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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『家族団欒の時間』

「うーん、素晴らしい快晴! 果実狩りには絶好の天気ですね。
 思えば……一ヶ月以上迷子になったり、火山でフィーバーしたりと大変な日々が続いていました」
 青空の下、色とりどりの果実が実る木々を前に、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が過ぎ去りし日々に思いを馳せる。
「マリーには、寂しい思いをさせてしまいましたね」
 ルイの言葉に、マリオン・フリード(まりおん・ふりーど)がううん、と首を横に振って答える。
「義父さんやセラお姉ちゃん、ロボさんが無事で、こうやって一緒に果実狩りが出来て、それだけであたしは幸せです」
「ははは、マリーはいい子ですね!
 では今日という日を、めいっぱい楽しむとしましょう!」
 籠を担ぎ、道具を手にしたまるで農場の人よりそれらしい格好のルイ、その後ろにマリオンが続く。
「うっうっ……ちゃんと我のことまで心配してくれるなんて、マリオン殿はホントいい子なのであるよ」
「あーはいはい、良かったですね。
 いいですか? 他の方も大勢来ているのですから、くれぐれも節度ある行動を心がけてください。さもないと……縛りますよ?」
 どばどば、と涙を流すノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)に呆れた表情で、シュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が魔力のこもった鎖をチラつかせれば、怯えるどころか何やら顔を真っ赤にし、気持ち悪くクネクネと悶え始める。
「我輩、緊縛プレイには慣れっこであるよ♪」
(……あぁ、物凄く心配です……)

「わー、おっきなクリがたくさん!」
「毬に気をつけてくださいね、それは私が回収しちゃいますから。
 マリーは毬を剥いた栗の回収をお願いします」
「はーい!」
 栗の収穫場所に到着したルイが、木に下がっていたり落ちていたりする毬栗から毬を剥ぎ、籠に放る。残った栗の実はマリオンがちょこちょこと拾い、やはり籠に収めていく。
「うん、立派な栗です。これは栗ご飯が今から楽しみですね」
 市場で売られているものよりも一回り大きく見える栗に、ルイが栗ご飯の漂う香ばしさを想像して微笑む。……と、マリオンの姿が見えないのに気付いて辺りを見回すと、少し離れた樹の下で茶色の髪を両脇でまとめた幼女と話をしていた。
「君が果実さん、なの? あたし、マリオン! 一緒に遊ぼっ?」
「べ、別にあんたと遊ぶつもりは――いえ、なんでもないわ。
 ……そうね、ちょっとくらい、遊んであげてもいいわ」
 ツンケンとした態度を取っていた幼女が、マリオンに手を握られた瞬間、態度を軟化させる。おそらく、マリオンがただ純粋に仲良くしたいというのが、分かったのだろう。
「ハァハァハァハァ……あぁ、イイッ!!
 マリオン殿と果実の幼女のコラボレーション……それは現世に舞い降りた奇跡! 我輩の機晶回路はショート寸前であるよ」
「……そのまま活動停止してもらってもいいんですよ?」
 手を繋ぎながら、特に何かをするでもなくけれどとても楽しげな二人を息荒く……というかエンジン音高らかにヘヴン状態のノールが見守る背後で、拳を震わせセラがぶっ飛ばせるチャンスを伺っていた。他の参加者に迷惑をかけるなら即! なのだが、こういう所だけちゃっかりしてるのかそれとも紳士気取りなのか、少し離れた位置からストーキングという名の見守りをするだけなのだから、たちが悪い。
「むっ! 我輩、ビビビと電波を受信したのである!
 幼女が困っているとあらば即参上! 今行くのである!」
 言った途端、ノールの姿が消え、次の瞬間にはすりむいた膝を痛そうにしている幼女の元へ現れる。
「おぉ、怪我をなされたのですかな? どれどれ……ふむふむ、傷は浅いですな。ですが我輩、治癒に必要な道具を持ち合わせていない故、治療の出来る所まで連れて行きましょう」
 そう言い、ノールが乗物形態に変化すると、また気持ち悪く身体をクネクネさせて告げる。
「さあ、どうぞお乗りください。というか踏んで!
 ハァハァ……幼女の足に踏まれるなんて、それなんてご褒美――あれ?」
 瞬間、飛んできた鎖がグルグルと巻き付き、あっという間にがんじがらめにしてしまう。
「姿を消したと思ったら、可愛げな幼子に怪我をさせた挙句連れ去ろうとするなんて……。
 これは動かぬ証拠ですね。マリーの教育にも悪影響を及ぼしますし、退場してもらうしかありませんね」
「……へ? いや我輩、この子を助けようと――」
「――例えそうだったとしても、問答無用!」
「え、ちょっとそれ酷くな――」

 ノールを縛り上げた鎖の端をルイが持ち、ハンマー投げの要領で(流石に何度も回転すると周りに被害が及ぶので、一回だけ)秋の空へ放り投げる。
「これが放置プレイならぬ、放りプレイであるかーっ!」

 ……その後、ルイとセラ、マリオンはほのぼのと、果実狩りを楽しんだのであった。
 ちなみにノールは、運良く大木に鎖が引っ掛かり、地面と熱烈なキスをするのだけは免れた。ただし誰にも発見してもらえず、結局迎えに来たセラに解放されるまでの間、放置プレイを楽し……もとい、味わったのだった。


『過去の二人、今の二人』

「さあ、果実狩りをしますですよ! カゴも借りられましたし、後は収穫するだけであります!」
 借りてきた道具を手に、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が意気揚々と農場を歩いていると、向こうからとてとて、とふんわりした髪の毛の幼女が走って来て、雲雀たちに笑顔を向けて走り去っていく。
「……、今のが、人の姿を取った果実、なのか?」
 振り返り、小さくなっていく背中を見送って、横を歩くサラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)に話を振る。
「なあ、サラマンディア。もしかしなくてもあの人達って収穫後は、結局食われるんだよ、な……」
「ん? ああ、まぁ、そうなるだろうな。
 でもよ雲雀、んな事で気にしてたら木も切れなくなっちまうし、石も拾えなくなっちまうぞ。俺も永く生きてっし、そもそも精霊だ。雲雀だって少しは、そういうの見てきたんだろ?」
「そりゃ、そうだけどよ……なんかこう、無性に罪悪感がな……」
 雲雀の表情が陰り、視線が下を向く。
「……シケたツラしてんじゃねえぞ雲雀! 別にこいつらは食われることを悲観してんじゃねぇ。むしろ喜んでるはずだ。
 こいつらの為にも、感謝の気持ちを込めてちゃんと収穫してやろうや。それがこいつらにとって一番なんだよ」
「感謝の気持ちを込めて……か。……分かったよ、サラマンディア。
 ほっとかれるのは寂しい、収穫してくれた方が嬉しい。そう思うことにする」
 幾分気を取り直した表情で、雲雀が枝から果実をもぎ取り、感謝するように瞑目して籠に収めていく。

 農場には来たものの、はぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)は収穫を手伝わず、広がる風景をぼんやりと眺めていた。
「雲雀が文句垂れてんぞ、「カグラがちっとも手伝ってくれねーんだけど」ってな。
 ……その顔、過去でも思い出してんのか? 何でも果実を収穫すっと過去を思い出すって話だしな」
 歩み寄るサラマンディアへ、カグラはフッ、と微笑みを貼り付けて答える。
「思い出す過去なんて無いわ。必要無いでしょう?
 この目に映る『あの方』が遺した形が、『あの方』の全てなんだから」
 カグラの手が伸び、眼前に広がる景色を慈しむように撫でる。
「御覧なさいな……綺麗な秋晴れ。豊かに実った果実達。クリフォトが顕現した頃には想像もつかなかったでしょう?
 本当に……うんざりするほど、美しい世界。『あの方』の居ない世界」
 カグラの勧めに従うように、サラマンディアも広がる青空を、豊かな実りを視界に収める。
「お前が行っちまったのは去年の夏辺りだったか……。可愛い女が突然消えちまったのは、なかなか寂しいもんだったぜ。
 今のお前も、根本は変わってねえけどな」
 カグラを見て、サラマンディアが口にする。
(……お前は魔導書。言葉にすれば『縛られる』。『そいつ』の名前を呼ばないのは、お前なりのけじめなんだろ?
 悪ィ女を気取ってんのかと思えば、めんどくせえ拘り持ちやがって……)
 声にしない言葉を、カグラはどう取っただろうか。暫くの沈黙の後、ふふふ、とカグラが笑みを零す。
「お互い感傷的になるのは、やっぱりこの辺りの変な魔力のせいかしらね?」
 カグラの手が、葡萄を摘む。弄ぶように手のひらで転がして、おもむろに口に入れる。
「さっさと摘んでしまわないと、うっかりヒバリの罪状を増やしてしまいそうだわ。
 行きましょう? 『ディア』
 久しく呼ばれる事のなかった、かつては一日中聞いていたその名を呼ばれ、サラマンディアが硬直する。
「……はっ。よりによって、その呼び方で呼ぶか」
 呟き、顔を上げ、サラマンディアが後に続く。背後にサラマンディアの気配を感じながら、カグラは『あの方』との最後の言葉を思い返していた。

「……あなたの想い、受け取ったわ。
 “さようなら”、カグラ。あなたを連れて行くのは、止めにするわ」


(もう、名前は口にしないと決めたの。
 女神よりも美しく、氷のように冷酷で、母のように愛情深い貴女)

(思えばあいつら……昔は見てるこっちがムカつくくらい仲良かったんだよな。
 今じゃあんな風になっちまった。あたしも、昔とは違う。それはいい事ばかりじゃないんだろうけど……)
 二人の会話をこっそり耳にしていた雲雀が、視線を空へと向ける。
 ――選択して、行動によって失ったものは多くとも。
   まだこの世界に生きている以上、歩くことを止めるつもりはない。
「……さて! 収穫を再開するでありますよ!」
 自らを鼓舞するように声を発して、雲雀は二人の後を追う。