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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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★第四話「下っ端悪役といったら『キーっ』しか思いつきません」★


「設備のメンテナンスを手伝って欲しいんだけど……ああ、大丈夫。専門知識がなくても大丈夫な範囲での手伝いだから」
「そうか。よろしく頼む」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)に向かって神妙な面持ちで頭を下げるジヴォート。だがその目が少し横に向かい

「ところで……あいつは何をしてるんだ?」

 あいつ、と見たのは酒ビンを抱えて眠っているシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)だ。どう見ても酒を飲んだ後に眠ってしまった構図にしか見えないが、こんなところでなぜ酒を飲んでいるのかも、寝ているのかもジヴォートには良く分からなかった。
「む、そうだな。反面教師というものかもしれない」
 ジヴォートの隣にいた玖純 飛都(くすみ・ひさと)がそう答える。

「よいか。ジヴォート。飛都が言うとおり、あれは駄目な見本じゃ。あれのようにはなってはいかんぞ」
「そうか。分かった」
 ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)がジヴォートの肩をぽんと叩く。
「まだまだ飲めりゅ〜お酒ぇ〜」
「本当に、ああなってはいかん!」
 シーニーが寝ぼけてそんなことを言っている中、しっかりと、しっかりと言い聞かせるジョージ。

「そうそう。ま、そこで寝ている人のことは気にせず、メンテいこうか。とりあえず数値に異常がないかのチェックを……」
 メンテナンスが終わっても、シーニーが目覚めることはなかった……さすが反面教師を演じてくれているだけのことはある。
 え? あれが本当の姿じゃないかって? ははは、そんなことは

「もうおしゃけ(酒)ないの〜?」
 ……あるかもしれない。


***     ***



 さて、続いてのお仕事は……。

「お前が、新入り戦闘員のジヴォート・ノスキーダだな。悪の組織の美学を教えてやるから、しっかりと働くのだぞ!」
「おうっ! じゃなくて、よろしくお願いします」
 今回の雇い主は悪の秘密結社オリュンポス。内容は戦闘員のアルバイト(時給780円〜。昇給あり、経験者優遇)である。ちなみに随時募集中らしいので、興味が沸いた方は問い合わせてみると良いかもしれない。

 雇い主であるドクター・ハデス(どくたー・はです)ジヴォートに仕事内容を教える。
「ククク、今回の任務は、デパートのヒーローショーでの悪役だ!
 やられ役の戦闘員。それはヒーローショーに無くてはならない存在だ!」
「おお!」
「おおではない。そこはキーっ! だ」
「キーっ!」
 ジヴォートも中々乗り気である。
「その意気だ! ではこの衣装に着替えてくるといい」
 そうしてジヴォートが去った後、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が顔を赤くしてハデスに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、兄さん! なんですか、この衣装はっ? こんな恥ずかしい格好できませんっ!」
 ムチとビキニアーマーを示しながら言う咲耶だが、上演時間が迫ってくる。
「う、けど、公演まで、もう時間がないですし、オリュンポスの資金が稼げないと困りますし」
 咲耶は悩みに悩んだ後、とぼとぼと簡易更衣室へと向かって行ったのだった。


「更衣室ってここか……やっと見つけた」
 ジヴォートは息を吐きだした。舞台袖にあったのだが、気づかずに通り過ぎていたらしい。
 そうして時間もないのでさっさと着替えようと簡易更衣室を開けた。
「…………」
 数分後、女幹部に土下座する下っ端がいたという話だが、真偽は定かではない。


「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! このデパートは、我らが占拠した!
 行け、咲耶、戦闘員どもよ!」
「(もうやるしかない)はっ! オリュンポスのために!」
 スキルを駆使してハデスが召喚し、突如現れる部下たちに観客が歓声を上げた。少しやけくそ気味な咲耶やノリの良い戦闘員たちを、ハデスは見事にまとめあげて指揮をしていく。

 デパートはこのままオリュンポスに乗っ取られてしまうのか!?

 ハデスや咲耶やジヴォートを始め、特戦隊が素晴らしい演技をする中、飛都は舞台袖にいた。

「何をしているんだ?」

 飛都は護衛として隠れて参加していた。そんな彼が怪しげな動きをしているものに気づいたのは先ほどのこと。
 大道具の1人が、舞台セットに何かをしていた。普通ならば修繕をしているのかと気にもかけないだろうが、飛都は気づいていた。男から漏れ出る微かな殺意を。近付いてよく見てみれば固定のための釘が外されて倒れやすくなっていた。
 動こうとした男にすぐさまその身を蝕む妄執を使って幻覚を見せる。そうしてが悪くなった男を支えるようにして武器を持つ手を押さえこむ。
「おい、どうかしたのか?」
「どうも気分が悪いらしい」
「おいおい、大丈夫かよ。医務室はあっちだぜ」
 飛都は声をかけてきたスタッフにそう答え、男を外へと連れ出す。そして他にも護衛している仲間を呼んで男を任せる。
「さて……イキモからの話ではもう少しかかるようだし、気を引き締めるか」
 そうして再び舞台に戻っていった。
 以後も仕事を体験させられそうになったらさりげなくさけ(自身もよく世間を知らないのでボロを出さないよう)ただその身を守るために。
「ジヴォードは放っておけないし、折角イキモが白黒付ける気になったんだから協力をしないとな」

 ちなみにショーは大成功だったようだ。悪役が『ホンモノっぽい』と人気だったそうな。


***     ***



 今回の仕事体験は、デパート以外にも用意されていた。
 外を歩いているジヴォート一行からやや後方を歩く2人組は相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)だ。

「作戦目標は暗殺者の排除、しかし制限はジヴォートの方には気づかれないようにか……まあ、制限戦闘はいい訓練となる」

 洋は小さく呟いてから相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)に連絡を取る。洋孝に上空からの索敵を命じていた。
「はいはい、りょーかい。上空からの索敵だねー。まあ、定番といえば定番だね……宅配業者でもやってみるかなー?」
 洋孝は宅配業者に扮して周囲を警戒している。
「みとは私とともにサイコキネシスで攻撃を妨害」
「……分かりましたわ」
 言い訳のようにも聞こえる言葉に、みとは
(素直にデートに誘うということはないのですね。分かっております。そういう人を好きになったのですから)
 内心でそんなことを思いつつ、
「どうせなら……こうしてみましょうか?」
 恋人同士に見えるよう、洋に抱きついてみる。洋はかすかに眉を動かしたがそれだけで、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)にジヴォートの盾となるように命じていた。

「了解しました。護衛役とはいうほど強くありませんが、全身全霊で事に当たらせていたて参ります。以上」

 一先ず役割分担を終えると
「そういえば……そろそろクリスマスか。またリア充撲滅家共が騒ぐだろうな」
 洋はそんなことを言いながら歩きだす。みとの手を振り払うことはない。
 一方、エリスはというと
「お久しぶりです、ジヴォート様。どうやら前回は少々過激でしたでしょうか? 以上」
「なっ? いや、あれはっその」
 と、前回の慌てっぷりをからかうかのように声をかけ、ジヴォートの顔を真っ赤にさせていた。

『……えーっと不審人物確認、人相風体の情報送るねー。なお、結構やばいもの見えたかもしれない。機晶爆弾みたい。自爆の可能性も否定できないよー』
 洋孝からそんな連絡が入る。

「今何か言ったか?」
「いいえ。それより、世間一般的にはこういうのもデートというのでしょうか? 前回は少しやりすぎたと思っております。お許しくださいませ。以上」
「お、おいっ?」
 エリスが上手く誤魔化してジヴォートの手を取り、敵とは別の方向へと足を向けさせる。
「少し時間もあるようです。周囲を散策しても構いませんでしょうか? 以上」

「来たか……みと、殺すなよ。理論上、お前の魔力なら殺せるんだから。特にサイコキネシス、その気になれば相手の首を締め付けたり、心臓麻痺させたりな」
「はぁ、無粋な……分かりました。殺さないようにしてみますね」
 洋孝からの知らせでは機晶爆弾も持っているそうなので、その点だけは注意しなければならないが。みとはすぐさま機晶爆弾を相手から奪い取る。

「……どうです? 12人の血の繋がっていない妹とのお突き合いは? 皆さん、あなたを愛して、愛ししすぎているがゆえに独り占めしたくて虎視眈々と命も狙ってますよ」
 そんな幻覚を見せて苦しむ姿を楽しんでいるようだ。
「暗殺者の諸君、国軍のものだ。邪魔するなら、事故死してもらおうか? 心臓麻痺に気道潰し、肝臓や脾臓損壊による内出血でもいいぞ」
 洋は洋で身動きをとれなくしたうえで銃口を突き付けてそんなことを言うのだから、この2人はいろんな意味でお似合いなのだろう。

「ジングルベール、ジングルベール、鈴がなーる。……未来じゃあ、ミサイルとレーザーの雨ばかりなのに平和な空だ」
 通信機の先から聞こえる悲鳴を意識からシャットアウトした洋孝は、歌いながら青い空を見上げていた。

 ちなみにその後、別れる際に
「いかがでしょうか……こういうのも。女性との適度のおつきあいも必要ですよ。以上」
「なっななな!」
 エリスがジヴォートの頬にキスをして、彼の顔を真っ赤にさせていた。

 そうか……もうすぐクリスマスかぁ。