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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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キマクの夏休み

 
 
「お腹が空きましたわ。これ、プリンを用意しなさい」
「ありません」
 お嬢様のわがままに、古風な自動車型の飛空艇を運転していた執事君が、きっぱりと言い返した。
「ないとは、どういうことですの?」
「お金がないんです。もう、少しは自重してください」
「こ、このわたくしに、我慢をしろと……。ええい、執事失格ですわ!」
 なんとも不毛な言い合いではあるが、ヴァイシャリーを飛び出して幾星霜、放浪の資金も尽きたというのは事実である。
「なんとかして、生活費を稼ぎませんと……」
「そのくらい、お前がお考えなさい!」
 あくまでも、お嬢様はお嬢様だ。
「あそこに……」
 メイドちゃんが、前方に何かを見つけて指さした。見れば、何やらにぎやかなオアシスがある。
「競竜場のようですね」
「それはいいですわ。あそこで儲けなさい」
「そんな確定的に言わないでください。ギャンブルなんて、当たる方がまれなんですよ」
「つべこべ言わずに儲けなさい。命令です」
 確かに、儲けないと今後の御飯さえ怪しくなる。
「仕方ありませんねえ」
 執事君は、競竜場へと急いだ。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、次のレースの本命は、サンサンシスターズだ。だが、単勝はそれでも、連勝は難しい。二位に何が入るか。さあ、聞きたい奴はこっちへ来な!」
 何やら、神戸紗千が予想屋をしている。もちろん、お嬢様たちはあっけなくそちらへ吸い寄せられていった。
「ああいう予想屋は、あまり当てにはなりませんね。エリシア様も気をつけてくださいね」
 そう言いながら、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に追加資金を手渡した。
「えっ、ああ。もちろんですわ」
 ちょっと予想を聞きに行きかけていたエリシア・ボックが、あわてて答えた。
 この前来たときに、ギャンブラーセンスに目覚めたと思ったのだが、どうにも今回はそれが働かない。
「……なので、おねーちゃんは、また舞花ちゃんにお金を借りて……」
「ストーップ! ストップですわ。そんなメールを送ってはいけません!」
 いつも通り御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に報告メールを打とうとするノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を、エリシア・ボックがあわててとめた。
「えー、どーして?」
 屋台で買ったポップコーンのバケツをかかえながら、ノーン・クリスタリアが聞き返す。
「それは、たくさん買ってからでも遅くはありませんもの。さあ、次のレースにかけますわよ!」
「うん、わたしも買うよ」
 パドックでは、いろいろなタイプの恐竜がゆっくりと歩いていた。
「あー、あの恐竜さん、強そうで格好いいね!」
 ヤッターキマクという恐竜を見て、ノーン・クリスタリアはさっさとその恐竜券を買ったようだ。
「ここは、以前一等をとった……、ああ、いない……。仕方ありませんわ。ここは、固く本命ですわ」
 負けが込んでいたエリシア・ボックは、固く行くようだ。
 わいわいとそれでも楽しく恐竜券を買う二人とは対照的に、御神楽舞花の方は連勝複式の券を買っていた。
『さあ、本日のメインレース。間もなく開始されます』
 仕事で実況を担当しているシャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)の声が会場に響いた。
『各竜一斉にスタートです。トップは、本命のサンサンシスターズ、続くのはムーンゲート、やや遅れてディスカバリースター、タイムラビット、オハナバタケ、ヤッターキマクと続いています。第一コーナーを回り、順位に変動はありません』
「ほうら、やっぱり、見た目で選んではダメなのですわ」
「まだ分かんないよ。頑張れー、ポリポリ」
 このまま、ぶっちぎりと安心するエリシア・ボックに、ノーン・クリスタリアがポップコーンを頬ばりながら答えた。
『さあ、最終コーナーにさしかかった。ムーンゲート、追い上げてきた。これはさすか!? ああっと、ムーンゲート急ぎすぎたか、大きく外にふくらみました。サンサンシスターズと接触。アクシデントです、両竜、落竜です。レースが大きく乱れます。その間を縫って出てきたのは、なんとヤッターキマクだ。他の竜の落竜にも動じず、一気に突っ走っていきます。ゴール! ゴールです。ヤッターキマク、奇跡の一位です!』
「わーい、おねーちゃん、あたったよー。あれ、おねえちゃん、どーしたの?」
 万恐竜券を手にしたノーン・クリスタリアが必死に声をかけたが、ハズレ恐竜券を握りしめたエリシア・ボックは呆然としたまま微動だにしなかった。
「予想外のレース展開というのも興味深いですね」
 連勝複式の万恐竜券を換金しながら、御神楽舞花がつぶやいた。
「間違って買った竜券が当たりましたね」
「お嬢様には内緒にした方がいいよ。これは貯金しておこう」
 何やら、執事君とメイドちゃんたちも当たったようだ。
「とりあえず、お菊さんの食堂で、久しぶりにまともな物を食べましょう」
 ちょっとほっとしたように、執事君が言った。