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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション


第二章

 同時刻 ツァンダ郊外 アサノファクトリー

「あたしの母校、蒼空学園を好き勝手に侵略なんてさせないんだから! アサノファクトリーの本拠地はツァンダにあり! いくよみんな――アサノファクトリー総出で、破損したイコンを受け入れて、修理を行い前線に復帰させるよ!」
 整備用のガレージに快活明朗な少女の声が響き渡り、そこに集まったメカニックはもちろん、その気概を目の当たりにしたパイロットたちをも鼓舞する。
 蒼空学園からスクランブル出撃した部隊が“フリューゲル”部隊を迎撃している間、声の主である朝野 未沙(あさの・みさ)を筆頭に、朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)、そしてティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)の四名はツァンダ郊外のアサノファクトリーを修理拠点として一時的に開放し、破損した機体の前線復帰を行う為に人員と設備をフル稼働させていた。
 彼女たちだけではない。アサノファクトリーの一員であるヤクトも戦闘こそしないものの、威嚇の為に庭に立つという重要な役目を果たしている。
 その甲斐あってか、アサノファクトリーのガレージでは今も順調に修理が進められている。ただし、たとえ進捗状況は順調であっても、いかんせん捌かなければならない数が多すぎるのは間違いなく、大挙して押し寄せる要修理イコンとそれに伴う膨大な作業量は着実にアサノファクトリーを圧迫しつつあった。
「破損状態が酷いけど修理すればまだ戦えそうな機体はあたしのところで面倒見るよ!」
 大量のイコンとパイロット、そして作業機械でごった返す広大なガレージ内にも聞こえるように未沙は拡声器で叫ぶ。その言葉に応じ、瞬く間に大量のイコンが未沙の前に長蛇の列を作る。蒼空学園のイコン部隊だけあってほとんどがイーグリット・アサルトだが、もはや機体が何であったか判別がつかないほどに破損している機体も少なくなく、そうでなくとも中破以上の破損状況のものばかりだ。
 染みついた油や塗料が模様を描く年季の入った作業用ツナギの袖で額の汗を拭うと、未沙は自分を奮い立たせ、行列の前に立つイコンから作業に取り掛かった。持ち得る才能と努力を全投入し、未沙はもはや人間の限界値を超えた速度と精度で作業を開始する。
 瞬く間に一機、また一機と、本来ならば廃棄に回されてもおかしくはないほどの破損状況だった機体が息を吹き返していく。機体を持ち込んだパイロットたちは皆一様に、ただただ未沙の持つ技術力に見入っていた。その様子たるや、あまりの驚愕のせいであたかも魂が抜けたかのように呆けた顔をしている者ばかりだ。
 そうしている間にも、息を吹き返した機体が動くようになった腕で敬礼し、自分の足でガレージを出ていき、そしてバーニアから熱を噴射して蒼空へと飛び立っていく。
 獅子奮迅の活躍を見せているのは未沙だけではない。妹たちも負けてはいなかった。
「戦って傷付いた機体を直してあげるの。そして再びお空に戻れるようにしてあげるの!」
 姉妹の中では重機の扱い等に長ける未羅は、パーツを交換すれば再出撃可能な機体を優先して修理に当たっていた。重機をまるで自らの手足のごとく自在に操り、次々とパーツを交換していく。未沙の時と同様、該当する破損機体が長蛇の列を作っていたが、あっという間にその列は半分となり、それからほとんど経たないうちに四分の一となる。
「みんなでツァンダ、そして蒼空学園を守る為に力を合わせますぅ。だから私も出来る限りサポートしますぅ」
 姉妹の中では電装系に強い未那は、計器類の修理や調整を行えば再出撃可能な機体を優先して修理に取りかかっている。マイペースな喋り方とは裏腹に、頭の回転と手先の動きの早さと正確さは未沙と同等かそれ以上にハイスピードだ。未那も姉や妹と同様に長蛇の列を前にしているが、やはり姉や妹と同様に凄まじい速度でその行列を捌き、消化していく。
 朝野三姉妹だけではない。ティナも彼女たち三姉妹に負けず劣らずの大活躍を見せていた。
「わらわの手も貸してやろう。さぁ、恐れぬ者はわらわに身を委ねるがいい。更なる力を進ぜようぞ」
 アサノファクトリーのメンバー内では、生物的な特徴を持つ機体が圧倒的に得意なティナだけあって、彼女の前に集まってくるのはイーグリット・アサルトがほとんどの三姉妹たちとは違って、アルマイン等のイルミンスルール製イコンばかりだ。そうした顔ぶれが成す行列を前にティナは嬉々とした顔で修復に取り掛かる。そのやる気たるや有り余るほどで、魔改造を加える勢いで次々と修復を完了していく。
「むぅ、時間があれば戦闘力自体の大幅な底上げが行えるものを……遺憾である」
 そうぼやきながらまた一つ修復を成し遂げたティナは、不気味に蠕動する生体部品を手に取って見つめ、次に修理待ちの機体と見比べながら、真面目な顔で呟く。
「いっそこれを組み込むか。その上で更に改造を施せば敵機を捕食し、自らの部品として取り込む機体とすることも可能であるしな」
 偶然それを耳にした修理待ち機体のパイロットは驚愕で唖然とした後、戦慄に青ざめたのだが、生体部品と機体を見比べながら脳内でシュミレーションを繰り返すことにしばし没入していたティナはそれを知る由もない。
 四人はそれぞれの得意分野を活かし、着実に修理を成し遂げていく。
 今回襲撃されたのがイコン製造工場であった為、イコンを修理できる設備や必要なパーツが確保された施設は既に破壊されてしまっており、よしんば生き残っていたとして、とても近付けるような状況でもなければ、落ち着いて修理ができる状況でもない。ゆえに、アサノファクトリーは蒼空学園イコン部隊の修理や補給を一手に引き受けることとなり、逆に言えばアサノファクトリーが個人施設だったことが幸いし、現在も修理が行えているのだ。
 今やアサノファクトリーは蒼空学園イコン部隊にとって生命線となりつつあった。
 しかしながら、それでもアサノファクトリーは確実に圧迫されていた。
(アサノファクトリーの倉庫をフル稼働させてるけど、物資がきついなぁ……。それなりに量も種類も揃えてるつもりだったけど、さすがに個人経営だから限界があるわね……)
 パイロットたちを不安にさせぬ為、決して表には出さないが、未沙の心配や不安、そして懸念は少しずつ大きくなっていく。それを自ら吹き飛ばすべく、未沙は再び雄叫びのような叫び声を上げて仲間たちを鼓舞した。
「持ち堪えていれば、きっとみんなが援護に来てくれる。だから、もう少しだけ頑張って! 時間を稼いで!」
 その言葉を信じ、アサノファクトリーの四人は互いに目配せするように見つめ合った後、一斉に頷く。だが、その後も次々と持ち込まれる機体を前に四人の心が折れかけた時だった。ガレージ内に設置された無線機のスピーカーが短いノイズを吐き出す。
「……!」
 誰かが通信を入れてきたことに未沙が気づくのと同時、スピーカーから若い男の声が流れ出す。
『こちら天御柱学院所属、機動戦艦土佐湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)だ。本艦には要修理機体の受け入れ先としての用意がある。既に何機かはこちらで受け入れているが、引き続きこちらで受け入れよう。また、そちらで捌ききれないのであれば何機かはこちらに回してくれても構わない。以上、交信終了』
 更にその直後、別の若い男の声が亮一からの言葉に続いて通信機から流れ出す。
『同じく天御柱学院所属の柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)だ。俺たちのウィスタリアもイコンの受け入れ先としての用意があるから、補給だけで済む機体はこっちに回してくれて構わないぜ!』
 ギリギリのタイミングで間に合った救援に安堵すると同時に、心の活力を蘇らせるアサノファクトリーの四人。そんな彼女たちにとって更に嬉しい報せが次の瞬間に届く。
『先日はどうもー。笠置 生駒(かさぎ・いこま)ですー。ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)も一緒に土佐に乗艦してるので、どんどんこっちに回してくださいねー』
 亮一の声に続いて通信機から聞こえてきたのは聞き慣れた声。その声は前回の事件の際に、同じ整備士として共闘した生駒のものに他ならない。
 生駒といえばアサノファクトリーの面々と並ぶ超スピード作業が可能な人物だ。そんな彼女が来てくれているとあらば心強い以外の何物でもなかった。
 救援に来てくれた面々の心強い言葉を聞いた未沙は折れかけた心を立ち直らせ、決意を新たにすると、もう一度自分たちを鼓舞する。
「さ、こっちも負けてらんないよ! 今こそアサノファクトリーの底力を見せる時っ!」
 雄叫びのようなかけ声とともにアサノファクトリーは再度フル稼働を開始した。それに合わせるかのように、ガレージの前に大量の輸送車が停車する。
「その意気だ! やっぱり女性率高いと俄然やる気が出るぜ!」
 停車した輸送車から意気揚々と降り立ったのはアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)だ。
「僕もいるよ。修理・補給は目立たないけど作戦行動の要。友軍が120%の能力を発揮できるようにしなくちゃ」
 続いて別の輸送車からもエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)も降り立つ。
 今回の作戦にあたり、二人はそれぞれの得意分野を活かして役割分担をしていた。
 エールヴァントは部隊のイコン破損時に必要な品物が何になるのか、技術者の知識や博識も応用し予測をたて、機動要塞Arcemへと多めに搭載し、更には機動要塞の修繕に必要な物品も同様に確保・搭載している。
 一方のアルフはというと、いつものように根回しを活用して物資を確保する担当だ。今までのツテ――ナンパで知り合いがいる所には現在状況、必要な物資を俺様ホットラインと称するプライベート携帯電話で聞き、コネを大事にする彼らしく対応できる限りは根回しを尽くして対応していた。
 その結果、二人は迅速に大量の物資を用意した上で輸送車部隊を引き連れ、アサノファクトリーに駆けつけることができたのだ。
 てきぱきと物資を搬入し終えたエールヴァントは未沙に話しかけた。
「現場での修理も手伝うよ。未沙さん達には君達玄人にしかできない部分を任せるから、僕達は他の者でも何とかなる部分を手伝う。その方が効率的に短時間で修繕が進むからね」
 そう言ってエールヴァントも修理作業へと加わった。
 機体の破損状況をパッと見て必要とされる物が大体判るエールヴァントは、それら物品を優先して修理機体へ運んでいく。
 愛用するタブレット端末であるKANNNAへ物資の在庫などを入れておいてその動きをリアルタイムで追えるようにしてある為、必要な物資を、速やかに、必要な所へ運べるようにようになっているのだ。
 また、指令本部とも連絡を密にして現在状況を速やかに連絡することも忘れない。指示がある場合迅速に指示に従える用意も整えてあるのだ。
 エールヴァントとだけではなく、彼と一緒にアルフも修理作業へと加わる。手始めに未沙が重い部品を持とうとしていたのに素早く気付き、代わりに持ってやりながら声をかける。
「未沙ちゃん達に重い部品とか持たせる訳にもいかないし。この逞しい兄サンをどんどん頼っておくれ」
 重い部品を運んでやりながらアルフはアサノファクトリーの面々へと更に声をかけた。
「未沙ちゃん達、人手足りなくて困ってるだろうから俺達も手伝うぜ。それと――」
 そこで思わせぶりに一拍置いてから、アルフは再び口を開いた。
「――作戦が終わったら一緒にメシでも食いに行こ」
 そう言ってナンパの成功率を上げることも忘れない。やはりこの男、どこまでいってもブレない行動原理である。