天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

学生たちの休日9

リアクション公開中!

学生たちの休日9
学生たちの休日9 学生たちの休日9

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
『――うちの生徒たちの飽くなき探究心も感心すべきものだな……っと言いたいところだが、我が校の生徒のくせに母校のイコンを使わぬとは何ごとだ』
 湊川亮一と柊恭也の挑戦を全て見ていたコリマ・ユカギールが、やれやれと言うふうに言った。
『――それで、こちらの対応はどうなっている』
『――出力や効率の結果、第二世代機への制御プログラムの変更は、個人所有を含み、ジェファルコン、ブルースロート、プラヴァー・ギャラクシーのみ完了』
 コリマ・ユカギールが、司城雪姫の淡々とした思考を読む。
 現在、天御柱学院に所蔵されている第二世代機には、対宇宙運用を想定したプログラムが導入されている。そのため、これら高出力のイコンは単機での大気圏離脱も理論上可能となった。
 もともと、機晶ジェネレータは燃料と呼ぶべき物の重量は存在しない。そのため、連続加速を行えば、燃料の重量を考慮しない加速が可能なわけである。
 だが、第一宇宙速度に達するには単純にマッハ六以上になるわけだが、そんなスピードを大気中で出されては、ショックウエーブによる地表の被害がシャレにならない。また、それだけの出力を全てフローターに回した場合、機体とコックピットを保護するバリアーへのエネルギー供給が不足してしまい、空中分解してしまうことになる。
 そのため、全てのイコンにはリミッターがかけられており、大気圏離脱はできないようになっていた。
 だが、昨今のニルヴァーナのゲートを巡る月での戦いのように、宇宙空間での運用も見なおされ、第二世代機の一部イコンにだけ、機体保護バリアとブースター出力のエネルギー配分の再計算が行われ、単機による大気圏脱出が可能となっている。
 トリニティシステムを搭載しているジェファルコンは余剰出力を十二分に使うことによって、ブルースロートはバリア機能を全て機体保護に回すことによって、プラヴァー・ギャラクシーは専用バックパックを搭載することによって、大気圏離脱を実現していた。
 ただし、天御柱学院のイコンにしても、通常はプロテクトがかけられており、学院の作戦行動でのみこのプロテクトが外され、実行できる物となっている。純粋な大気圏離脱コース以外で使用された場合、大気圏内でのイコンの機体や周辺の飛行物体や建物に多大な被害をもたらすからである。
 また、第二世代イコン以外では、現時点でのプログラムでは出力配分が実使用レベルに達せず、大気圏の単独離脱は不可能であり、確実な機体分解を意味している。
 当然、機構やライセンスの異なる他校のイコンに関しては、この機能は実装されてはいない。現時点では、シャンバラの飛空艇や機動要塞で唯一大気圏突破能力を持っているアルカンシェルに、アトラスの傷跡にある発着場で搭載してもらうしか大気圏を離脱する方法はなかった。他の機動要塞では、未だに大気圏突破の記録はない。
 
    ★    ★    ★
 
「いっちに、いっちに……」
 海京にあるグラウンドで、鳴神 裁(なるかみ・さい)が入念な準備運動をしていた。ショートパンツの野球のユニフォーム姿だ。背中には、蒼空ワルキューレとチーム名が入っている。
「よおし、あとはグラウンド100周だよ」
 重いコンダラ……もとい、グラウンド整備用のローラーを引っぱって、鳴神裁がグラウンドを疾走していく。なんだか、グラウンドがガッチガチに整地された気もするのだが。
「準備体操しゅうりょー」
 軽く身体を慣らし終えると、鳴神裁がマウンドに登った。どうやら、ポジションはピッチャーらしい。
「うっきー」
 ホームベースには、キャッチャーミットを構えた超人猿が構えている。
ごにゃ〜ぽ☆いっくよー♪
 鳴神裁が、投球練習を始める。左投げのアンダースローだ。
 パシンと小気味いい音をたてて、超人猿が第一投を受けとめた。地面に足先をめり込ませながら、白煙の上がるミットをしっかりと押さえている。
「どんどん、いっくよ〜」
 シンカーやスライダー、ライズなど、様々な変化球を練習していく。
 パワーこそ常人離れしているが、投げている変化球は凄く正統派のものである。
 なにしろ、パラミタの野球と言えば、敵をぶっ飛ばせば勝ちとか、何人参加してもいいとか、反則的な魔球を投げるとか、無茶苦茶なパラ実式野球が未だ主流である。ここは、正当な野球を広めて、その真の面白さをパラミタの人々にもいいかげん気づいてもらいたいというわけだ。
「よおーっし、次凄いの行くよ〜。名づけて、ごにゃ〜ぽボール3号!」
 1号と2号がどんなものなのか気になる魔球名を叫んで、鳴神裁がボールを投げた。変化が一定でないイレギュラーチェンジの変化球が華麗に……バックネットをゆらした。超人猿では、まだ変化に追いつけないらしい。このへん、野球も一人でするスポーツではないので、まだまだ課題は多そうだ。
「うーん、まだこのへんのフォームが甘いなあ」
 ビデオで撮った投球フォームを確認しながら、鳴神裁が肘の角度や足の開きなどを細かくチェックしていく。
「まだまた道は長いよ〜。頑張るぞぉ〜」
 きっちり予定時間まで投球練習をすると、鳴神裁が超人猿に手伝ってもらって、練習後の念入りなストレッチを開始した。
 はたして、次期パラミタ野球界は変わるのだろうか。