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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『傍観者と、魔王』

『こうして見ていると、本当に皆、能天気よね……。ミーナにコロン、だっけ?
 彼らの話では、これからイルミンスールを救う為に大変な事件に巻き込まれに……いえ、事件を解決させる為に決して失敗の許されない勝負をしなければならないと言うのに……』
 思い思いの場所で果実狩りを楽しむ者たちを、農場の中でも見晴らしの良い位置から傍観する中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の『ドレス』、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が呟く。
『まぁ、でも、この『楽しめる時に楽しむ』っていう雰囲気、嫌いじゃないけどね。……綾瀬もそうなんでしょ?』
「さて、どうかしら。否定はしませんけれど」
 薄く微笑み、綾瀬が答える。実際はこうして果実狩りをするでもなくただ傍観しているだけでも、おそらく後に控えているであろう『大事件』を前にして、なお何も知らないように果実狩りを楽しむ者たちを見ているのが楽しくあった。
『果実を採るつもりは……ないわよね』
「あら、果実の方から「食べてください」オーラを放射してくるようなら、拒否しませんわよ?
 ……と、どうやらいらっしゃったようですわね」
 ドレスとの雑談を中断し、綾瀬が現れた人物――ザナドゥの現魔王、魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)――へ一礼する。
「まさか、ザナドゥの魔王様がこのような所にいらっしゃるとは、思いませんでしたわ。思わず「話がしたい」とお誘いしてしまいましたの」
「そう思われるのも確かですね。まあ、他の魔神たちも訪れるのが決まっていた中、一人留守番が寂しかったとでも受け取ってもらえれば」
 冗談を口にしつつ、そこに決して嘘とはいえない感情が含まれていることに気付いて、綾瀬がくすくす、と笑う。
「既に耳になされているかとは思いますが、未来から来たと言う世界樹達の話では、近い内にイルミンスールは枯れると言いましたわ」
「……ああ、そのように聞いている」
 振られた話を、パイモンは冷静と言える顔つきで聞く。
「さて、そう言った……多分、事実でしょう話を受けて、過去にイルミンスールを枯らそうとし、今は共存をしているあなた方はどうなされますか?」
 綾瀬の問いに、パイモンは一つの回答を用意しつつも、それを口にするかどうかを思案する。というのも、綾瀬が何を思ってそのようなことを言ったのかが分からなかったためだ。目を見ればおおよその予想はつくが、あいにくと綾瀬の目は黒い布で覆われており、窺い知れない。何も『裏』を用意していないという可能性はあるが、それはそれで最も対処に困る。
「まぁ、どのようにお考えになられても私には関係のない事です。
 ……が、もし、この先も人間との共存を望まれるのでしたら、手助けをされてみてはいかがでしょうか?」
「……あなたは、何故私にそのようなことを言う?」
 結局の所、本人に直接話を振ってみることにしたパイモンの問いへ、綾瀬はおそらく本心であろう言葉を口にする。
「私としましては皆様の行動を観させて頂き、楽しめればそれだけで十分ですので……。
 どうされるかは皆様次第ですわ」
「……なるほど。分かった、あなたの期待に応えられるかは分からないが、対応を検討することにしよう」
 その言葉に綾瀬は会釈を返すのみで、後は口を開く事なく背を向け、その場から立ち去る。
「……過去を忘れたつもりはない……だが、もし世界樹イルミンスールに変事が起こったとなれば、ザナドゥとして取るべき道は一つ。
 そして……“俺”の取るべき道も、一つだ」
 小さくなる背中へ、パイモンが『どうするのか』への回答を送る――。


『魔王と、魔王の臣下』

「……いや、まさか他の魔神方も来ているからといって、パイモン様までこちらにいらしているとは思いませんでした。
 というか、パイモン様に三魔神まで抜けて、ザナドゥは大丈夫なのですか?」
「和輝の言う通り、王としては軽率な行動だったかもしれませんね。まあ、何かあればクリフォトからの連絡が私やエリザベートに行くでしょう。備えもしてあります。
 私がここに居るのは……そうですね、好奇心の表れと取っていただければ」
「……パイモン様……その好奇心がいつか、仇となるかもしれませんよ?」
「ええ、そうかもしれませんね。ですが今日は、和輝の知らない一面を見ることが出来て非常に面白く思います」
 パイモンがまさに「面白い」と言わんばかりの表情で、横の佐野 和輝(さの・かずき)を見る。和輝の周りには、果実の香りを漂わせる幼女が数名、じゃれあうようにひっついていた。
「…………。
 誤解されるのもアレですから弁解しますけど、これはこの農場で起きている現象で、そしてこの子達はルナが言うには、俺やアニスが成長を手助けした子達で、多分恩を返しに来たんじゃないかってことですから! 決して俺が侍らせているわけじゃないですから!」
「にひひ〜っ。和輝、モテモテだねっ!
 みんな〜、もっといっぱい、和輝にひっついちゃえ〜」
 弁解を試みる和輝だが、その訴え虚しくすっかり果実たちと意気投合したアニス・パラス(あにす・ぱらす)によってより強固に果実たちにひっつかれてしまい、もはや弁解の余地も無くなってしまう。
「皆さんすっかり元気になってて、私も嬉しいですよぉ〜♪ 頑張って世話した甲斐がありました〜」
「これで和輝も、特殊な性癖に目覚めるかもしれんな。果実が何故こうなったのかにも興味があるが、もしそのようにでもなれば……非常に面白い」
「いや、目覚めないから! 面白がってないで助けて!」
 手塩にかけて育てた子が成長して帰ってきた親の気持ちで、微笑ましく見守るルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)と和輝が□リコンに目覚めないか行方を見守っているリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)へ和輝が訴えるも、状況は変わらない。
「どうしてこうなった……。本来はイルミンスールの不調の原因を探るために来たというのに……」
 やれやれ、と呟く和輝へ、パイモンが他の者には聞こえないよう小声で囁く。
「その件に関して、和輝に話があります。後で私の所に来てもらえますか」
「……了解しました」
 そう言って、「では、私はこれで」とパイモンは一行に挨拶をして別れる。
「おや、パイモンは行ってしまったか。……まぁいい。
 さて……得難い機会だ、ここは一つ、果物たちの身体を調べさせてもらおうか。内部構造がどうなっているか、知的探究心を刺激されるのでな」
「な!? だ、ダメですよ! そんな酷い事、私の目が黒いうちは絶対させません!」
 リモンが不敵な笑みを浮かべて果実たちに近付こうとして、ルナに阻まれる。
「和輝、逃げるよっ!」
「って、こらこら、そんなに引っ張るなっての」
 果実たちをリモンの手から逃がすため、アニスが和輝を引っ張って駆け出す。ひっつかれた状態から解放されたのはいいが、今度は後ろに大勢の幼女を引き連れるという光景を晒してしまう。
(……何か俺、こういう趣味の奴と勘違いされたりしないよな?)
 今後の自分の評価に激しく不安を覚える和輝であった――。


『写真に残す、思い出たち』

「はい、これ。ハロウィンの時に撮った写真なの。
 ナナちゃん達の格好をしてみたんですけど……い、今思うと何だか恥ずかしいかも」
 杜守 柚(ともり・ゆず)がナベリウスとアムドゥスキアスに見せた写真には、確かに柚の、ナベリウスの特徴である耳と獣の四肢で変装した姿が写っていた。
「ゆず、わたしたちとおんなじ! かわいい!」
「「かわいい〜」」
「うん、いいんじゃないかな。似合ってると思うよ」
「あ、あぅ……みんなから誉められたら、本当に恥ずかしくなってきました……。
 えっと、よかったら、アルバムに収めてくれると嬉しい……です」
「そうする〜! アムくん、ちょっとあずかってくれる? おとしちゃったらたいへん」
「分かった、じゃあ預からせてもらうね。帰りにゲルバドル寄ってくよ」
 写真は一旦アムドゥスキアスの手元に渡り、そしてナベリウスたちは杜守 三月(ともり・みつき)にカメラの使い方を教わっていた。
「自分達で思い出の一枚を残すのも、きっと楽しいよ」
「じゃあ、わたしがかめらやく〜。モモちゃんとサクラちゃんをいっぱいとっちゃうよ。あっ、もちろんアムくんも、ゆずもみつきもとるよ!」
 ナナがカメラを持ち、柚と果実を収穫するモモとサクラ、三月と語らいあうアムドゥスキアスなどを写真に収めていく。
「モモちゃんサクラちゃん、届かなかったら私が肩車してあげますから――」
 そう言った直後、サクラがぴょん、とジャンプしたかと思うと、木の天辺に立っていた。
「あれっ、とびすぎた」
「……あはは、凄いですけど、果実はこっちですよ、サクラちゃん」
 サクラとモモを果実の実っている場所まで誘導して、籠に収穫した果実を収めていく。
「たくさん採れましたね! さ、ナナちゃんもこっち来て、一緒に食べましょう」
 カメラ役のナナを呼び寄せ、柚はモモとサクラと、採れたての果実を口にする。すると過去の、凧揚げや羽根付きを楽しんだ時のこと、お餅を食べて賑やかに過ごした時のこと、ナナちゃん達の誕生日を祝った時の思い出が蘇ってくる。どれも楽しくて、幸せなひととき。
(本当に……どれも、大切な思い出。
 時が経っても、またこの楽しい時間を思い出せたらいいな)
 そう願う柚と、果実を美味しそうに頬張るナベリウスたちへシャッターを切って、三月は写真の写り具合に満足気に頷く。
(さて、残りは芸術の秋だけど……)
 いい被写体を探して辺りを見回して、視界にはらはらと落ちてきた木の葉を摘んで見つめるアムドゥスキアスの姿が映る。次の瞬間には三月はカメラを向け、シャッターを切っていた。
「おや? 三月、今ボク撮った?」
「うん。芸術作品のような一枚が撮れたよ」
「あはは……自分が被写体になるなんてね。そんな事、思いもしなかった」
 苦笑いを浮かべるアムドゥスキアス、三月はふと、過去に交わした言葉を思い返す。「……ボクは、変わったかな?」と尋ねるアムドゥスキアス。『お互いを知って、少しずつ変わっていける』と答えた自分。
(そう……今この瞬間も、変わっていってる。心の距離は近く、絆は深く……)
 心に思った所で、柚とナベリウスたちの自分たちを呼ぶ声が聞こえてくる。
「みんなで一緒に、写真を取りましょう」

「さ、準備はいいかな? ……はい、タイマーをセットしたよ」
 三月が、三脚に据えたカメラのタイマーをセットして、アムドゥスキアスの隣に立つ。
「この前はナナちゃんたちがぎゅっ、ってしてくれたから、今日は私から……ぎゅっ」
 腕を大きく広げて、柚が三人をまとめてぎゅっ、と抱き締める。
 ――来年も、また今年のようにみんなで一緒に、楽しめますように。

 シャッターが切られ、そして出来上がった写真には『おめでとう』の文字が刻まれていた――。