なし

リアクション

　まだ驚愕の余韻が残るイーリャに向けて、ルースは再び戦闘時の録画データを指差しながら問いかけた。
「それともう一つ。この機体なんですが、追加装甲や飛行ユニットをゴテゴテ付けて偽装しちゃいるものの、どうも俺達の知っている機体に思えて仕方ないんですよね。そんでもって精密な分析をかけたもんで、最終的な確認をアカーシ博士にもしてもらおうと思いましてね」
　ルースが指差したのは禽龍と交戦しているスクリーチャー・ゲイルもとい、その正体であるスクリーチャー・オウルだった。彼の言い方から何を言わんとしているのかを察したイーリャは、画面に映った機体を見てから自分も口を開く。
「ええ。私も気付いていました。実際、私は前回の戦闘でも……それ以前に天御柱学院でこの機体を見たことがあります――間違いありません。この機体は、かつて天御柱学院に在籍していた天貴彩羽さんのスクリーチャー・オウル」
　複雑な表情でイーリャが告げると、ルースは苦笑とともにため息を吐いた。
「となると、やっぱり……ですか？」
　イーリャは複雑な表情を更に複雑にした後、その問いに答える。
「今回、戦闘終了後の調査で蒼空学園のイコン製造工場は外部からのハッキングを受けた形跡が確認されました。緊急時に際して動力炉を緊急停止させてから作業員が避難したにも関わらず、その動力炉の制御系が突如として暴走したことを考えれば、状況証拠としても揃っているかと。そして、それだけのハッキング技術を持った人物となると、自然と限られてきます――まだ断定はすべきではありませんが、天貴さんが実行犯である可能性は高いでしょう」
　どこか苦しげにイーリャがそう言い放った時だった。格納庫の硬い床を靴が打つ音が、金属製の壁に反響する。その音にはっとなってイーリャたちが振り返った先には乱世が立っていた。
「狩生さん……」
　パイロットスーツ姿なのを見るに、愛機であるバイラヴァの整備に関係することで格納庫を訪れた際に偶然、今の話を耳にしたのだろう。
「その話、本当なのか？　まぁ、彩羽の奴はキナ臭い動きをしてやがるとは思ってたが、まさか寺院についてたとはな」
　乱世にしては珍しく、ただ淡々と感情のない声で彼女はイーリャに語りかける。
「……ええ」
　一方のイーリャは苦しげな顔で頷いた。
「姉を強化人間にされたこととか、よ――彩羽の境遇には同情の余地もなくはねえが、だからと言ってテロリズムを正当化するダブルスタンダードを許容するつもりもねえ。テロは戦乱をかえって拡大・泥沼化させ、結果的にあいつの唱える理想を遠ざけるしな」
　肩に担ぐように持ったヘルメットを持ち直すと、乱世はなおも告げていく。
「敵をブッ倒したりとか、そういった共通の目的で行動や共闘しているうちは、過干渉はしないが積極的に見逃す気もねえし、前回の貸し借りを盾に逃走幇助をするつもりもねえ――『それはそれ、これはこれ』ぐれえの方針だったけどよ――」
　そして、イーリャの瞳をまっすぐに見つめ、乱世は言い放った。
「逆に寺院に味方してこちらに敵対する場合は、敵機同様全力で叩き潰すぐらいの気持ちでいく。少なくとも、あたいはそうだ――だから、次に会った時は、あたい自身の手で叩き潰す」