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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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1月生まれ:清泉 北都(いずみ・ほくと)のケース


『当たるかどうかわからないけど、試してみても面白いよね。』


 とはいえ、ラッキーアイテム『パーティーグッズのタスキ』は持っていないし、わざわざ買い求めるのもどうなのか。ラッキー行動『身の回りのものを何か一つ新調する』を採用することにした。
「新調、するとしたら……手袋かな」
 身に着けるものの中でも、手袋は傷みやすく汚れやすい。そこで、薔薇の学舎の近くにある専門店で購入していった。

 今日北都が登校した目的は、バラ園の花の手入れである。
 広大な薔薇の庭園には、この夏の暑い盛りに咲く品種もあるが、秋や冬先に咲くものもかなり多い。それらが美しく咲くには、夏の間の剪定が重要だ。
「花の手入れってのは、特にこの時期はキツイもんだろう」
 作業の指示をしてくれる庭園の専属庭師に言われ、「大丈夫ですー」と北都は答えた。
 花は美しいが、花を育てる仕事というのは過酷だ。どんな気候の日だとて休むことは出来ないし、バラの棘は手を破ることもある。それでも丁寧に手をかけたいと北都が思うのは、この薔薇園でのお茶会に、現在恋人であるパートナーとの大切な思い出があるからだろう。
「すいません、薬剤の場所訊いてもいいですか?」
 同じくバラの手入れに来ていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、別の区画からひょっこり現れて庭師に尋ねてきた。
「おや、薬が必要かね?」
「えぇ、ちょっと気になる葉が……」
 そこで北都に気付き、二人も挨拶を交わす。
「葉? もしかして、何か虫とか、病気が…?」
「うん、でもまだ大して進んでないうちに見つけたから、早く処理すれば大丈夫だと思うよ」
「そうなんだ、よかった」
「全くだ。薬剤はこっちの倉庫に全部管理してあるよ」
 倉庫へと先に立って歩く熟練の庭師さんを見ながら、そういえば占いでラッキーパーソンは『年上の人』だったと思い出した。
 その庭師についていく弥十郎が何か携えているのがちらりと見え、あの赤くて細長いものは何だろう、ともちょっと思った。


 暑さも幾分薄らいできた夕暮れ時に、庭園での作業を終え、帰ろうとした北都は、校舎の方から出てきた人影に気付いた。
 それは理事長のジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)であった。思いがけない遭遇に、覚えず背を正す。
「理事長……お疲れ様です」
「あぁ。今日は庭園の作業か?」
「はい」
「そうか、ご苦労だったな。手をかけてくれる者があってこそ、バラは何時咲いても美しい」
 少しだけ涼しくなった夕風に軽く髪を揺蕩わせ、庭園の方を見やるジェイダスの姿もまた、夕闇の始まり中すんなりと花茎を伸ばす夏の薔薇のようだった。
 それ以上の会話はなく、北都は一礼して、立ち去るジェイダスを送った。
 だが、一言二言であっても、思いもかけずこのカリスマ的人物と言葉を交わせたことは、北都にとっては胸の躍る、特筆すべき幸運であった。


『……ので、占いは大当たり、だったと思います』


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●委員Aによるチェック●
 なるほどねぇ。人には些細なことに見えても当人にとっては大いに幸せ、の典型的みたいなケースだわ。いいわね、そういうの。
 薔薇の学舎の薔薇園、噂には聞くけど、一度見てみたいものねぇ。