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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
今年もアツい夏の予感 今年もアツい夏の予感 今年もアツい夏の予感

リアクション

「……そうか、今日は何も起きないのか。それはよかった……ような、よくないような……」
 ビキニではないぴっちりと密着した水着を着てきた雅羅と美緒を遠目に眺めながら密かにため息をついた青年がいました。蒼空学園の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)です。彼は、トランクス型の膝丈まであるボトム水着にTシャツを羽織ってまして、長時間の掃除にも対応出来るような格好でこの掃除に参加してしました。何しろたっぷりと女の子の水着姿が眺められるのです。時間をかけてゆっくりと丁寧に汚れを落としていきます。しっかりと洗剤をまいたプールの底面をデッキブラシと水圧の強い放水機を使って洗浄していく正悟ですが、そんな彼をニンマリと眺める視線に気づいて振り返ります。
「そんなちんたらしていたら、いつまでたっても掃除は終わらないよ、お兄さん」
 話しかけてきたのは、ポニーテイルで目つきの悪い少女でした。百合園学園の自称、発明家ローザ・ベーコン(ろーざ・べーこん)です。彼女は、プール掃除と聞いて秘密兵器を持参してきたのでありました。
「じゃじゃ〜ん、これこそ画期的な掃除機、『ワイドノズルの拭き掃除機』だよ」
「……はあ」
 突然の不思議少女と謎のアイテム出現に正悟は目を丸くします。
「これは、溜まったゴミを一気に吸い取り、同時にプールの底まで磨き上げる機能のついた優れものだよ。ほらほら、どいたどいた。さっさと掃除を終えて泳ぐよ」
「……はあ」
「あっ……ごめんね、うちの子が絡んでるみたいで。基本スルーでオッケーだから」
 ローザのマスターのミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、デッキブラシで床を磨きながらこちらに走ってきました。百合園の公式スク水姿の彼女は、ローザに半眼を向けます。
「もう……みんな真面目に掃除しているのに、そんなガラクタというかゴミを持ち込んで……。今すぐ捨ててきなさいよね」
「ゴミとは失敬な。ボクの発明品に失敗などあるわけがない!」
 ドヤ顔で『ワイドノズルの拭き掃除機』を掲げたローザはさっそくスイッチを入れます。
 ゴオオオオオッッ! と不吉な音を響かせながら掃除機は動き始めます。
「……」
 よくわからないけど関わり合いにならないでおこうと、正悟は掃除用具を持ったままミルディアたちから距離を取ります。
「そういえば……」
 彼は、再び自分の持分の掃除に戻りながら考え事をし始めます。
(そういえば……我慢大会に出場した教導団の小暮君が90度で勝率68%とか言ってたらしいけど……打率じゃない以上あまり高くない確率だよな。某スーパーなロボット対戦ゲームとかだと回避率70%とかでも5連続で被弾したりするし。……つまり、あれは彼が簡単に敗れるであろうと言うことを事前に想像させることによって、我慢大会の困難さをアピールしていると言うわけか。さらには、それでもなお挑もうとする真のツワモノと小暮君や遠藤さんたちの身を案じる参加者たちをおびき寄せようという目論見があるに違いない。……いずれにしろ、あちら側に行かなくてよかった……)
「……ん?」
 邪悪な陰謀に考えをめぐらせていた正悟は、ごりゅっと足元で何かを踏みつける感触に我に返ります。
「って、あ……やべっ。考え事してたらホース踏んでたっ!」
 放水機から噴出する水の出口が塞がれ、水圧で根元がボンッ! と音を立てて吹き飛びながら外れます。
「うわまずっ、放水機の根元にいたメンツ、びしょびしょになるだけならまだしも……水圧で吹っ飛ばされて!?」
 慌てて視線で追った先には、雅羅や美緒たちがいました。あの勢いで水の直接噴射を受けたら、エライことになるんじゃ……! そう彼の直感が告げたのも一瞬。
 だが、今日の雅羅は違います。ビキニではなく、ピチピチのスクール水着を身に着けたネオ雅羅なのです。突然の水の放射に驚いて悲鳴は上がりますが、水の勢いで上だけポロリということは無いのです! 
「……ほっ。後で謝りにいこう」
 正悟は大事にならなくてよかったと胸をなでおろしますが、それは早計でした。
「どぉぉりゃぁぁぁ!」っと気合を入れてデッキブラシで底を掃除していたミルディアが、走りながら雅羅たちの近くまで駆け寄っていたのです。そして、その後を追うように『ワイドノズルの拭き掃除機』を駆動させていたローザが「うわっ!?」と声を上げます。
 渾身の彼女の発明品は、勢いよく水を浴びて回線がショートしボムッ! と煙を吹きました。その反動で、掃除機の吸入口が後ろを向いていたミルディアに吸い付いてしまいます。
「きゃあああっっ!? なにこれ……?」
 ミルディアは掃除機の口を引き剥がそうとしますが、力が強く、しかも彼女は後ろを向いたままなので取れません。
「うむ……発明に失敗はつきものだよ! あいにくどうやって止めたらいいか判らない」
 重々しく頷くローザにミルディアはちょっと涙目で言います。
「ちょっと、そんなこと言ってないで、誰かこれ外して」
「……ごめん、半分俺のせいだ」
 正悟は、急いでミルディアの元に駆けつけると、掃除機の口に手をかけミルディアから引き剥がそうと力をこめます。そんな正悟の改心の一撃が……!
 ビリッ! という嫌な音と共にミルディアの着ていたスクール水着がまともに破れます。背後からベロリと、彼女の尻の下まで……。
「あ……」
「えっ……?」
 ゴウンゴウンと掃除機は水着の切れ端を吸い込んでしまいました。
「……きゃあああああああっっ!」
 ミルディアは正悟をグーで思い切り殴ります。その勢いでたたらを踏んで、今度は正悟が掃除機に吸いつかれてしまったではないですか。それも、彼のはいているトランクス水着に。
「やばい、コレはヤバい……逃げなきゃヤバい……でも逃げるともっとヤバい気がする……!」
 半ばパニックになった正悟は、掃除機の吸引から逃れようと引っ張りながらもがきます。食らってみてわかる、想像以上の威力です。全力をこめないと逃れることは出来ません。溺れる者がワラを掴むように、彼の手が助けを求めて宙をさ迷います。そして……。
 ゴオオオウゥッ、ズボッ……! という鈍い音と共に、掃除機が正悟の水着を吸い込みます。
「……えっ!?」
 体勢を崩した彼は、条件反射的に目の前にあるとっかかりに手をかけしがみつきました。
 それは……。近くで唖然と事態を見守っていた雅羅のスク水。
 ズルリ……!
 助けを求めて掴んだ正悟の両手が、雅羅の水着を上から下まで華麗に引き摺り下ろします。
「やっち……まった……ッ」
 生物の本能として死を悟った正悟は、プールの底に倒れ伏したまま動かなくなりました。
「き……きゃああああああっっ!?」
 雅羅が悲鳴を上げます。それを聞きつけて他の人たちも集まってきます。
「……!」
 ミルディアと雅羅はすぐに助けられましたが、誤魔化しきれないと判断した正悟は、脱兎のごとく逃げだします。水着が掃除機に吸い込まれてしまったために、下には何もはいてません! 周りにいた女の子たちが悲鳴を上げます。
『たとえ世界中から裏切り者扱いされても、やるべき事がある!』
 彼は決めゼリフをカッコよく叫びました。
「今あんたのやるべきことは! 死ぬことよ!」
 女の子見てセクハラしようとする奴が居たらついでにお掃除してやろうと待ち構えていた白波 理沙(しらなみ・りさ)が、正悟の脳天を叩き割ります。
「……っていうか、これセクハラってレベルじゃないんだけど」
 理沙のパートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が、正悟の心臓を撃ちぬきます。
「わたくしもお掃除を頑張りますわ。な・の・で・お掃除の邪魔をしないで下さいましね」
 白波 舞(しらなみ・まい)が可愛らしく微笑みながら、正悟の腰を叩き折ります。
『たとえ世界中から裏切り者扱いされても、やるべき事をやった!』
 世界に反逆した如月正悟は、ツァンダの屋外プールでその生涯を終えました。享年20歳。成し遂げた男の顔には満面の笑みが浮かんでいたと言います。