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黒の商人と封印の礎・前編

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黒の商人と封印の礎・前編

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 さて、二階で隠し部屋の探索が行われていた頃、先に三階へと上がったメンバーは早速、困惑していた。
 扉。
 扉扉扉扉扉。
 まっすぐ伸びた通路の左右にびっしりと、延々と、扉が並んでいるのだ。扉の素材は木製や石造り、金属など様々だが、サイズは全て同じ。罠やミスリードの可能性が容易に想像出来るが、上へ進むためにはとにかく階段を見つけなければならない。
「とにかく、罠に気をつけて一つ一つ調べていこう」
 そう言って先頭に立ったのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だ。HCで互いにマップ情報を共有出来るよう、その場に居る面々と軽く申し合わせてから、パートナー達を連れて扉を開けて回ろうと、一つ目の扉に手を掛けた。
 ピッキングの技術を持つミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が器具を取り出して待機しているが、予想外にその扉はすんなりと開いた。――が。
「また扉」
 扉を開けた先には、また通路が伸びていた。そして、その通路の先にはまた扉、扉、扉。
「これは……無視するわけにも行かないし」
「よーし、そういうことなら!」
 げんなりと肩を落とすトマスの横で、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が気合いを入れてステップを踏む。
「気合いと根性なら任せてよ、扉全部開ければいいんだよね!」
 輝夜はニッ、と笑うと、床を強く蹴って駆け出した。そして、新たに出現した通路へ飛び込むと、片っ端からドアを開けて回る。
 危険だ、とトマスが諫めようとするが、しかしこれだけの数の扉、一枚一枚慎重に確かめていてはいくら時間があっても足りないだろう。
「あちらは彼女に任せて、とにかく我々はこの通路沿いに進みましょう」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の言葉に、トマスとミカエラ、それからテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が頷いて、隣の扉に手を掛ける。こちらもすんなり開いたが、開けた瞬間、石壁が彼らを出迎えた。
「こんなトラップもあるのか……」
 いよいよ一枚ずつ開けていてはキリが無い。手分けして全ての扉をチェックしようということになり、その場に居た面々は思い思いの方向へと散っていく。トマス達は引き続き、その通路のドアを担当することにし、さらに隣の扉に手を掛けた。
「……うん?」
 しかし、今度は鍵が掛かっているようだった。何度かがちゃがちゃとノブを捻ってみるが、ドアは開かない。
「私がやりましょう」
 ミカエラが進み出て、鍵穴の様子を検分する。それから器具をドアの隙間に差し入れて暫く何か弄っていたが、やがてかちゃりと小さな音がして扉が開いた。警戒しながら開けてみると、扉の向こうには小さな空間が広がっていた。部屋というよりは非常に短い廊下だ。そして、その奥に。
「うわ、ゴーレム!」
 きらりと目を光らせて立ち上がる、ゴーレムの姿があった。思わずトマスは後ずさり、ミカエラは警戒の姿勢を取る。殺気には充分注意していたつもりだったが、どうやらゴーレムは休眠状態で、扉が開くと動き出す仕掛けだったようだ。気づけないのも無理はない。
「テノーリオ、前線は任せました」
「おう、任せとけ」
 すかさず子敬の指示が飛ぶ。また、子敬は素早く光術の明かりを飛ばして、視界を確保する。当たりは探索に支障が無い程度の明るさだったが、しかし薄暗さは否めない。戦闘となれば、明るいに越したことはない。
 テノーリオは素早く前線に踊り出ると、ミラージュを展開して相手の混乱を誘う。そして素早く剣を抜くと、アルティマ・トゥーレの冷気を纏わせてゴーレムに斬りつけた。左右から斬りつけられる幻を見たゴーレムは、一瞬反応が遅れた。テノーリオの持つ剣から放たれる強烈な冷気が、ゴーレムの腕を見事に凍り付かせる。さらに追い打ちを掛けるように斬りつければ、凍り付かせた部分がぼろりと崩れ落ちる。しかし、本体の機能を停止させるには至らない。
 ずん、と重たい足音を響かせて尚もこちらに向かってくるゴーレムに、トマス達は少しずつ押し返されてしまう。子敬がサイコキネシスで足止めを計るが、ゴーレムほどの重量物を足止めするにはサイコキネシスでは些か力不足だ。
「大丈夫ですか!」
 と、戦闘の気配を感じ取った御凪真人が駆けつけてきた。真人はテノーリオに離れるよう告げると、召喚獣を呼び出そうとした。しかし塔内部は狭く、ここに召喚獣など呼び出しては身動きが取れなくなってしまうだろう。そう判断し、サンダーブラストで一気にゴーレムを打つ。高い魔力を持つ真人の一撃によって、ゴーレムは一瞬で沈黙した。ほっとトマス達の顔に安堵が浮かぶ。
「助かりました」
「無事で良かった。先を急ぎましょう」
 真人は穏やかな笑顔を浮かべると、ローブの裾を翻して先を急ぐ。トマス達は落ち着いてHCにマップ情報を入力しながら、次の扉を調べ始める。

 一方、枝道に飛び込んで行った輝夜は、言葉の通り気合いと根性でもって全ての扉を片っ端から開けて回っていた。
 何カ所か鍵の掛かった扉もあったのだが、少し弄ってみて動かなければ真空波でもって切り裂いてしまう。時折がらーん、とかがしゃーん、とか、景気の良い音があたりに響き渡る。
「お、通路発見!」
 全ての扉を開け、或いは蹴り倒し、或いは吹き飛ばししているうちに、新たな通路を見つけては飛び込んで行く。そして再び目に付いた扉に手を掛けた。
 すると、扉を開けた途端に、白くぼんやりした影が複数飛び出してきた。ゴーストだ。
「お出ましだねっ」
 輝夜はむしろ楽しそうな笑みを口元に浮かべる。そして、お得意のドッペルシャドウとミラージュによる目くらましを使い、ゴーストの群れの中へと飛び込んで行く。突如目の前の相手が複数に分裂したように見えたゴースト達は、一瞬混乱を見せる。
 と、輝夜とすれ違ったゴーストが突然、空中に溶けて消える。
 輝夜の連れているフラワシ、ツェアライセンによる攻撃だ。しかしフラワシはコンジュラー以外に見る事が出来ない為、傍目にはすれ違っただけで切り裂かれている様に見える。
 程なくしてゴースト達は完全に霧散する。よし、とフラワシを収め、輝夜は再び次の扉へと手を掛ける。
 その後ろを付いて地道なマッピングをして居るのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)のふたりだ。輝夜は宣言の通り、「全ての扉を開ける」ことにだけ注力しているので、扉を開けた先に何があろうが気にしていない。そこのフォローも兼ねている。
「これだけ扉があるんだから、どこかにクロノが閉じ込められている……とかもあり得るね」
 エースは隠し部屋や仕掛けなどが無いかにも気を配りながら、輝夜が開けた扉の中を一つ一つチェックして回る。
「まあ、これはこれで効率的……なんだろうね」
 HCに地図情報を打ち込むエースの後ろで、メシエが大仰に肩を竦めてみせる。扉は既に開いているので、一々危険に備える必要なく探索を進められる、というのは確かに、効率的ではあるのだろう。しかし、退屈でもある。
「クロノね……」
 何か残留思念でも残ってやいないかと、メシエは扉やら通路やらに触れ、サイコメトリを試みる。
 代わり映えのしない塔内部の映像ばかりが飛び込んでくる――かと思いきや、不意に、黒ずくめの男のイメージが流れ込んできた。もう少し深く追いかけて見ると、クロノと思しき少年を連れている姿も浮かんでくる。
「どうやら、此所を通ったのは間違いなさそうだ。閉じ込められているというよりは、連れて行かれた可能性の方が高そうだね」
 見えた映像についてエースに伝えると、エースはそうか、と小さく頷いてその情報をHCで送信する。どうやらクロノ救出の為には、四階への階段を見つけることを優先した方がよさそうだ。

 トマス達は何度かゴーレムやゴーストに遭遇しながらも、真人の支援もあって順調に探索を続けていた。
 エース達からの情報もあり、ひとまずは階段探しを優先している。最初の通路は探索を終え、奥の扉から見つかった枝道の扉をまた順に開いていく。
「そろそろあっても良いと思うんだけどな……」
 探索に当たっているメンバーからの情報を総合すれば、三階の構造も大体明らかになってきている。そろそろ階段が見つかっても良いのだが。
 そう思いながら、トマスは次の扉に手を掛けた。
 と。
「何か、居ます!」
 ミカエラが鋭い声を上げる。
 その場に居た全員が戦闘に備え、構えを取る。と同時に、トマスが扉を開け放つ。
 扉の向こうは少し開けた空間だった。一番奥に、階段が見える。だがしかし、その前に――

「これは、キメラ……?」

 巨大な魔物が立ちふさがって居たのだった。