天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

リアクション公開中!

【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ 【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ 【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ 【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ 【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ 【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

リアクション

●王宮の、とある……

 時は、少しばかり遡る。
 まだ、アイシャがパラミタを支える祈りに入る、少しだけ前。アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)は王宮の私室に居た。
 その隣には、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の姿もある。
 本当はクリスマスに会う約束をして居たのだが、公務の都合が付かなくなり、反故にしてしまった。今日はその埋め合わせを兼ねたティータイムだ。
 詩穂の胸には、クリスマスにアイシャから贈られたブローチが留められている。羽とレイピアがデザインされた、繊細なデザインのそれは、詩穂の宝物だ。
「それ、着けてくださってるんですね」
 アイシャの為に紅茶を淹れている詩穂の、その胸のブローチに気づいたアイシャがにこりと微笑む。
「当たり前だよ、アイシャちゃんがくれたんだもん」
 ポットを置いた詩穂は、幸せそうな笑顔を浮かべ、胸のブローチにそっと触れた。
「これは詩穂の宝物だよ」
「そんなに大切にして貰えるなんて、嬉しいです。そのブローチを見つけた時、詩穂にぴったりだと思ったんです」
 ふふ、と微笑むアイシャに、詩穂の心がぱぁっと明るくなる。
 こうして二人で居るだけでふわりとした幸せに包まれ、本当に、アイシャが大切な人なのだと改めて実感する。
「だからどうしても、渡しておきたくて」
 しかし、そう告げたアイシャの顔がいつもよりも固くて、詩穂は違和感を覚える。
「どうしたの、アイシャちゃん」
「詩穂、あなたには話しておきたいんです。聞いてくれますか」
 いつもふわふわと優しい笑顔を浮かべているアイシャには珍しく、どこか凛とした、けれど、寂しそうな表情で、詩穂の目をまっすぐ覗き込んでくる。
 詩穂はその視線をまっすぐ受け止めて、椅子に腰を下ろした。
「今……パラミタは、かつて無い危機に面しています」
「うん……」
 そのことは、詩穂も知っていた。なんとかしてその事態を回避すべく、解決策が模索されている事も。
「私は――女王として、この国を支えなければなりません」
 その表情には、はっきりと決意が浮かんでいた。
「アイシャちゃん……」
 アイシャの言わんとして居ることを察した詩穂は、沈痛な面持ちで唇を噛みしめる。
 少しでも崩壊を食い止めるためには、国家神の祈りが必要だ。
 しかし、祈り続けるということは、外界との交わりを一切絶ち、それこそ、全てを賭して戦うということに等しい。
 詩穂の表情に気づいたアイシャは、ふと表情を緩めた。
「これは、私にしか出来ない戦いです。詩穂、応援してくれますか」
「もちろん……もちろんだよ、アイシャちゃん!」
 詩穂は思わず立ち上がると、アイシャの体を正面から抱きしめた。
 震える背中を、アイシャは優しくぽんぽんと叩く。
 応援しなければならないのは詩穂の方なのに、逆にアイシャに励まされている。詩穂はきゅっと唇を噛みしめて、それから、にっこり笑った。
「負けないで、アイシャちゃん。たとえどんなに離れていても、どれだけ時間が流れても、詩穂はずっと、アイシャちゃんのこと、信じてるよ」
 そう言ってアイシャの体をぎゅっと抱くと、そっと離れ、今度は跪く様にしてアイシャの手を取る。
 ルビーの色をした瞳を覗き込むようにして微笑むと、アイシャもにっこりと笑い返す。

「ありがとう、詩穂。聞いてくれて、そして、信じてくれて。詩穂は私の、大切な友達です」


「どうかしましたか、詩穂様」
 それから暫くして、王宮から出てきた詩穂をパートナーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が出迎えた。
 久々にアイシャと会える、と浮かれて出かけていったはずのパートナーの顔色が優れない。
 不思議そうな顔をしているセルフィーナに、詩穂はうん、と曖昧に答えた。
 アイシャが祈りに入る事は、広く通達が出るまで他言無用を言いつけられている。たとえパートナーといえど、だ。
「いろいろ、あってさ」
 はは、と力なく笑う詩穂に、セルフィーナは心配そうな顔を向ける。
「……ねえ……詩穂は、アイシャちゃんにとって、ただの友達、なのかなぁ……」
 それ以上の、大切な人と思っていたのは、自分だけだったのかも知れない。そのことが、会えなくなる、という事に加えて重たく詩穂の心にのしかかる。
 勿論、友達として大切に思ってくれていること、重大な決意を自分に打ち明けてくれたこと、それは本当に本当に嬉しいのだけれど――
「詩穂様……」
 大体、何があったのかを察して――実際それは、詩穂の心を重たくしている原因の半分だけなのだけれど――セルフィーナは少し、言葉を選ぶ。
「詩穂様、陛下の隣に相応しい相手になるには、詩穂様ももっと強く成長しなくてはなりません。例え陛下が詩穂様を愛する人として選ばなくとも、陛下の幸せを祝福できるような気持ちを持つ……そうすれば、強い人になれるのです。」
 諭すようなセルフィーナの言葉に、詩穂はうん、と小さく頷く。
「そう……そうだよね」
 もっと、強くならなくちゃ。体だけじゃ無くて、心も。
 詩穂は決意を新たに、そっと胸のブローチに触れた。