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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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★第六話「話すことはたくさん」★


「……ええ、無事にこちらは終わりました。ですがまだもうしばし警戒をお願いします……はい。では」
 イキモは護衛者たちへ連絡をしてからその男に向き直った。今回の騒動の主犯格の男だ。
「さて、では……お願いします」
 アキュートが縛り付けられた男の前に立つ。
「俺も今じゃ年甲斐もなく学生なんかやっちゃいるけどよ。少し前までは、とある裏社会のジジイに雇われてたわけだ。
 まあ、落ち着いて聞けよ。
 そのジジイ、俺の元ボスってのが大した変態野郎でな。気に食わねえ奴を攫って来ちゃあ、えげつねえ拷問で苦しめて、それを見てよだれ垂らして息荒くしてたってんだから、相当なもんだ。
 俺にそーいう趣味はねえよ?
 只……、色々と覚えてはしまったわけだ」
 ごくり、と唾を飲み込む音がした。緊迫した空気の中、いつもと同じ顔のイキモがやたらと怖い。
「こっから先、目は必要ねえ。いやいや、えぐったりはしねえよ。目隠しで十分だ。
 さあ、始めるぜ。
 待ったは無え。ごめんも無え。俺かイキモが飽きるまで……だ」
「な、何をするつも」
 目隠しをされてようやく恐怖心を感じ始めた男に、しかしアキュートは何も言わない。

 さて突然であるが、触って当てるクイズをご存じだろうか。
 箱の中に入っている何かを触って当てるというもの……テレビでよくあるだろう。ひどくおびえる回答者のリアクションが面白い。
 え? なぜ突然そんな話をしたか?
 まあまあ、ご覧あれ。

「…………」
 そこで登場したのが、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)である。声を発さず、ただふよふよと男の周りを回る。
「な、なんだ? 生臭……ひぃっ今、何が触れ」
 はたから見ている分にはマンボーが回っているだけ(時折触れる)の平和? な光景だが、見えない男からすると恐怖になる。
 次は触れるか触れぬかの直近を飛び、羽根でくすぐり始めるウーマ。全てアキュートの指示通り。
「っ!」
 ルカルカと加夜が明後日の方向を向いて口もとを必死に押さえている。たしかにこれは『周りの方が』危ない。主に笑ってはいけない的な意味で。
 拷問(笑)はまだ続く。
 鱗でその肌をこすっていく。視界を閉ざされて鋭敏になった状態では激痛らしく、痛みに男が顔をしかめて悲鳴をあげている……が実際は無駄毛が取れて綺麗になっていた。
 新しい脱毛法、ここに爆誕!?
 そんな――主に腹筋に負荷がかかる拷問はもうしばらく続いたのだった。

「家宅捜索の手配は済ませてある。これから余罪が暴かれるだろう……それで提案だが、衰弱化した奴らの会社を2,3吸い取ってジヴォートに任せてみてはどうだ? 社会勉強をさせたいのだろ?」
 何事もなかったかのように、ダリルがそんな提案をする。イキモはどこかすっきりした顔で「そうですねぇ」と考え込む。
「今回は社会勉強もそうですが、同年代の人たちと一緒に過ごして欲しかったというのが大きいのですが……まあ、本人のやる気次第ですね」


***     ***



「一通りアルバイト体験は終わったかしら?」
 藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の言葉に、ジヴォートが首を縦に振る。

「じゃあ今度はあたしが、大企業の実態と労働者の権利について教えてあげるわ」

 両側で結われた金の髪を揺らしつつ、エリスは説明していく。
「大企業の取引先の中小企業では常に、一方的な下請け代金の切り下げや無茶な納期要求なんかに苦しめられているのよ。
 これから幾つかの町工場に案内してあげるから、そこの社長から大商人との取引の実態についてよく話を聞いておきなさい。
 企業社会の裏側に隠された真実を学ぶのよ」
「裏側の真実……」
 真剣な表情で聞き入るジヴォートに、エリスは静かに頷く。
「そしたら次に労働者の権利について教えてあげるわ。労働組合は知ってるかしら?」
「ああ」
 授業は進んでいく。労働者の権利や実情。心の底に感じている不満。そういったことを、町工場に足を運んだり集会やデモに参加して直接学ぶ。
 ただ聞くだけだったジヴォートの顔が、段々と変わっていく。何かを考えようとしているような、そんな顔に。

「あんたも将来は大企業を継ぐんなら、適切な労使関係を築けるような経営者にならなきゃだめよ!」
「……ああ、そう……だな」
 最後をそう締めくくったエリスの言葉に、ジヴォートは確かに何かを感じ取っていた。


***     ***



「最後にハウスキーパーとしてのお仕事をしましょう! 今日の依頼人は……」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がそう言ってジヴォートを連れてきたのは

「イキモ・ノスキーダ様、商人の家系だそうですよ」
「……え、いや、えっと?」
 そう。イキモの屋敷……つまりはジヴォートの家だ。もちろん偶然ではなく、詩穂が仕組んだものだ。
「ハウスキーパーというと分かりづらいかもしれませんね。メイドさんやバトラーさんと言えば分かりやすいでしょうか」
 戸惑っているジヴォートに説明する詩穂。もちろんわざとだ。
 そのまま掃除を始める。掃除自体は今回のバイト体験で学んだが、デパートの掃除と屋敷の掃除はまた少し異なる。
 調度品や絨毯の掃除の仕方などを教えていく。
「旦那様、あの件ですがどうも交渉が難航しているようです」
「ああ、あの方は中々厄介ですね。分かりました。私が行きましょう」
 そんな声にジヴォートが大きく反応した。声の先ではイキモが部下と何か会話をしていて、忙しそうに玄関ホールへと向かっていた。
 そう言えば『仕事をしている父』の姿を見るのは初めてだなと、ジヴォートはどこか遠い世界のようにその背中を見送る。
 詩穂の狙いの一つでもあった。
(働いている姿を見て、何か感じ取ってくれたらいいなぁ)
「ご奉仕の心は人に仕えるということです、清掃することで自分の心も綺麗に磨き上げるのです♪」
「自分の心も?」
「ええ」
「そっか。だから綺麗にすると気持ちいいのか」
 そうして次々に掃除をしていったのだが、さすがに疲れたらしくジヴォートは終わると同時に倒れ込むように眠ってしまった。
 疲れを癒せるように、父子がお食事できるようにと『晩餐の準備&メイド向け高級ティーセット』を用意し、さらにベッドの横にはジヴォートが手に入れたデパートの戦利品と掃除のさなかに見つけた古く小さな箱――7歳の誕生日おめでとう、というメッセージカード付き――をそっと置く。

 きっと積もる話があるだろう。この2日間のこともそうだが、いろいろと話さなければならないことがきっとたくさん。

 その日の夜。
 様々な出来事を報告する子と、それを笑顔で聞く父の姿がそこにはあったという。

担当マスターより

▼担当マスター

舞傘 真紅染

▼マスターコメント

 なんだか最後、ホームドラマのようになっている気が……いや、何はともあれ。無事で何より。
 みなさんどうやって護衛するのかなぁ、どんな仕事を頼むのかなぁ、他にもどんな行動がくるかなぁ、とわくわくドキドキしてましたが、なるほどそう来るか! ぶはっ! というものまで多種多様でとても楽しかったです。
 
 とにもかくにも、皆さまが少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
 ではご参加いただき、ありがとうございました。