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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

リアクション

 
「ふえぇ、肝試しとか怖いねぇ、どきどきするのだ……」
 ますます不気味になっていく森の中を天禰 薫(あまね・かおる)はビクビクしながらちょっとづつ進んでいた。
 パートナーたちと共に、試しに肝試しに参加したのだが、彼女にとって何も出てこなくても怖かった。今歩いていられるのは、心強いパートナーがいるからだ。
「天禰、手を繋いで歩こう」
「孝高、おてて繋いでくれるのだ? 暗いと足元が危ないもんねぇ。ありがとうなのだ〜」
 そっと手を取る二人。
 パートナーの熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)が気を使って並んで歩いてくれる。
「ピ……ピキュッピィ……」
 そして、薫が片手で抱いているのはぽわぽわウサギ型の機晶姫わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)だ。
 更には、少し離れた後ろには熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)
 これだけ傍で固めてくれていれば大丈夫だきっと、うん。
「……」
 辺りを見回しながら、薫はコクリと唾を飲む。
 微風が草をさわさわと撫でる音だけが聞こえている。少し離れたところで野良犬の唸り声が聞こえてくる。月明かりは木陰に隠れてほとんど入ってくることはなく、真っ暗闇の中、懐中電灯だけが頼りだ。その光に誘われて飛んできた小虫がガラス面にぶつかってピチッと音がする。
 騒動が起こっているはずなのに、彼女のいる辺りだけがシーンと静まり返っていて不気味さを醸し出していた。
(こ、怖いのだ……何か出てきたりして……)
 立ち尽くしたまま、薫は握る手に力を入れた。握り返してくる孝高の手の温もりだけが安心させてくれた。
「……」 
 ふと、背後に気配を感じた。噂のテロリストだろうか……。
 薫はゆっくりと振り返ってみる。
「!」
 真後ろの木陰から、わずかに光が漏れていた。さっき通ったときにはなかったのに。
 ぼんやりと浮かぶ人魂のような光。サクサクサク……と草を踏みしめる音。それが……こちらへ近付いてくる。
「ひっ」
 薫はちょっぴり涙目になって孝高を見た。彼は無表情でその光を眺めているだけ。孝明もだ。
「ピッ!? ピキュピピィッ!?(訳:ピッ!?お、おばけか何か出たの!?)」
 わたぼちゃんも気付いたらしく、すぐに黙り込んだ。
「……」
 怖くなって薫は歩みを進めた。サクサクサク……と足音もついてくる。
「ひい」
 薫は孝高の手を取り半ば駆け足になっていた。草を踏む足音も早くなっている。いや、少しずつ追いついてきている。思わず後ろを振り返って……。
「きゃあああああっっ!」
 薫は悲鳴を上げた。
 彼女のすぐ真後ろ、孝明を追い越して、能面のように表情を貼り付けた和服女が提灯を持って追いかけてきていた。提灯の光を下から浴び、女の白い顔がニィッと笑った。
「きゃああああああっ!」
 薫はもう一度悲鳴を上げる。
 と……。
「やったー!」
 その、能面の女が急に少女の顔になって喜びの声を上げた。かなりきつい化粧をしているのだろう、素顔がわからなくなっていた桐生 理知(きりゅう・りち)だった。
 彼女は、『燈篭を持った女が下駄の音をカランコロンと響かせながら暗い夜道をやってくる』という幽霊の役をやっていたのだが、誰も怖がってくれなくて消沈していたところだった。悲鳴を上げてくれた薫にお礼を言う。
「やっと怖がってくれたよ。ありがとう」
 真っ白な能面の化粧を落とし少女の笑顔で微笑むと、また別の人を脅かすために去っていった。可愛い子だった。そりゃ素顔では誰も怖がってくれないだろう。
「く、く、く……」
 孝高が笑いをこらえていた。薫の怖がりっぷりが面白かったらしい。
「もう」
 涙目で孝高を軽く睨む薫。
「えーん、えーん」
 わたぼちゃんも怖かったらしく薫の腕の中でぷるぷる震えながら泣いていた。発砲しなくて良かったが。
「よしよし、大丈夫なのだー」
 わたぼちゃんをもふもふとあやしているうちに薫も落ち着いてきた。
「よし、先に進むのだ」
 元気を取り戻した薫はまたちびちび前進する。
「!」
 ガサゴソ、とまた足音が聞こえた。だが、今度はさっきとは違う。あきらかに邪気を帯びた人の気配。
「……」
 超感覚で察知していた孝高が身構える。
「リア充ばk」
 ヅン!
 相手が言い終わるより先に、孝高の攻撃が敵に命中していた。やはり案の定テロリストたちのようだ。
 ぐぎゃああああ、という悲鳴と飛び散る墨汁、舞い散る紙束。
「今俺はたいそう機嫌が悪い」
 孝高は怒気をはらみながら低い声で言う。薫との二人だけの時間を邪魔されてただで済むはずがない。
「死にたい奴から順に前に出てこい。順番に限らず全員死なせてやる」 
「……」
「他当たった方がいいぜ」
 孝明がむしろ穏やかな口調で警告する。
「あはは、うちを狙うなんて馬鹿だなぁ。見てご覧よ、うちのカップル(?)を。恋人同士と言っても薫が鈍感だから、今のところリア充にはさっぱり見えないし」
「……」
 孝明の台詞にむしろ孝高がむっとした表情になる。
「あと薫は……何だっけ。「パイ拓」の標的にされる程の膨らみはないよ。適度にならあるかもね。狩衣だからよくわからないけど。本人に直接聞けば?」
「……」
 孝明の台詞にむしろ薫がむっとした表情になる。
「ああ、後、邪魔をしたら孝高が激怒して暴れるよ? 病院送りにされる覚悟があるなら、襲撃してみればいい」
「……」
 今度は相手が沈黙した。
 ややあって……。邪悪な気配は遠ざかっていく。
「あらあら、拍子抜けだ」
 孝明が目を丸くする。
 まあ、いずれにしろ、穏便に済んでよかった……。そんな表情の孝明に、薫と孝高が同時にキッと視線を向けた。
「今の台詞、どういう意味かしっかり説明してもらおう」
「するのだ」
 え〜っと……と苦笑する孝明。
 こっちは時間がかかりそうだった。