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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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【神劇の旋律】消えゆく調べを求めて

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第7章 お風呂場で流しっこして大相撲☆ですわ

「さあ、お前たち、これから、お風呂に入るんだよ!!」
 意地悪な顔をしたアマゾネスたちが、歯を剥き出しにして吠え、囚われの女性たちを浴場へと誘導した。
「お風呂に入るのですわね。嬉しいですけど、この方たちに監視されながらでしょうか?」
 トレーネは、腕を拘束している鎖を引かれて移動しながら、首をかしげた。
「まあ、そうだろうね。でも、そのときがチャンスだよ」
 トレーネと同じく連行されているルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、そっとトレーネに耳打ちしていった。
「チャンスとは?」
 真顔でルカルカをみつめるトレーネに、ルカルカはしーっとしてみせる。
 実は、ルカルカは、他にさらわれてきた女性たちと打ち合わせして、脱出計画を練っていたのである。
 その実行のときが迫っているのだった。

「よし、いよいよ突入開始ですけど、その前に合図があるんだそうです。どうしましょうか?」
 湯上凶司(ゆがみ・きょうじ)が、集結した仲間たちを振り返って、いった。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)らによって解析された追跡データをもとに、ついに、誘拐犯たちのアジトが判明した。
 さっそく、凶司たちは、ダリルが指定した、空京のとある雑居ビル近くに集合したのだった。
 さあ、問答無用でただちに殴り込みだ、といきたいところだが、そうもいかない。
 何しろ、さらわれた女性たちがとらわれているのである。
 彼女たちの身の安全も確保しなければいけないのであった。
「キョウジ! その合図はいつあるの?」
 エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が早く暴れたいといった様子で大剣を振りまわしながらいう。
「始まったら、セラフと私が先に行くわよ」
 ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が打ち合わせを始める。
「オッケー。2人で露払いするよぉ」
 セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が、指をぱちんと鳴らし、片目をつむっていった。
「だから、合図は、いつ、どんなのがー」
 エクスはもどかしげに足で地面をばたばた叩きながらいった。
「それは、中にいってる人たち次第だそうです」
 凶司は、少し困ったような表情でいった。
 今回、生徒たちは厳密に組織だった行動をしているわけではない。
 わりとアバウトな指示を受けて、後は各自の判断で動くようなかたちだ。
 凶司たちが待っている合図というのも、いったいどんなもので、どのようにして示されるのか、さっぱり見当がつかないのだ。
 ただ、出てくれば、それが合図だとすぐわかるようなものだと聞いていた。
 もちろん、中に潜入した生徒たちが失敗すれば、合図は出ない。
 そのときは、凶司たちが正面突破を試みることも考えられていた。

「タリア、本当にここにいるのか?」
 早川呼雪(はやかわ・こゆき)もまた、雑居ビル近くに身を潜めながら、合図のときを待っていた。
「まあ、可能性はかなり高いんじゃない? トレーネちゃんが身を張ってくれたおかげで、わかった場所なんだから」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が、呼雪の不安を見透かしたように、いった。
 タリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)
 空京のコンサートを聞きにいって、その帰りに行方不明になってしまった、呼雪たちの仲間である。
 そのタリアが、この中にいるのだとしたら?
 呼雪は、いまにも突入したい気持ちを抑えるのに懸命だった。
 だが、まずは合図を待たなければいけない。
 合図がきたとしても、呼雪たちが果たすつもりの役柄は、正面から突入することではない。
 まず、ベルフラマントで姿を隠した状態で、秘密裡に突入して、他の突入役たちをサポートする。
 それが、呼雪たちのたてていた計画だった。
「タリア、いまいくぞ。待っていろ」
 呼雪は、拳をかたく握りしめて、そのときを待つのだった。

「レイチェル、元気にしとるかな? いまごろ大暴れしてたりしてなー」
 大久保泰輔(おおくぼ・たいすけ)もまた、雑居ビルを見上げながら呟いていた。
「まあ、手はずどおりにいくことを祈るのみですね」
 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)がいった。
「泰輔、そろそろ合図がくるのではないか?」
 讃岐院顕仁(さぬきいん・あきひと)が尋ねた。
「ああ、できれば、レイチェルが合図してくれたらええんやけどな」
 泰輔は、雑居ビルの上階の窓をみつめながらいった。
 既に囮として潜入しているレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)のことが、ひたすら気がかりだった。
 レイチェルは外見上は男性にみえるが、今回わざわざ女らしい格好をしていったので、囮としては成立しているはずだった。
 本当の性別は女性なのだし、実は男だと思われてしまって問題になるようなこともないはずである。
 もっとも、性別を真に確認するには、いろいろ脱がせてみなければわからないわけだが。
 泰輔は、ごくりと唾を飲み込んだ。
 レイチェルは、いったいどんな目にあっているのだろうか?

「さあ、さっさと脱いで、湯槽につかるんだよ!!」
 脱衣所に入ってからも、トレーネたちはアマゾネスたちに小突かれ、怒鳴られながら一人ずつ脱ぐことになった。
 服を脱ぐときは鎖を外されるが、全裸になるとまた手かせをはめられる。
 みれば、アマゾネスたちも一人ずつ順番に全裸になっていて、一緒に入浴するようだ。
 浴場内部でも見張られながら、身体を洗うことになりそうである。
「さあ、脱出のときがきましたね」
 浴場内に全員が入ったのをみはからって、レイチェルは呟いた。
 レイチェルの隣でシャワーを浴びていたルカルカもうなずく。
 レイチェルの合図で、囚われの女性たちは、サイコキネシス等を駆使して、いっせいに自分たちの拘束を解除した。
 実は、拘束を解除するだけなら、いつでもできたのである。
 しかし、いつ解除するかが問題だった。
 牢の中で解除しても意味はない。
 かといって、牢の外でも四六時中アマゾネスたちに見張られている。
 暴れるにしても、できる限りケガ人は出したくなかったので、いろいろ考えた結果、入浴中がいい、ということになったのだ。
 この瞬間なら、見張り役のアマゾネスたちも全裸だし、自分たちに武器がなくても、浴場にはいろいろと便利な品がある。
 単純にお湯をかけるだけでも目くらましになるし、石けんやシャンプーはある意味化学兵器である。
 いっせいに決起するなら、浴場が最適だとの判断であった。
 浴場なら、アマゾネスたちも気が緩んでいるし、何か起きても、バルタザールに連絡がいくまで時間がかかるだろう。
 ただし、自分たちも全裸のまま闘うことになるし、浴場から出るときも、服を着ている余裕はなさそうであったが。
 こうして、女性同士の全裸の大バトルが始まったのであった。
「こんのー!! 好き放題やりやがってー!!」
 ルカルカはお尻をひらめかす全裸のジャンプキックで次々にアマゾネスを転倒させると、その身体を湯槽に次々に放り込んで、のぼせさせていった。
 他の女性たちも、主にアマゾネスにつかみかかって、湯槽の中に押し倒す戦法をとっていた。
「あらあら。みなさん、美しい身体に傷をつけないようにして下さいね」
 トレーネは、湯煙の中で美しい肢体を披露しつつ、アマゾネスたちとの闘いに巻き込まれないように立ちまわっていた。
 できれば服は着たいところだが、緊急にことを運ぶ必要があるので、やはり全裸のまま廊下に出なければならないだろう。
 まあ、タオル一枚ぐらいは羽織りたいところだが。
「トレーネ、外で待機しているだろう連中に合図を送って!!」
 ルカルカの声に、トレーネは即座に反応した。
「そういうことなら、本当に服は着てられませんわね」
 とりあえずタオルを羽織って、猛スピードで廊下に飛び出す。
 入浴していないアマゾネスたちに気づかれる前に、合図を送らなければならない。
 トレーネは、一番近くにみえた窓に向かって走った。
 窓を開ける。
 さて、どんな合図がいいか?
 とっさの判断で、トレーネは、身を覆っていたタオルをとって、窓の外に突き出すと、ひらひらと揺らせてみせたのである。
「ああ、早く、気づいて欲しいですわ。この態勢も恥ずかしいですから」
 トレーネがひたすらタオルを揺らしていると、その剥き出しのお尻に、冷たい金属が触れる感触があった。
 トレーネのしていることに気づいたアマゾネスたちが、槍の先で突ついてきたのだ。
「わあ!!」
 振り返ったトレーネは、たちまちのうちに押さえつけられる。
 窓の外で揺らしていたタオルが、手を離れて、地上へと落ちていった。
 トレーネは、全裸のまま、背後にまわされた両手首をぐるぐるに縛られて、廊下を歩かされていった。
 おそらく、バルタザールのもとへ連行されるのだろう。
 トレーネの背後では、レイチェルやルカルカたちが、集団でアマゾネスたちと闘っている音が聞こえてきた。
 みな、とりあえず浴場を出たようだ。
 合図を出すために一人先行していたトレーネは、また捕まってしまったのである。

「きたで!! あのタオルが合図や!!」
 泰輔は、夜空をひらひらと舞うタオルを目にして、叫んだ。
「それでは、泰輔」
 顕仁が促した。
「よし、いくで!!」
 泰輔は、浮遊した。
 ふわふわふわ
 浮遊して、トレーネがタオルを落とした窓のところまでのぼってゆく。
 窓から中をのぞきこんだ。
「おお、これは、目のやり場に困るで!!」
 全裸で闘う女性たちの姿を目の当たりにして、泰輔は当惑した。
 よくみると、その中にはレイチェルもいるではないか。
「レイチェル!! いま、何か着るもんも持ってくさかいな!!」
 泰輔は、窓の直近にまで近寄ると、空中で精神を集中させた。
「はああああ、召還!!」
 ぶわっ
 地上にいた顕仁の姿が消える。
 次の瞬間、顕仁の姿は、泰輔のすぐ側、ただし、窓を隔てた向こう側、ビルの内部に現れていた。
「おお、うまくいったではないか」
 顕仁は満足した様子で、窓の鍵を外し、泰輔をビルの内部に招き入れた。
「さあ、上空で待機していた人らも!!」
 泰輔の招きに、チェンタウロ戦闘偵察飛空艇で上空に待機していたレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が動いた。
「了解です。それでは、私たちもリブロを救出するため突入しましょう」
 レノアはそういって、チェンタウロを移動させた。
 しゅごおおおおお
 泰輔のいる窓の近くにまで飛空艇はやってきた。
「さあ、その飛空艇の操縦席から、この窓の中に飛び移るんや!!」
 泰輔は促した。
「いえ。そういうやり方では、やりにくいので」
「なんやて?」
 レノアの返答に泰輔が戸惑ったとき。
 どごおおおおおおん!!
 レノアは、空中からビルの外壁に攻撃を仕掛け、粉々に吹っ飛ばして、大きな風穴を開けてしまった!!
「お、おわあああああ」
 泰輔は驚いて、その場から離れた。
「さあ、強行です!!」
 レノアは、空中からなおも、ビルの内部に向けて攻撃を仕掛ける。
 掃射であった。
「ああ、もう、せやったら、窓の鍵を開ける必要ないやんか、もう、鼻息荒いんやから!!」
 泰輔は弾丸に当たらないよう避難しながら、アマゾネスたちを蹴散らし、誘拐されたレイチェルや他の生徒たちを救出しようと動いた。
「それじゃ、私もいくよ!!」
 航空戦闘飛行脚【Bf109G】を装着して浮遊していたエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)もレノアに続いて、突入する。
「戦場の黒い悪魔になるからね!!」
 どどどどどどどど!!
 建物の外壁にさらに弾丸が撃ち込まれ、壁が次々に崩壊し、風穴を広げていく。
「おやおや。そんなにやったら、中の人が危ないじゃないか。しょうがないねえ」
 F4Uコルセアを装着して浮遊していたアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)は、ニヤッと笑うと、空中からビル内部に侵入して、単身でアマゾネスと闘い始める。
「健闘を祈ります。リブロを救出できたら、この飛空艇で離れましょう!!」
 レノアは、アルビダの背中に切ない視線を向けた。
「もちろんさ。白豹を濡らさないで!!」
 アルビダは、自分が決めた合言葉を口にした。
「すみませんが、私の合言葉は違います!! オール・ハイル・リブロ!! オール・ハイル・リブロ!!」 
 叫んで、レノアは掃射を続けた。
 どどどどどどどどどどど
 ビル内部の壁や備品が次々に砕け散り、瓦礫が次々に夜空を舞って、地上に落ちてゆく。

「よし、上空からの奇襲が始まりましたね。それじゃ、僕たちも正面からの突入開始です!!」
 凶司は、ビル上階の外壁が砕かれるのを目にやって、叫んだ。
「よーし、突入だわ!!」
 ディミーアが、走った。
 ビルの裏口の扉を斬りつけて、破壊する。
 中に入り、階段を登った。
 襲撃に気づいたのか、階段の上から武器を構えておりてくるアマゾネスたちを、次々に斬り捨てていく。
「じゃ、援護するよぉ」
 セラフ・ネフィリムは、そんなディミーアの後に続いて、ひたすら銃弾での援護に努めた。
 ちゅどどどどどどど
「あ、あがあ」
 剣に斬られ、銃弾をくらい、悲鳴をあげて倒れてゆくアマゾネスたち。
 たちまちのうちに、屍の山が階段に築かれた。
 その上を登ってゆくセラフたち。
 ついに、アジトがある階にたどり着いた。
 敵が、より一層の激しさで襲いかかってくる。
「それじゃ、ここでボクが!!」
 露払いの2人を押しのけて、エクス・ネフィリムが大剣を振りまわして突進を仕掛けた。
「どいてどいて!! こっちは急いでるんだってば!! 出せー!! 女はどこだー!! って、敵も女だね」
 手当たり次第に斬りつけ、血の煙をしぶかせながら走るエクス。
「おお、あれは、全裸の人たちが」
 エクスの後から走る凶司は、浴場から全裸で脱走して闘っている、囚われの女性たちの姿を目にして、とりあえずどう反応すべきか戸惑った。
「ほら、みとれないで助けるんだよ」
 エクスが、大剣を凶司に突きつける。
「わあ、斬るな、斬るな。うーん、とりあえず、抱きしめればいいのかなー」
 焦った凶司は、全裸の女性たちに抱きついて、保護しようと努めた。
「何すんのよ、エッチー!!」
 ぼごお
「ぐはあ!!」
 抱きつかれた女性は驚いて、凶司は、思いきり張り飛ばされていた。

「タリア、どこだー!!」
 呼雪たちもまた、凶司たちが突入すると同時に、ベルフラマントで身を隠して突入していた。
 凶司が張り飛ばされたのをみたときにはさすがに呆れたが、全裸の女性たちの中にタリアがいないか、必死に探した。
 そして。
「いた! タリア!!」
 ついに、全裸のまま、手で胸を隠してアマゾネスと棍棒を振るっていたタリアを発見したのである。
 呼雪は急いでタリアの手を引いて救助した。
「あ、あら!?」
 タリアは、突如生暖かいものに触れられて、ドキッとした。
「タリア、すまない、みえなかったんだった。俺だ」
 呼雪は、ベルフラマントを脱いでいった。
「呼雪!? ありがとう、きてくれると思っていたわ」
 タリアは、胸を隠していた手をほどいて、呼雪に抱きついた。
「いまはよせ」
 呼雪は、銃弾が飛びかう中なので、さすがに自粛を求めた。
「っていうか、ほら!!」
 ヘルは、自らのベルフラマントをタリアに着せてやった。
「いつまでタリアちゃんの素っ裸をさらさせとくんだよ、もう」
 ヘルとしては、もう少しみていたい気もしたのだが、そういうわけにもいかないのだった。
 呼雪はうなずくと、タリアをヘルに任せて、アジトの奥へと突入していく。
 むろん、タリア以外の生徒も救出するためである。
 囚われの女性たちはなぜか全員全裸で闘っているので、早急な保護が必要だった。