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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第1章 不審なお客さま、いらっしゃいませ☆ですわ

「はーい、詩穂だよ☆ 今回は詩穂登場から始まるもん☆ きーみーも、詩穂の、愛と友情と真心の母乳練乳クリームがたっぷりのウルトラスーパーミラクルコーヒー、一杯いかがぁ?
 カフェ・ディオニウス
 トレーネは、と書こうとしたら、客の一人である騎沙良詩穂(きさら・しほ)が、突如自己主張を始めた。
 店内には他に客が何人か居座っていてコーヒーをすすっているが、実はもう閉店した後である。
 だが、ディオニウスは、閉店後の秘密の会議にこそ、その最大の特徴があるといってもいい。
「あらあら、詩穂ちゃん。ここのコーヒーは、あなたが淹れたものではないですわ」
 カウンターの奥にいるトレーネ・ディオニウス(とれーね・でぃおにうす)が、閉店後もまだいる客をもてなすため、あらたなコーヒーを淹れながら、やんわりとたしなめるような口調でいった。
「くすくす☆ わかってるもん☆」
 詩穂は、トレーネが浮かべるのと同じ、妖艶な笑みを浮かべて答えてみせた。
「わー!! 詩穂ちゃん面白ーい!! わー!! わー!!」
 詩穂と同様、ディオニウスの居残り客を決め込んでいる小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が、飲みかけのコーヒーカップをテーブルに置き、ニコニコ笑いながら首をうちふってはしゃいでいる。
「あの、僕にももう一杯お願いします。すみません」
 美羽の傍らで、肩を小さくしてやりとりをうかがっていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、か細い声でトレーネにいった。
「はい、コハクちゃん。わたくしには、あなたのような子が可愛くみえますわ」
 トレーネは、匂いたつカップをコハクの前に置きながら、妖しく視線で撫であげるようにして、ニコッと微笑んだ。
「あ、は、はい」
 そんなトレーネと目が合ってしまったコハクは、思わずドキドキとしてしまう。
 その様子をみて、トレーネはさらに楽しそうに微笑むのだった。
「へー☆ 一歩間違ったら、ここはコハクのハーレムだもん☆」
 詩穂も、コハクの様子にニンマリと微笑んだ。
「何、それー? ハーレム? 一歩間違ったら? どう間違うの?」
 美羽が、目をぱちくりして首をかしげる。
「ト、トレーネさん、そ、そんな、ハーレムだなんて。ぼ、僕は」
 意味がわかってしまったコハクが、顔をいよいよ赤らめて、照れ隠しにコーヒーをがぶ飲みする。
 無理もない。
 その時点で、ディオニウスの店内に男子は限りなく少ない、というか、コハク一人しかいなかったのだ。
「あははははは! 美羽、本当にハーレムの意味わかんないの? どうしよ、パラミタ知恵袋で質問してみようか? それとも、パラミタこども電話相談室に聞いてみようかな? よーし!」
 一連のやりとりを聞いていて思わず吹き出してしまったパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)が、ハイテンションの勢いおさまらず、ノリで電話をかけ始めてしまった。
 ピッ、ポッ、パッ
 閉店後の店内に、プッシュホンの操作音が鳴り響く。
 プルルルルルルル
 ガチャッ
 電話が、パラミタこども電話相談室につながった。
「もしもしー?」
 パフュームが陽気な声で電話の向こうに語りかけたとき。
「やあ、ハロー! アイラブユー、ベイビー!! 今日電話してくれてありがとう!! それじゃ、御礼に大予言をしてあげようか? きみは、いま、どこにいる? うん? 喫茶店? よーし、それじゃ、運命が大転換! いまから、きみたちのお店に、常識を越えたとんでもないお客さんがきまーす!! レッツ・オープン・ザ・ゲート!!」
 異様にテンションの高い相談室のお兄さん(本当に?)が、パフュームに質問する間を与えず、一方的にまくしたてたのだ。
 常識を越えているのはお前だろう、というところであった。
 だが。
 ドンドン、ドンドン!!
 相談室のお兄さんの言葉にすかさず反応したかのようなタイミングで、閉店後のディオニウスの閉めきられた扉を、誰かが激しく叩いてきたのである。

「あら? もう閉店ですのに。しょうがないですわね。どなたでしょうか?」
 トレーネは、眉をひそめながらも、特別サービスで、ディオニウスの扉の錠を外し、そっと開けてみた。
 途端に。
「フハハハハハハハハハハハハハ!! 全国の蒼フロユーザーの諸君、お待ちかねー!! 我が名は世界征服を企むむ悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)であるぞ!! ストラトスの楽器を手に入れ世界を制するのは、我ら秘密結社オリュンポスだ!!! アイ・キル・ユー!! ユー・ビロング・トゥ・ミー!!」
 気が狂ったかのような洪笑をあげながら、ドクター・ハデスがディオニウスの店内にズカズカと踏み入ろうとしたのである。
「あらあら。間に合ってますわ。ごめんなさいね」
 トレーネは、驚いた様子もみせず、妖艶な笑みを浮かべてみせると、そのままバタンと扉を閉め、再び鍵をかけてしまった。
「な、何なの? いまのは?」
 コハクは、目を丸くしていった。
「え? いってたよ? オリュンポスのドクター・ハデスだって」
 美羽が、コハクをみつめていった。
「い、いや、そういうことじゃなくて」
 コハクは苦笑した。
 トレーネは、何ごともなかったかのように、再びコーヒーを淹れ始めている。
「うーん、いまのは忘れよっか。ね」
 額の汗を拭いながらパフュームが述べた言葉に、誰も異議を唱えなかった。
 だが。
 ドンドン、ドンドン!!
 ディオニウスの扉は、再び何者かによって叩かれたのである!!

「あら。今度は、叩き方が少し違うから、別の人のようですわ。どういたしましょうか。先ほどの例もありますし、無視した方がよいとも思うのですが」
 トレーネは、パフュームと、店の奥で洗いものをしているシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)とに、うかがうような目を向けた。
「うーん、無視でいっかなー?」
 シェリエが、腕組みをしていった。
 先ほどの、ハデスの突然の訪問は、衝撃的でありすぎた。
 今度の客も、ハデスと同じくらい、いや、もっとヤバいかもしれない。
 さすがの3姉妹としても、考え込んでしまうところなのだ。
 だが。
 ドンドン、ドンドン!!
 どうしても、といわんばかりに扉が叩かれる中、シェリエが意を決したようにいった。
「人によっていろいろ事情はあると思うし、ちょっとだけ開けて、誰がどんな用件できたのか、聞いてあげてもいいと思うわ」
「あらあら。シェリエがそういうのでは」
 トレーネは、扉の錠を再び外した。
 ガチャッ
「がぁう!! がうがう!! おがー!!!」
 扉を開けて顔を出したのは、恐竜の着ぐるみを着て、獣じみた言語で叫びまくっているテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)であった。
「まあ。恐竜さんがいらっしゃいですわね。もう店じまいですが、どんな用件でしょうか」
 トレーネは、テラーに尋ねた。
「あんぎゃあ、どぅがげおげ、ぐおー!!」
 テラーは、必死に意志の疎通をはかろうとするが、生粋の野生児である彼の言葉は、獣の雄叫びにしか聞こえない。
「あらあら。何をいっているかわからないですわ。仕方ないですわね。また、明日、営業時間にいらして欲しいですわ」
 トレーネはニッコリ笑ってそういうと、扉をそっと閉めようとした。
 だが。
 ガシッ!!
「お、おごぁ!! ががががが、がおがいが!!」
 トレーネが閉めようとするその扉を手でおさえて、テラーはなおも叫び続けた。
 どうやら、本気の本気で訴えたいことがあるようである。
「困ったわね。トレーネ、とりあず中に」
 入れてもいいでしょ、という言葉を、シェリエはのみこんだ。
 テラーの脇に、あらたな客が顔をみせたからだ。
「ああ、ちょっと、すまぬな。事情により、貴様ら3姉妹を頼らざるをえないのだ」
 クロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)が、ディオニウスの店内に呼びかけていた。
「我輩がテラーの通訳をするゆえ、中に入れてくれぬか」
 クロウディアは、叫び続けるテラーの口をおさえて、そういった。
「仕方ないよね。ドロテーアも通訳やるから」
 ドロテーア・ギャラリンス(どろてーあ・ぎゃらりんす)もまた、クロウディアとともに、テラーの脇に現れていった。
「あらあら。とりあえず3名様、いらっしゃい、ですわね」
 トレーネは肩をすくめてニコッと笑うと、3人をディオニウスに招き入れた。
「ううん☆ テラーのいってること、詩穂にもわからないもん☆」
 詩穂は、テラーの出現に戸惑うばかりだった。
「あはははは! 私にはわかるよ!! なんちゃって。嘘だよー!!」
 美羽も、テラーの話をそのまま聞いたら、目を丸くするしかなかった。
「う、うがうが!! ぼぼぼぼぼぼぼー!!」
 テラーは、通じないもどかしさから、地団駄を踏んだ。
「そうせかすでない。我輩たちが話そう」
 クロウディアが、テラーのいいたかったことを簡単にまとめてくれた。
 それは……。
 テラーたちの仲間であるトトリ・ザトーグヴァ・ナイフィード(ととりざとーぐう゛ぁ・ないふぃーど)がいなくなった。
 おそらく、3姉妹が追っている女性誘拐事件に巻き込まれたとみられる。
 ついては、3姉妹が企画しているという囮調査に、協力させてもらえないだろうか。
 テラーとしては、是が非でも、トトリの行方を突き止め、救出したいのである。
 と、いうものだった。
「あらあら。何かと思えば、そんな簡単なことを伝えようとしてらしたんですわね。感心ですわ」
 トレーネはニッコリ笑って、テラーの顎を撫でた。
「がががが、ぎゃおすー!!」
 テラーは、喜んで吠えた。
「ちょっとちょっと。せっかく通訳やろうと思ったのに、ドロテーアが話すことがなくなったじゃないの」
 ドロテーアが、膨れ面になった。
「そう怒るでない。以後の通訳は任せよう」
 クロウディアが、やれやれとため息をついていった。
「さて。どういたしましょうか?」
 トレーネは、シェリエとパフュームの意向をうかがった。
「うーん。連携、か。気持ちはわかるんだけど、テラー君、追跡とか、向いてなさそうだしなー」
 パフュームは、考え込んでしまった。
 テラーは、獣のような叫びを発しないとしても、その外観から、あっという間に尾行を気取られてしまうだろう。
 パフュームたちとしては、いろいろ荷を背負うことになりそうだ。
 シェリエも、無言のまま、考えこんでいる。
「うがうが、げおげおどらごんごん!!」
「是非お願いします、といってるよ」
 ドロテーアが、テラーの言葉を訳した。

「僕からもお願いします!!」
 テラーの依頼に3姉妹が考えこんでいるとき、ディオニウスの扉が突如開かれたかと思うと、榊朝斗(さかき・あさと)が店内に踏み入りながら、誠実な口調で呼びかけてきた。
「あらあら。鍵をかけておくのを忘れていましたですわ」
 トレーネが、頭をかきながらいった。
「お願いします、って?」
 美羽が尋ねた。
「実は、ルシェンも少し前から行方がわからなくなっているんだ。ここは、みんなで協力して、誘拐犯のアジトを突き止め、さらわれた人たちを救出しようじゃないか!!」
 朝斗は力説した。
 その傍らで、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)がウンウンとうなずいている。
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)
 朝斗たちにとって、ルシェンはかけがえのない仲間なのだ。
 そして、テラーにとってのトトリの存在もまた、同様なのである。
「榊くん。あなたなら、ワタシたちから協力をお願いしたいぐらいだわ」
 シェリエが、ふっと目を和ませていった。
「ありがとう。それじゃ、テラーたちとも。いいよね?」
 朝斗は、まだ叫んでいるテラーを指して、いった。
「それは、う、うーん」
 シェリエは、また考えこんでしまう。
 そのとき。
「よーし、やる気満々だもん☆ 詩穂たちもサポートするもん☆ だから、みんなでやろうだもん☆ ねっ×100?」
 すっかりテンションの上がった詩穂が、3姉妹に呼びかけた。
「私もやる!! みんなとやる!! 徹底的にやろうよ!!」
 美羽も、興奮のあまり椅子から立ち上がって叫んでいた。
「みんながサポートしてくれるのか。それじゃ!!」
 パフュームも、元気が出てきたようだ。
「全員で協力して、事件を解決しようと思うわ」
 シェリエがいった。
 トレーネは、無言のまま、妖艶な笑みを浮かべていた。
 そして。
「うごごごごごぉおお!! ふんぐるいいぃぃ!!」
 テラーは、すっかり感激して、相変わらずの獣じみた叫びをあげ続けていた。