ進めば追いつけると思うけど……あ」
 追跡する五人の耳に、菫の声が聞こえてきた。
「だーかーらっ、これはあたしが正規の手段で買ったモノなんだって!」
「だったらどうしてティンパニを持って逃げたりするの? かわいい怪盗さん」
「違うって!」
 逃げていた菫と小次郎は、廊下で待ち伏せをしていたセレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスに捕まっていた。
 しかし聞いていた怪盗とは様子が違うため、セレンフィリティら自身も捕まえていいものか戸惑っているようだ。
「あ、ほら! あれが本物の怪盗だ!」
 追って来た三姉妹に気が付き、助かったとばかりに指差す菫。
「あれ?」
「あの三人は、どうやら間違いないようね。だけどあなたも逃がすわけにはいかないわ」
「もー」
 菫の手を掴んだまま、三姉妹に向き直るセレアナ。
 セレンフィリティもそれに倣う。
 身構える三姉妹と柚たち。
「くらえっ!」
「わ、わ、わ、えいっ!」
 セレンフィリティと柚が同時に動いた。
 ぱたり。
 そして同時に倒れた。
「セレン!」
「柚!」
 互いのパートナーに駆け寄るセレアナと三月。
 怪我はない。
 両者、同時のヒブノシスによって眠ってしまったらしい。
「い、今のうちっ!」
 拘束していたセレアナの手が無くなったので、逃げる菫と小次郎。
「あ、待って!」
「ここは僕に任せて、行って」
「ありがとう!」
 状況を察知した三月が三人に声をかける。
 礼を言い、三姉妹は走って行った。

   ◇ ◇ ◇

「外野が喧しいですね」
「外野? 関係ないぜ! 今ここは俺達だけの世界だ」
「……そうだな」
 ティンパニを追う者、怪盗を追う者。
 それぞれの理由で戦っている者たちがいる中で。
 彼らは、戦うために戦っていた。
 いや、これは彼らのとって“遊び”だった。
 ティンパニを盗むために侵入したグラキエス・エンドロア。
 ティンパニを守るレリウス・アイゼンヴォルフ。
 それは、戦うにはあまりにも十分な理由だった。
 しかしそれすら二人にとっては些細な事。
 獲物を構えるグラキエス。
 それを受け止めるレリウス。
 グラキエスは、レリウスが相手をしてくれるのが楽しくて。
 レリウスは、グラキエスを構うのが嬉しくて。
 エルデネスト・ヴァッサゴーとハイラル・ヘイルは、そんな二人を見守っていた。
 助力も手出しもしない。
 彼らの邪魔をしてはいけないから。
 彼らは、“遊び”続ける。