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シャンバラ大荒野にほえろ!

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シャンバラ大荒野にほえろ!

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4 空京郊外 倉庫

「あったの?」
 真っ先に飛び込んでで来た小鳥遊美羽が訊く。
「いや、まだ」
 苦い声で、白竜が否定した。
 拘束されたサカイは、羅儀に銃を突きつけられて床に座り込んでいる。
 と、恭也が荷物のダンボールの下からジェラルミンのケースを見つけて引っ張り出した。
「……おい、ケースだ」
「あ……っ、きっ、貴様っ……アレが割れたら……全員この場で死ぬんだぞ!」
 ヒステリックに喚くサカイを見下ろして、クロス・クロノスが微笑んだ。
「お生憎様。アレがウィルスじゃないことは、とっくに調べが着いてるわ」
「な、なにっ」
 こちらの根拠も倉田の証言だけなのだが、はったりを込めたクロスの言葉に、サカイは滑稽なほどに反応した。定まらない視線をせわしなく動かして呟く。
「な、なんで、貴様、それを……」
 あまりにわかりやすい反応に、クロスは苦笑して恭也に目をやった。
「大丈夫みたいですね」
「だな」
 恭也がケースを開ける。
 しかし、中は空だった。
「……痛っ、ちょっと、手加減してくださいよ……」
 文句を言いながら引っ張って来られたのは、後ろ手に手錠をかけられた倉田だった。その後から富田林、そして西園寺のるるが入って来る。
「ケースが空だ。アンプルの在処はまたわからん」
 驚きの声を上げるサカイを無視して、鉄心が簡潔に報告する。富田林は倉田を見て訊いた。
「アンプルを探せるか」
「そりゃ、ここにあるなら……見間違えやしませんけど」
「なら、探せ。すぐだ」
 倉田はため息をついて、哀れっぽい視線を富田林に送る。
「いいですけど……」
 背中で拘束された手を動かして、鎖の音を鳴らしてみせる。
「……せめて、こいつは外してくださいよ」
「ダメだ」
「じゃ、無理です」
 睨み合いになる二人に、のるるが割って入った。
「大丈夫ですよ、トンさん。この状態じゃ、逃げ様がないですもん」
 富田林が無言で眉を吊り上げた。
「まあまあ、確かに、睨み合ってても仕方がないですよ」
 マイト・レストレイドがそう言って富田林を宥め、倉田に歩み寄って手錠の鍵を取り出した。
 この手錠は、マイトの戦闘用手錠なのだ。富田林のものは、大荒野に放逐された時に武器とともに奪われている。のるるのものは、墜落した飛空挺の所に投げ出して来た荷物の中だった。
「くそ……」
 富田林が苛立たし気に毒づく。しかし、最悪の場合の発症時間まで、あと一時間を切っている。確かに、野郎二人で睨み合っている時間的余裕はどこにもない。
 マイトが手錠を外すと、倉田はホッとしたように肩をほぐし、腕についた拘束痕を撫でた。
「ふう……さて、どこかな」
 腕をさすりながら、部屋を見回す。
「他の部屋っていうことはないでしょうか」
 ティー・ティーが小さな声で鉄心に訊いた。鉄心は小さくかぶりを振り、サカイを見た。
「あの男が、手元から放すとは思えない。この部屋の、それも手の届くところにある筈だ……」
 詰み上がったダンボール、事務用の質素な机と椅子、旧型の伝票用コンピューター、その台、ファイルの並ぶ棚……ゆっくりと歩き回りながら、倉田は視線を移動させていく。
 やがて、部屋の隅の窓の前のテーブルの前に立つ。
 喫煙スペースになっているのか、灰皿とタバコが数箱、それに安っぽいシガレットケースが置いてある。
 そこで倉田が足を止めた瞬間、サカイが目に見えて狼狽した。
 倉田は振り返ってサカイを見ると、ちらっと笑みを浮かべ、シガレットケースに手を伸ばした。
「……あ、貴様ッ」
 悲鳴に似たサカイの声を無視してケースを手に取った。咄嗟に、富田林がそれを制止して、ケースを受け取ろうとしたが、倉田は構わずケースを開いた。
 そして、中から茶褐色のガラスのアンプルをひとつ、そっとつまみ上げた。
「これです」
「渡せ」
 富田林が差し出した手を、倉田がはね除けた。
 その瞬間……アンプルが倉田の手を離れ、空に舞った。
「……なっ」
 富田林の視線がアンプルを追う。
 視界がスローモーションになったように、アンプルは緩やかな放物線を描いて飛んだ。
「わあっ」
 マイトが手にした銃を放り出し、両手を伸ばしてその着地点に向かって身を投げた。
「……とった!」
 マイトが叫んだ。
 滑り込んだ両手の中にしっかりとアンプルが受けとめられていた。
 その時……
「ひぃ……っ」
 サカイの悲鳴と、銃声が響いた。
 マイトの手の中のアンプルに集中していた視線が、そちらを振り返る。
 放り出された銃を拾った倉田が、それを構えていた。
 そしてその銃口は……サカイの顔に、ぴたりと向けられていた。