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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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『休日、二人で仲良しデート!』

●昼:イナテミス

「んっ……はぁ。……うん、いい天気♪」
 初夏の日差しを浴びながら、抜けるような青空に向かって水神 樹(みなかみ・いつき)が背伸びをする。理由もなくそうしたくなるほどに、今日は快晴だった。
「樹、何をしていますの? 置いていきますわよ!」
 樹の前方から、振り返ったカテリーナ・スフォルツァ(かてりーな・すふぉるつぁ)の声が飛んでくる。その先は、大勢の人で賑わう市場。
「今行くよー」
 誘った時は「まあ、樹がそこまで言うなら、ついていってあげますわ」なんて言っていたのに、今では自分より乗り気になっていることにおかしさを覚えつつ、樹は急ぎ足でカテリーナの下へ向かう。

「いろんな物があるね」
 軒先に所狭しと並べられた商品を見ていきながら、樹が呟く。新鮮な果物や海産物、色鮮やかな装飾品に加えて、この辺りでは珍しい物も見受けられた。
「交易が盛んなのは、街が平和であることの証。この街も……いえ、イルミンスールも着実に、立ち直ろうとしているのですわね」
 カテリーナの言葉に、そうだね、と答えて樹は、今日までの出来事を振り返る。
 東の大国エリュシオンの宣戦布告、世界樹ユグドラシル、龍騎士アメイアとニーズヘッグの襲撃。
 地下に広がる魔族が治める国、ザナドゥの宣戦布告に始まった戦争。
(人も森も、たくさん傷ついた。……でも、こうして皆、力を合わせて立ち上がろうとしているんだ)
 目の前を、人間の青年と精霊の少女が通り過ぎる。二人は魔族の少年(に見える)に話しかけ、三人連れ立って通りの向こうへと歩いていく。今やイナテミスは人間、精霊、魔族が共存する街へと変わりつつあった。
「これからもずっと、平和だといいよね……って、あれ? カテリーナ?」
 いつの間にか姿を消したカテリーナを探して、樹が辺りをきょろきょろと見回す。もしかしたら、と思う樹の予想通り、見つけたカテリーナはとある精霊の女性のスカートを隙あり、とばかりに捲っていた。
「あぁもう、何やってるのっ」
 慌てて駆け出し、そしてカテリーナの下へ辿り着いた樹は、何故かカテリーナが不服そうな顔をしているのに気づく。
「あの女性、あたくしが捲って差し上げたにもかかわらず、少しも動揺しませんでしたわ。なんてことかしら」
「お、怒るの、そこなの……?」
 カテリーナの態度に呆れつつ、まぁこれも平和だからなのかな、と思う樹であった。

 しばらく市場を練り歩き、二人は喫茶店で腰を落ち着ける。カラン、と氷が音を立てる飲み物は、汗ばんだ身体をちょうどよく潤してくれた。
「んー、このケーキとってもおいしい。カテリーナも一口食べてみてっ」
「あたくしはいいですわ……いえ、そうね、樹がどうしてもと言うのであれば、食べてあげてもいいわ」
 その態度が強がりであったことは、樹から勧められたケーキを頬張ったカテリーナの幸せそうな表情から丸わかりであった。
(こういう所は、可愛いなぁ)
 微笑みながら、でも、と樹は思う。姿こそ幼女にしか見えないが、カテリーナは自分よりずっと大人だ。それに生前は(こう言うのもなんだかおかしいけれど)、かなり激しい日々を過ごしていたようだと調べて知った。
「……まさかあたくしが、こんな、普通の女の子がやるようなことを出来るとは、思っても見ませんでしたわね」
 窓の外に顔を向けて、カテリーナがふっ、と呟く。遠くを見るような目、ここに来る前の光景を思い出しているのだろうか。
「……カテリーナ……」
 樹が目をグラスに落とす、残っていた氷がチャプン、と混じって溶けていく。
 数度の結婚、自分の領土を守るための戦い、そして……敗北。
 同じ女性でありながら、カテリーナの歩んできた道はとても想像し難い。
(私が何か言える立場じゃないかもしれないけど……)
 そう思いながら、願うように浮かぶ言葉は。

『今の人生で、少しでも穏やかな日を楽しんでほしい』

 自分に向けられる気配に樹が顔を上げると、カテリーナがじっと見つめていた。
「こういうのも、悪くありませんわね」
 ふふ、と微笑むカテリーナに、樹もつられて笑う。何となくだけど、カテリーナが自分の『言葉』に応えてくれた、そんな気がした。
「さあ、そろそろ行きますわよ。あたくし、新しい服がほしいんですの。
 樹、あなたに選ばせてあげますわ!」
「えっ、わ、私に?」
 突然のことに驚く樹を横目に、カテリーナが席を立って歩き出す。
「ああっ、ま、待ってっ」
 慌てて後を追いかけながら樹は、頭の中でカテリーナに似合いそうな服を想像し始めていた。
(たっぷりレースのついたワンピース? それとも、ちょっとおてんばなタイプの服?
 ふふ、色々着させてみたいな♪)

 二人の平和な休日は、まだまだ続く――。