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シャンバラ大荒野にほえろ!

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シャンバラ大荒野にほえろ!

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「で、どうしますか。あまりゆっくり考える余裕はないと思うんですけどね」
「てめぇは口を開くな」
 富田林に決めつけられ、倉田は小さく肩を竦めて口を閉じた。
「……富田林刑事」
 今まで黙って何か考えを巡らしていた鉄心が口を開いた。
「ひとつ、常識的な意見として聞いてもらえますか」
「なんだ」
「現状に最も適した行動は、まずウィルスのキャリアであり発症の危険性のある西園寺刑事の緊急隔離です」
 富田林が何か言うかとひと呼吸置いたが,彼は黙って、ざわめく一同を制止した。
 鉄心は続けた。
「その後、別働隊でテログループのアジトを強襲、抗ウィルス薬を奪還します」
「ふん、まあ、真っ当だな」
「でも間に合いますか」
 倉田が口を挟んだ。
「発症までのタイムリミットはあと4時間から5時間。アジトを包囲、突入、制圧、抗ウィルス薬を捜索、入手、現物と確認して、隔離場所に輸送、使用許可を取って接種……というところですか。運が良ければ間に合うでしょうが……さて、運に賭けますか?」
「倉田、てめぇ」
 いきなり、富田林の手が倉田の襟首を掴み上げた。
「ぼ、暴力はダメですっ」
「……わかってる」
 慌てて声を上げたイコナにそう答えたが、富田林はその手を離そうとはしなかった。苦しげに顔を歪める倉田を睨みつけて、絞り出すような低い声で訊いた。
「てめえ、何を企んでやがる」
 倉田は無言で富田林の殺気立った視線を受けとめていたが、やがてふいと目を逸らして顔を背けた。
「……くそ」
 短く吐き捨てて、富田林はようやく倉田を放した。
「あ、あの、トンさん、あたし……」
「お前は黙ってろ」
 しかし、のるるは黙らなかった。
「やっぱり、あたしのことは隔離してください。あたしだって、刑事です。皆さんに迷惑をかけるくらいなら……」
「黙れと言ってるんだ!」
 その剣幕に、のるるは青ざめた顔で黙リこんだ。
 のるるだけではない。誰もが息を詰め、富田林の結論を待っていた。
 そして富田林は、迷いも見せずに答えを出した。
「軍や公安なら知らんが、生憎俺は一介の所轄の刑事だ。被害者の人数を秤に掛けるやり方はしない。俺が西園寺を連れて、抗ウィルス薬を取りに行く」
「トンさん……」
「だから、その呼び方はやめろと……」
 顔をしかめて頭を掻くと、虚ろな顔で座り込んだままの倉田に目をやる。
「こいつの言いなりになるのは気に食わんが、現物を確認できるのはこいつだけだ。こいつも連れて行く」
 そう言って鉄心に視線を戻す。
「酷い結論だが、構わんな」
 鉄心は笑って、
「別に問題ありません。僕はあくまで検討の為の模範解答をひとつ、提案しただけですから」
「そうね、本来なら私たちの立場としては、模範解答の方を選ぶべきなんだけど……」
 ルカルカがそう言って、のるるを見る。
「今回は、民間人としてのるるさんの依頼に応えて参加してるからね。彼女の安全を優先するわ」
「……ただし、ウィルスの危険を見逃す訳にはいきません。最悪の事態を避ける為に、我々も援護させてもらいますよ」
 レリウスが口を開くと、周囲から口々に同意の声が上がる。
「仕方ねえな、乗りかかった船だ」
「もちろん、協力させていただきます!」
「さっさと片付けて終わらせるか」
「それじゃ、さっそく計画を……」
「おい、待て……ちょっと待て!」
 富田林が慌てたように会話を遮った。
「なんで、お前らはいちいちそうなんだ」
 めずらしく困惑の色を見せて、富田林が言った。
「危険を冒す人間は最低限に抑えるべきだ。俺が責任を持って西園寺を連れて行く。お前らは全員このまま空京に戻って、本部の指揮下に入れ」
「まだそんなことを言ってんのか、おっさん。ガキは信用できないとでも言うつもりか」
「そんな話をしてるんじゃねえよ」
 憤然として声を上げた呼雪に、富田林は意外なほど静かに言った。
「ここまでのお前らの助けには感謝してる。だが警察官として、危険とわかっている所に民間人を同行させることはできん」
 それから、鉄心たちの方を振り返る。
「軍人さんたちも同じだ。あんたらが軍の権限を持ち出すなら、俺には止められん。だが個人的な協力だと言うなら……ここまでだ」
「聞けませんね」
「ですよねぇ」
 先刻までの張りつめたような空気が、いつの間にか僅かに和らいでいる。
 富田林の結論を聞いたことで、彼らの意志は決まっているのだ。
 セレンが腕組みをしたまま悠然と笑う。
「言っておきますけどね、富田林さん……基本、私たちはのるるちゃんを助ける為に集まってるの。帰れって言われて帰る人はいないわよ」
「それに、この作戦の遅延や失敗は絶対に許されない。使える戦力はすべて使うべきだ。安全策を取っている余裕はないと思うが」
 ダリルが言う。富田林は忌々し気に息をついた、
「……くそ」
「あの、トンさん」
 のるるが口を開く。
「あたしも、皆さんは帰るべきだと思います。でも……」
 ごくりと唾を飲み込んで、僅かに青ざめた顔で、しかし意を決した様な口調で続ける。
「依頼を出した時点で、皆さんの行動は皆さん自身の判断に委ねられています。これは、そういう信頼関係の上での依頼なんです……だから、あたしは皆さんの判断を尊重したいです」
 富田林が苦虫を噛み潰した様な顔をする。
「そのかわり、あたしが皆さんを守ります。それじゃダメでしょうか」
「……お前に、そんなことができると思ってるのか」
「やります。あたし、刑事ですから」
 まっすぐに自分をみつめるのるるを睨みつけ、富田林は吐き捨てるように言った。
「ったく……これだから、ガキは」