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シャンバラの宅配ピザ事情

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シャンバラの宅配ピザ事情

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「葛城様の注文分が出来上がりました。宅配お願いします」
 キッチンから姫星の声が聞こえると、ルカルカはバッグを持ち店を飛び出した。
「……ところで、さっきの話なんだけど、大尉って顔を覚えられているものなのかい? 普通そんな事ないよね?」
「ルカルカは結構目立ちたがり屋なんで、相手にすぐ名乗っちゃうんですよ。だから敵も味方も多いんです。例えばの話、店長だって毎回来てくれる宅急便の人が同じ人なら自然と顔と名前を覚えてしまうでしょう? それと同じ事なんですよ」
 シャウラは、ルカルカの後ろ姿を見ながら店長に言う。
「そう言うものかねぇ」と、店長は納得したようなしていないような表情でシャウラを見る。
 店の入り口からメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)が宅配から帰って来た姿を見つけると、シャウラは店長に向けていた視線をメルヴィアへと向け、ヒューっと感嘆の口笛を吹いた。
 口笛の音に気がついたメルヴィアは、店長に向けて軽く一礼をした。
「宅配お疲れ様。次の注文が来るまで休憩していていいよ。……さて、私は本部に提出する企画書を作成してこようかな。バックヤードに居るから、何かあったら呼んでね」
 店長は、シャウラとメルヴィアの返事を待たずにカウンターから離れて行った。
「そうだ。コーヒー持って来るよ。コーヒーよりもミルクたっぷりのカフェ・オ・レのほうがいいかな?」
「自分でやるからお前は仕事をしているだけでいい」
 そうメルヴィアは言うと、休憩室へと行ってしまった。
「後で、何処に宅配したのか教えてくださいね」
「……貴方も懲りないですね」
 メルヴィアに軽く一礼し、カウンターに入って来たユーシスはパートナーのいつもの調子に呆れていた。
「なんだ、ユーシスか」
「バックヤードから追い出されたので貴方の様子を見に来たんです。……ちゃんとやっているようで安心しました。もう少しで三時ですから休憩でもしましょう」
 シャウラはちぇっと短く舌打ちをすると、PCの前に座りネット注文が来ていないか確認を始めたのだった。

 一方荒野にて。
「あー、お前ら何時間此処に居るつもりなんだ。大人しく投降しろー!」
 拡声機を使い、モヒカンを蛍光緑に染めた男が声を張り上げ、痺れを切らしたように吹雪達に向けて言う。
「そんな事言われても、お腹が減って動けないのであります……」
 鋼鉄の足にもたれ掛かりながら、吹雪は弱弱しく呟く。
「と言うか、こんな状態だと宅配の人が近づけないと思うのだが……」
 本当に来れるのか、半信半疑の鋼鉄が吹雪に向かって突っ込みを入れる。
と、何かの音に気がついたように鋼鉄が空へと視線を上げた。
「何か来たの?」
 吹雪と同じように鋼鉄のもう片方の足にもたれ座っていたコルセアが、聞いてくる。
「ああ。しかもすごい早さでこっちに来る」
 そう確信した口調で言った直後だった。
 もうもうと砂煙を上げ、フルスロットルのエンジン音を空気に響かせS・インテグラルナイトに乗ったルカルカが穴に向けて突っ込んで来たのだ。
「そこのモヒカン達!怪我したくなければそこをどきなさい!」
 あまりに早い接近に、モヒカン達は蜘蛛の子を散らしたように近くの岩場に逃げて行く。
 S・インテグラルナイトは、穴の手前で止まると中からルカルカがバッグを持って穴へと近づいて行った。
「シャンバラピザ・キマク店です。ご注文の品お届けにまいりましたー」
「あー、待っていたのであります。お代はいくらでありますか?」
 動けない吹雪の代わりに鋼鉄がピザとジュースのペットボトルを受け取り、代金の仲介もする。
「あれ? 金額ちょっと多いですけどいいんですか?」
 手渡されたお金が少し多い事にルカルカは気がつくと、吹雪に向かって言った。
「それはチップであります。こんな所に宅配に来てありがとうなのであります」
 そう言われたルカルカは満面の笑顔を作ると、吹雪達に向けて軽く礼をした。
「いえいえ。またのご利用をお待ちしています。それでは」
 軽く手を振ると、またS・インテグラルナイトに乗り、キマクの街まで帰ろうかと思った矢先、小さい火花がS・インテグラルナイトの装甲に散った。
 ルカルカははっとした表情で、S・インテグラルナイトの影へと身を隠す。
 影からそっと様子を窺うと、金髪よりも薄い黄色にモヒカンを染めた男がS・インテグラルナイトに向かってマシンガンを発砲しようとするのが見える。
「宅配さーん! 自分達がモヒカン消毒野郎を引きつけるので、その間に逃げてほしいであります!」
「あ、ありがとう!」
「鋼ん、宅配さんの帰る隙を作るでありますよー」
 さっそくピザを食べながら言う吹雪の言葉に了解。と、頷くと鋼鉄は穴から出てモヒカン達が居る岩場に向けて走り出した。
 モヒカン達は、鋼鉄の行動を見るやいなや照準をS・インテグラルナイトから鋼鉄へと切り替えざる負えなくなってしまう。
 鋼鉄の行動により、隙が出来たルカルカは素早く乗り物に乗ると来た時と同じようにアクセルを最大にして、その場から逃走した。
 砂埃を巻き上げながら逃げて行く乗り物を横目で見た黄色のモヒカンは、ちっと軽く舌打ちをしたのであった。

 メルヴィアが宅配途中でモヒカン達を撃退した一週間後のある日――
 シャンバラピザ・キマク店に一本の電話のコールが鳴った。
 たまたまそばに居た、星姫が電話を受け取る。
「はい。シャンバラピザ・キマク店です」
「ちょっと、ピザの宅配を頼みたいんだけどよぉ。スペシャルピザLサイズ一枚」
 声の主は、宅配の注文をすると宅配人の指定をしてきた。その人の特徴は誰が聞いてもメルヴィアとそっくりで、瓜二つの偽物が暴れたんじゃないかと最初星姫は勘ぐったのである。
「うちの店、そういう宅配人は指定できないんですよねー。それに、その人本当にこの店で働いているんですか?」
「うるせぇ。俺様の心の友がてめえの店の制服を着ている女を見たって証言してんだ。さっさとその女を出しやがれ。配達場所はパラ実の校舎跡地だ。三十分以内に来い」
 若干、興奮気味に喋る主はそれだけを伝えると、星姫の返事を待たずにガチャ切りしたのだ。
「……なんなの。こいつ」
 そう言って、星姫は電話が切れた音が鳴る受話器をまじまじと見つめる。
「どうかしたのか?」
 丁度良いタイミングでメルヴィアがカウンターへとやってきて、姫星に言葉をかける。
「いや……注文の電話が来たんだけどね、その声の主があなたを指定して来たのよ」
 はぁ。と、ため息をつくと姫星はピザを作るからと言ってキッチンへと引っこんだ。
「君、何かしたのかい?」
 同じくカウンターに来たユーシスは星姫とメルヴィアを交互に見つめると、メルヴィアに疑問を投げかける。
「私も訳が判らないのだ。どうやら、今受けた注文の主が私を指定して来たらしい」
「前に何か恨みを買うような事はしたとか?」
 ふむ。とユーシスの言葉にメルヴィアは考えるが、恨みを買うような事は日常茶飯事なのでピンポイントに絞る事は出来なかった。
 二人で考えている内に、ピザが出来上がり姫星はバッグを持ってメルヴィアへと近づいてきた。
「注文のピザは出来たよ。指定場所はパラ実校舎跡地だってさ」
 そう言うと、バッグをメルヴィアに渡す。
「相手、すごい怒ってたから早く行った方がいいよ」
「ああ、そうだな。怒らせて私の給料が減ったら困るからな」
 メルヴィアは、あまり言わない冗談を言うと自前の軍用バイクにまたがり指定された場所へと向かったのだった。