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第十章 悪代官の罠屋敷 一

 ともあれ、そんなこんなで、敵の第一陣はあっという間に蹴散らされた……が。

「……代官たちがいない!?」
 八重の叫びで、全員がはっと我に返る。
 そう、最初だけ顔は出していたものの、戦闘が始まるや否や、代官と越後屋はさっさと奥へ逃げ込んでしまったのである。

「探せ! 探すんだっ!!」
 誰からともなくそう言って、悪代官の捜索に移る正義の味方御一行。

 そんな中で、屋敷の奥ではなく、なぜか外周を回っていこうとする二人組がいた。
 ろざりぃぬとシンである。
「ふふん、こういう時どこに隠れるかなんて、ちゃんとわかってるのさー」
 自信満々のろざりぃぬが目指したのは、台所の横の炭小屋であった。
「……それ、ちょっと違うんじゃね?」
 シンのツッコミ通り、炭小屋に隠れるのは時代劇は時代劇でも忠臣蔵である。
 しかし、ろざりぃぬの中では全てが明々白々であった。
「代官! 神妙にするでゴザルよ!」
 そう叫んで、ろざりぃぬが炭小屋の戸を勢いよく開けたその時。

 いきなり、炭小屋が大爆発を起こした。





 爆音に気づいて、他の正義の味方御一行が戻ってくる。
 駆けつけた彼らが見たものは、爆発に巻き込まれて完全に戦闘不能に陥っていたろざりぃぬとシンの姿であった。
「こ、これは一体……!?」
 驚く八重に、セレアナがぽつりと言った。
「……罠ね」
「罠ですって!?」
 驚くセレンフィリティに、セレアナは表情一つ変えずに続ける。
「ええ。そしてそれがここだけとは思えない」
「では……まさか?」
 否定の言葉を期待して、佐那が屋敷に目をやる。
 だが、セレアナの返事は無情だった。
「この屋敷自体が、罠の塊と思った方がいいわね」

 屋敷のセットは越後屋ことミネルヴァによるもので、内部構造は実はスタッフも把握していない。
 肝心要の脚本は「あとは流れでお願いします」のみ。
 ということは――これは、ドラマという名目のガチ勝負ではないか?

「……はっ。面白い」
 真っ先に、奈津が不敵な笑みを浮かべる。
「そうね。やっぱりこうでなくっちゃ」
「かくなる上は、こちらも遠慮は無用ということか」
 続いて、ルカルカと義輝も。
「うむ。ファラオの力、見せつけてやろうぞ!」
 トゥトゥも大乗り気で一度力強く頷き、かくして罠屋敷への突入が再開されたのであった。

 ちなみにろざりぃぬとシンはというと、他の一同とカメラが去るのを待っていた救護班のホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)によって可及的速やかに回収され、ホリイと草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の治療を受けたのであった。
 今回はスキルも使用するとのことで、全作品通じて大活躍だった医療班であるが、最も忙しいのはここからである。
 なにしろ、これから始まるのは、まさに「筋書きのないバトル」なのだから。





 そして同じ頃。
「ふふふ……まず二人、かかりましたわね」
 外部の様子をスマホでチェックしながら、越後屋は満足そうに頷いた。
 もはや、スマホが普通に出てくるくらいは今さらツッコむに値しない。
「だがどうする、罠があることがバレてしまったぞ」
 意外と心配性な悪代官であったが、越後屋はあくまでも強気である。
「ご心配なく。まだこちらには『史上最強の用心棒』と、『史上最悪のトラップ』が残ってますわ」
 不敵に笑う越後屋を見て、悪代官――いや、ハデスには別の疑問がわいてきていた。
「それはいいが……もし、正義の味方が全滅したらどうするつもりだ?」
 そう、戦闘部分に関しては十六凪をうまく使って「何一つはっきりしたことを書かせない」という形にしたものの、一応その後の大団円の部分は脚本ができているのである。
 だが、越後屋――いや、ミネルヴァは、楽しそうに笑いながらこう言ったのだった。
「あら? たまには悪が勝ってもいいじゃありませんの」