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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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『家族団らんのひととき』

 窓を開けた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)を、立ち並ぶ木々の間を抜けて、爽やかな風が迎える。
「いい天気だ。……さて、今日はどうしようか」
 今日は休日、特に予定はない。涼介はぐるりと自分の部屋を見回し、積まれていた書物を紐解くことに決める。
「これとこれを……よし。折角だ、下で読むとしよう」
 見繕った本を手に、涼介は部屋を出て階段を降り、日光の降り注ぐ縁側へと向かう。庭ではミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)が、洗い立ての洗濯物を干していた。
「あっ、お父様。読書ですか?」
「ああ。ミリィはお手伝いかい?」
 はい、と微笑んで、ミリィが広げたタオルを物干し竿にかける。
「よくお手伝いをしてくれるんですよ」
 ミリアに褒められて、少し恥ずかしそうにミリィが笑みを浮かべる。二人が家事に勤しむ傍ら、縁側に腰を下ろした涼介が手にした本のページを捲る。

 ぐぅ、とお腹が鳴った音で、涼介は今が昼に差し掛かりつつあることを知った。
「涼介さん、そろそろお昼にしませんか?」
「そうだね。そうしようか」
 呼びに来たミリアに頷いて、涼介は立ち上がりキッチンへと向かう。キッチンにはミリィもいて、既にエプロン装備でやる気十分といった様子だった。そもそも、こうして休日に家族皆でお昼を作るようになったのは、ミリィの提案がきっかけだった。
「お父様とお母様はこうして、わたくしに『食べることの大切さや恵みへの感謝』を教えてくださりました」
 以来、涼介とミリア、ミリィの三人でお昼ご飯を作るようになっている。今日のメニューはドイツ風のロールキャベツとサラダ、焼きたてのパンと作りたての苺ジャムだった。
「涼介さんには大きいのを用意しますね♪」
 ミリアの手元で、適度な大きさに丸められた挽肉が柔らかくなったキャベツに包み込まれていく。形が崩れないように紐で縛った後、焼き目をつけるのがドイツ風だが、その手際も見事なものだった。
「わたくしもお父様やお母様のように、料理の腕を上げたいですわ」
「焦ることはない、ゆっくり、楽しんで学ぶといい。
 料理をするにしろ食事をするにしろ、楽しくなければならないからね」
 捏ねられたパン生地をちぎり分けていくミリィに、新鮮な野菜と果実を適当な大きさに切り分けながら涼介がアドバイスをする。ミリィが言っていた『食育』というほどのものではないだろうが、料理をする心構えとして大切なことであった。

 オーブンの戸が開かれると、焼きたてパンの香ばしい香りが漂う。同じくして、十分に煮込まれたロールキャベツが皿に盛り付けられ、ほわん、と湯気が上る。
「さあ、持って行こう」
 三人がそれぞれ料理を持ち、テーブルクロスを敷いたテーブルに並べていく。カップにカフェオレが注がれ、パンに色鮮やかなジャムが添えられた。
「では……いただきます」
 皆が席に着いたのを確認して、涼介が手を合わせ感謝の言葉を紡ぐ。ミリアとミリィも続いて、そして思い思いに料理に手を伸ばす。
「……あぁ、これは絶品。噛むごとに味が溢れてくる」
「ふふ、ありがとうございます。パンもふっくらして、作った人の温かさを感じられますわ」
「それはきっと、お父様のお母様への愛、ですわね」
「ゴホンっ! ……そ、そういうことにしておこうか」
「ふふふ♪」

 笑みの絶えない時間が流れていく――。

「すぅ……すぅ……」
 すやすや、と安らかな寝息を立てるミリィ。食事も終わり、後は片付け……となるはずだったが、ふとした思いつきからこうして三人、『川』の字のように仲良くお昼寝、となったのであった。
「安心した寝顔……。ミリィも突然やって来て、大変だったでしょうね」
 ミリィの頭を、まるで母親の子に対する手つきで撫でるミリア。
「……ミリアさんには、感謝しています。ミリィが私とミリアさんの子供だという、普通には信じがたい話を受け入れてくれて」
 涼介の言葉に、ミリアは少し考えて、そして口を開く。
「ええ……確かに、難しい話だと思います。
 でも、どこかで私は、ミリィを私の子供だと、そう思っているんです。だから私は、ミリィの『母親』として、この子を愛してあげたい」
 それはきっと、女にしか分からないことで、また女の強さでもあろう。
「……ふふ。ねえ、涼介さん。
 いつか……子供、作りませんか?」
「…………へ? あの、それは一体――」
 突然投げかけられたミリアの言葉に、涼介が呆けた態度で返すと。
「……すぅ」
「あの……ミリアさん?」
 寝息を立てるミリア、だがすぐにふふふ、と笑みをこぼす。
「ごめんなさい涼介さん。食事の時、ミリィの言葉で動揺した涼介さんが珍しくて、私もしてみたくなったの」
「……なるほど、そういうことでしたか。ええ、確かに驚きました――」
「あ、でも、さっき言ったことは、本当ですよ」
「――――」

 なんとも幸せな、休日のひととき――。