天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

今年もアツい夏の予感

リアクション公開中!

今年もアツい夏の予感
今年もアツい夏の予感 今年もアツい夏の予感 今年もアツい夏の予感

リアクション

「ふふ……、小暮がやられたようですね。しかし彼は四天王……じゃなかった、教導団メンバーでは最弱!」
「……そんなこと言っていいのですか?」
 少し離れたところには、シャンバラ教導団のルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)も粘っていました。といいますか、彼らの周囲は、金髪逆毛のルカルカをはじめ、彼女のパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)と知り合いで固められています。我慢大会というよりも、いつものお茶会みたいな雰囲気なのでありました。それが証拠に……。
「え、食べ放題の会じゃなかったのかよ? 空調が効かなくなってちょっと蒸し暑い和食屋かと思っていた」
 鍋焼きうどんをお変わりしながら淵は言います。彼もルカルカと同じく、『ファイアーリング』やスキルでがっちり固めてありますので、この熱さでもさほど苦痛ではない様子。
「食べねば、食べねば……! なんせ俺は育ち盛りであるし」
 強迫観念にかられたように淵は次々と注文しては食べていきます。英霊は成長しないのは知ってる、でも育ち盛りだと彼は力説します。
「まあ、そう気張りなさんな。あなたがその身体で充分にルカルカを助けていることはみんな知ってるんですから。彼女も頼りにしてますよ、ねえ……?」
 真一郎は慰めるような口調で言って、ルカルカにも確認する。
「まあね、ちみっこいのも魅力の一つだわ」
 ルカルカが微笑むと淵はガタッ! と立ち上がります。
「ちみっこいって言うなー!」
 真一郎をたしたしと叩きながら可愛らしく膨れます。
「屈め、届かぬ!」
「はい、わかりました。……ほら、こうやったら届くでしょう」
 優しい真一郎は淵の手が届くように屈んでくれます。
「ううう、ばかにすんなー」
 素直に受け取られるとそれはそれで腹の立つもので淵はますます不機嫌になります。
 それを横目で見やりながら、ルースは小さくため息をつきます。
「しっかし……こりゃ、想像以上に熱いですね。とっくに規定温度の90度超えてますよ。早くプールに入りたいですよ……」
「まあ、俺だって暑いの必死で我慢してますし。そろそろ限界かもしれませんね……」
 淵にぽかぽか叩かれながら、真一郎は弱気な表情になります。
「ねえ、真一郎、一緒にリタイアしませんか? こんな不毛な戦いは早く切り上げて、水浴びに行きましょうよ」
「そうですね。明らかに有利な人たちもいますし、俺たちだけが気張っていても仕方がないですよねぇ」
 ルースの提案に真一郎も頷きます。
「もう我慢大会やめましょう。……じゃあ、外に出ましょうか」
「ええ。……では、真一郎からどうぞ」
「いえいえ……ルースさんからお先にどうぞ」
「いやですねぇ。もしかして、あなただけ先に外に出して自分だけ残るんじゃないかとか疑っていませんか?」
「まさか……ルースさんに限って。同時に出るフリして相手だけ外に突き出そうかって考える人でもあるまいし……」
「外では、冷たいアイスクリームが待っているそうですよ? 一緒に食べに行きましょう」
「いいですね。水着の女の子もいるようですし、一緒に見に行きましょうか」
「ええ。……では、真一郎からどうぞ」
「いえいえ……ルースさんからお先にどうぞ」
「……」
「……」
 ルースと真一郎はお互いに牽制するような笑顔で見つめあいます。
「なにやってんのよ、あなたたち……」
 ルカルカがあきれたように突っ込んできます。
「……」
 そろそろ頭がぼんやりしてきました。ルースは熱さを紛らわせるために、サウナの室内に視線をめぐらせます。参加者の中に可愛い女の子でもいたら眺めて癒してもらうとしましょう。



「……」
 アリストアはあれからずっと微動だにせず正座を続けていました。あらゆる誘惑は彼女には効果はありません。ただひたすら心を無にして灼熱をじっと耐え忍びます。
 そんな中……。
 まずは、遠藤&アイリコンビですが……。
「……おい、あまり無理しなくてもいいんだぞ。苦しかったらもう出よう……」
 俯いたまま黙り込んでしまった寿子とアイリを案じて、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が言います。彼女ら二人は、最初の頃こそは比較的元気なようすで他の参加者たちとも会話を楽しんでいたのですが、30分ほど前から急に無口になり食べ物にも口をつけず、じっと耐え忍ぶように目を閉じたまま息遣いだけ荒くなってきています。
「……これ、かなりヤバイんじゃないか。……もう救護班呼ぶぞ、いいな?」
 そう言う恭也の手を寿子はそっと握ります。
「……待って……まだ、よ……まだまだいけるんだから……」
「もう少し……頑張らせてあげてください……」
 アイリもかすれるような小声で言ってきます。
「いや……しかし……」
 恭也は寿子たちに最初から付き添っている奈月と理知にも視線をやりますが、こちらもまだ大丈夫な様子……。
「ありがとう、まだ……頑張れるよ……。ぬいぐるみさんだって、応援してくれているんだもの……」
 寿子は、うつろな目で正面を見やります。その視線の先には、見たこともない着ぐるみが座ってこちらを見ているのでありました。
 その着ぐるみの中身は、半ば不意打ち気味にエントリーされて我慢大会に出ることになった瀬乃 和深(せの・かずみ)です。彼は最初、女子の水着姿を堪能すべくプールに向かう予定でした。が、パートナーから「ちょっと我慢するだけで学食券1ヶ月分もらえる簡単な仕事がある。当然その後はプールに入れるぞ」などと言われ、ほいほいつられて我慢大会会場へやってきたのでした。どういうわけか着ぐるみまで用意されており、引くに引けない状態で、今こうしているのです。
(……)
 和深は着ぐるみ越しに寿子と目が合うと、応援するように小さく手を振ります。それがよほど嬉しかったのか、着ぐるみが好きなのか……寿子の表情が明るくなります。
 そんな可愛らしい彼女の様子に、和深自身も励まされます。開き直って優勝を狙っていたのですが、少なくとも彼女らを見届けるまでは絶対に残ることにしよう、と決意します。
 しかし、そんな和深のすぐ隣には、威嚇するようにガン睨みの織田 信長(おだ・のぶなが)がいます。プール掃除に行った桜葉 忍(さくらば・しのぶ)たちとは別れ、彼女は一人この我慢大会に参加したのでした。新調の水着を身に着けているのはいいのですが、その両手……。信長はサウナの中相手に精神的ダメージを与える為に真っ赤に焼けた石を握っています。
「ふ、ふんっ……、そんなこけおどしがいつまで通用すると思っていますのやら……」
 参加者たちの様子をじっと見つめていたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が不敵な笑みで言います。意地っ張りなエリシアは、今回敢えて一切の準備をせずにこの我慢大会に挑んでいます。
「スキルを使うなんて邪道ですわ」
「スキルではないんじゃのぅ、これが……」
 エリシアの台詞に信長が答えました。
「なあ、知っておるか……? 信長の逸話の一つに火起請と言うのがあり、信長は真っ赤に焼けた鉄を素手で握りそれを持ち運んで揉め事を解決した事があるらしい」
「だからどうだって言うのよ……」
「わからぬか……私だって生身じゃ。スキルなぞ使っておらぬわ。じゃが、焼けた石など物の数ではない。何故なら……私は信長だからな!」
「す、すごい自信じゃないの……。ですが、魔女の執念、甘く見てもらっては困りますわ!」
「おっと……、今握っている石も温度が下がってきたようじゃの。新しい石に交換しなくては……」
 信長は、火鉢の中にくべてあった新しい石を握りなおします。
「くくく……なんともないのぅ。私は暑いのを我慢するのには自信があるぞ!」
「ぐ、ぐぐぐ……、そ、そういえば、全然暑さが足りませんわね。そうですわ、おでんをいただきましょう。あと、焼き芋と熱い緑茶も追加したいですわ」 
 エリシアは、追加注文を入れ、どんどん熱い食べ物を消化していきます。
「ああ……」
 そんな彼女らを見ていた寿子の元気がしおしおとしおれていくのが目に見えてわかります。心が折れる寸前のようです。それでも耐えなきゃ! と葛藤して苦しんでいます。
(……)
 寿子を元気付けるため和深は着ぐるみを着たまま軽く踊ってみました。サウナの中で……。頭がくらくらしますが、まだ大丈夫でしょう。おかげで寿子が少し息を吹き返したような気がしました。
「寿子ちゃんでも頑張ってるんだもの。ワタシに耐えられないことなんか、ないはずよ……」
 おでんを食べながら想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)は自分に言い聞かせるように呟きました。彼女は、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)のパートナーであり義姉でもあります。外でプール掃除を頑張っている弟のために、何としても学食券を手に入れないといけません。
 夢悠は雅羅に惹かれているのです。イルミンスール魔法学校生ですが、学食券を手に入れたら、蒼空学園にも食べに行けてしまいます。それを口実に雅羅に会いに行けるってわけです。そして、二人はさらに親密に……。
「雅羅ちゃんとのウキウキランチタイムのために、負けられないわ!」
 瑠兎子は、他の参加者への精神攻撃としてセーターを三枚厚着して、スキルの【エンデュア】を精神防御代わりに用いて我慢大会に挑んでいました。
「……ワタシは……雅羅ちゃんと一緒に、二人羽織をして、雅羅ちゃんが出すおでんを……食べてみたせたの……!」
 彼女はかつての思い出を回想します。走馬灯のように。
 もう何杯おかわりしたでしょうか……。あの時と同じようにおでんを食べながら、彼女は呟きます。
「この、おでんは……雅羅ちゃんがワタシに食べさせていると思えば……なんともない、わ……!」
 いつしか瑠兎子の瞳は落ち、頭は机に突っ伏していました。箸がカラリと手から零れ落ちます。
「雅羅ちゃんの……おでん……」
 瑠兎子は雅羅と、そして弟と一緒におでんを食べる夢を見ながら真っ白になっていました。
「お疲れ様。よく頑張ったわね」
 救護班のリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が、優しく外に連れ出してくれました。