天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

祭とライブと森の守り手

リアクション公開中!

祭とライブと森の守り手

リアクション


野盗捕縛作戦1

「うぅ……こんなかよわい女の子を見ていきなり逃げ出すなんて……」
 森の中。野盗を追いかけながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそう漏らす。移動にはパートナーであるカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の飛行魔法を使っており音はない。
「囮作戦は失敗か。こりゃ街道作りに参加していた契約者は全員把握されてる可能性もあるな」
 ルカルカのぼやきにカルキノスはそう返す。ルカルカは武器を隠していたし、野盗がこちらを確認していきなり逃げ出すのは妙な話だ。作戦開始前にあらたにもたらされた情報も加味すれば野盗側にある程度こちらの情報が漏れてる可能性が高いだろう。
「もしかしたら敵が待ちぶせてる場所に誘導されてる可能性もある。その前にとっ捕まえるぞ」
 カルキノスの提案に頷きルカルカは速度を上げる。その結果、少し開けた場所で野盗の行く手を阻むことが出来た。野盗の数は5人。全員野盗の割にいい装備をしていた。
「ルカ! 一気に決めるぞ!」
 カルキノスの声。素早く臨戦態勢をとった野盗達を相手にカルキノスはショックウェーブを、ルカルカは魔剣で野盗達を素早く斬りつける。
「って……あまりの怒りにやりすぎちゃった?」
 祭でチョコバナナを楽しみにしていたルカルカとしては少なからず野盗に私怨があるし、カルキノスにしたって同様だ。それに何よりこの二ルミナス街道を名付けた立場としては野盗達の存在は許せなかった。
「お、生きてんじゃねぇか。ただの野盗のくせしてしぶといな」
 そう変な感心をしながらカルキノスは逮捕術を使って野盗たちを捕縛、動けないようにしていく。
「……殺すなら殺せ!」
 縛られ動けなくなった野盗達の一人がルカルカとカルキノスにそう叫ぶ。
「威勢がいいじゃねぇか。だがその前にこっちの質問に答えてもらおうか。……なんでてめぇらわざわざ祭にぶつけてきたんだ? こっちの存在を知ってて」
 このタイミングでこちらの存在を知っていて行動を起こしたのは妙だ。契約者でないものにとって契約者というのはそう簡単に敵に回そうとする存在ではない。
「……まるで、ルカ達をおびき出したような感じがするんだよね」
「…………」
 カルキノスの質問にもルカルカの仮説にも野盗たちは答えようとしない。5人が皆口を閉ざす。
「なあ、ルカ。一人くらい喰ってもいいよな? 森で行方不明ってのはよくある話だろ」
「そだね。素直に白状しなかったら、一番強情なのが行方不明になるのかな?」
 そう言って大きな口を開けて人が恐怖するような笑みを浮かべるカルキノス。その笑みにはそれがただの脅しには感じられないほどの凄みがあった。
 沈黙の中。カルキノスはゆっくりと野盗たちに近づいていく。その重さに堪えられなかったのか一人の野盗が口を開く。
「そ、そうだよ。俺たちの今回の目的はお前ら契約者の排除だ」
「ルカたちを? なんで?」
「こ、これ以上は何も答えないぞ!」
「だって、カルキ。どうする?」
「やりすぎても面倒だしとりあえずは十分だろう。とりあえずこいつらを森の入口まで運ぼうぜ」
 野盗とはいえ拷問に近い質問の仕方はできない。ひとまずの野盗たちの目的をつかめただけでも十分だろう。
「とりあえず情報送ろうか」
 そうしてルカルカは誰かとテレパシーをつなぎ情報を送った。


「エース、向こうは何を伝えてきたの?」
 誰かからのテレパシーを受けて情報を受け取った様子のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はそう聞く。
「ルカたちから情報があったそうだ。今回の野盗達の不自然な動きは俺たちを狙った動きらしい」
「やっぱり……でも、それが野盗達の最終的な目的じゃないわね」
「ああ。おそらく俺たちが野盗達の目的の中で邪魔になると判断したんだろう。わざわざこうして俺たちをおびき出すということは森、もしくは村で大々的に行動移す算段があるんだろう」
 そうエースは推測し、リリアはそれに頷く。
「森を、植物や動物たちを守るためにも頑張らないといけないわね」
 このまま野盗を放置すれば人だけの問題ではなくなるだろうとリリアは考える。
「ああ。そのためにももう少し情報を集めないとね…………いた」
 村長にもらっていた地図を参考にしてホークアイを使いながら、野盗を探していたエースは野盗達の姿を見つける。
「……大丈夫。隠れている野盗とかはいないみたい」
 人の心,草の心を使い伏兵などがいないことをリリアは確認してエースに伝える。その言葉を受けてエースは気配を消して野盗たちに近づいていった。
「しっかし、あれはすげぇな! お頭も流石だぜ」
 すぐ近くまで近づいたエースたちに野盗達が話している様子が聞こえる。
「ああ、たしかにあれはすげぇ。あれがもっと見つかれば俺らはもっと大きくなるぜ」
「おい! おまえらその話はあんまりするな。誰かに聞かれたら……うっ……」
 と、話していた野盗たちがいきなり静かになり倒れる。
「ふむ……野盗たちは何かを探してるようだね」
 エースによるヒプノスだ。
「思ったよりもうまくいったわね。でも野盗たちは何を探しているのかしら」
「この森で特別なものといえば薬草しか思い浮かばないが……だとしたらわざわざ俺たち挑発する意味が分からないな」
 薬草を手に入れるだけなら動物たちの領域に生えているものを採取でもすればいい。
「とりあえず、情報を向こうに送るよ。後はこの野盗達を当局に身柄を引き取ってもらおうか」
 そうしてエースは眠っている野盗達の隣から誰かに情報を送った。


「村長からの情報通りでありますな」
 村長からもらった情報で潜伏場所と思われる場所を潰すようにして探していた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、早速野盗達の姿を見つけてそう言う。
「6、7……8人か。近くにゴブリンたちもいるみたいね。あんまり彼らを巻き込みたくないんだけど」
 野盗の数を確認してコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はそう言う。
「奇襲作戦で一気に決めるのが吉でありますな……準備はいいでありますか」
「それがしは祭の方に参加したかったのだが……」
 と上田 重安(うえだ・しげやす)のボヤキの声。
「早く終わらせたら祭の方も参加できるわよ。明日までなんでしょ?」
 と、コルセアは重安にフォロー。
「それでは、行くであります」
 吹雪はそう言って野盗達の頭上からグラビティコントトロールを仕掛ける。その混乱に乗じて三人は捕縛に動き出した。
 吹雪は鳩尾を狙いそこを強打する。正確に打ち込まれたそれにより野盗の一人はたまらず倒れこむ。同じ要領で吹雪は流れるようにして更に二人鳩尾を強打した。
「あんまり動かないでよ」
 そう言ってコルセアは野盗を縄で縛っていく。速さこそ吹雪のそれではないが確実に一人一人無力化させていく。
「はいはい……動かないでくださいよ。切られたくなかったらね」
 重安は二人を地面に倒し二刀に構えたナタで動きを制する。
「コルセア殿、そちらが終わったらこの二人もお願いします」
 と重安はちょうど3人めを捕縛し終えたコルセアにそう言う。
「っ! 吹雪殿、後ろだ!」
 重安の突然の叫び。見ると吹雪に鳩尾を強打され倒された野盗の一人が立ち上がり後ろから吹雪を襲いかかろうとしていた。
「残念、遅いでありますよ」
 と、今度こそ鳩尾の強打に耐え切れず野盗は倒れる。
「吹雪、あなた少し油断しすぎよ」
 と、コルセアの注意の声。
「全力で鳩尾の強打をしたのでありますが……まさか起き上がるとは思わなかったのであります」
「それは……やりすぎというか……」
「吹雪殿を注意するより野盗を褒めたほうが正解かもしれませんね」
 コルセアも重安もよく死ななかったものだと思う。
「しかし、このしぶとさには覚えがあるのであります」
 吹雪の言葉に重安が頷く。
「少し聞いてみましょうか」
 そう言ってコルセアは丁寧に野盗達から情報を引き出していく。
「やっぱり、この野盗たち、この森の薬草を服用してるみたい」
 既に想像がつかれていることだからか野盗達の情報を引き出すことは早く終る。
「ふむ……この様子だと野盗達全員に薬草が服用されているようですが、だとすれば何が目的でこの森にまだいるのでしょうね」
「まさか、この森に生えてる薬草を採取して売りに出すつもりとかかしら」
 重安の質問にそうコルセアは返し、自分で首を振る。そんなことをするくらいなら野盗は人を襲うだろう。
「とりあえず情報の伝達を行うであります」
 そう言って吹雪はテレパシーを使い誰かに情報を伝えた。


「うさ〜♪ 男は、皆おおかみうさ〜?」
 宵闇の中、祭の喧騒を遠くに聞きながらごきげんそうに歌うティー・ティー(てぃー・てぃー)
「……にゃ、にゃ〜?」
 目の前のオオカミのミミを触ろうと手を伸ばすイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)
「…………」
 そしてそんな二人の様子や自分がオオカミミミ(狼の耳の形をした複合集音器)をつけていることに対する感情をなんとか無心で乗り越えようとしている源 鉄心(みなもと・てっしん)
「何事もなかったら、お祭り楽しんでたはずなので鉄心、これくらいはやってくれても良いと思いますうさ」
 実際自分がオオカミミミをつけてる理由もそれなので鉄心はティーの言葉を無心でスルー。
「むにゃ……野盗さんの今夜の運勢は……ほ、北東の鬼門ですの!?」
 オオカミミミの吸引力から離れたと思ったら早速寝ぼけた発言をしているイコナの発言もやっぱりスルー。
「……静かに。どうやら来たようだ」
 ただただ自分の任務を心にしていた鉄心は野盗達の気配を察知し、警戒を促す。
「ついて行くよ」
 妖精の領土を使うティーに先導してもらい、寝ぼけ気味のイコナを連れて鉄心は野盗達を追いかける。この時間帯になればおそらく野盗たちはアジトのようなところに向かうと思っての張込みだった。
「ここか……イコナ、罠があるか確認してくれるか?」
 アジトについた鉄心はイコナにそう頼む。
「んーと……これで大丈夫ですわ……むにゃ……」
「最後に寝ぼけたのが不安だが……ティー、イコナ、一気に踏み込むぞ」
 そう言った鉄心にティーとイコナは頷く。
「抵抗はやめろ!」
 アジト(といっても森の空き地)に飛び込んだ鉄心はホールドアップをするように銃を構えて野盗たちに対峙する。鮮やかな襲撃に思わずといった形で野盗達の何人かが手を上げ降参の合図をする。
「楽しいお祭りに、水をさしたお仕置きです……うさ〜!」
 襲撃にすぐ臨戦態勢をとった野盗達をティーは百獣拳を使い無力化させていく。
「捕まったら、一晩中うさみみをひこひこさせられる刑……これはじみにきつい拷問ですの! べ、弁護士を呼んでくださいまし!」
 寝ぼけている訳の分からない状態になっているイコナを鉄心は銃の牽制でフォロー。
 そんな感じで鉄心たちは野盗達のアジトを制圧した。

「さて……ある程度ネタは上がっているんだ。素直に話してくれないかな」
 アジトは制圧したが10人程度しか捕縛することは出来なかった。ボスと呼ばれる存在もいない。
 鉄心は他の協力者たちと共有している情報を並べ野盗に答えるように促す。
「自分たちだけ捕まっているというのは不公平だろう? これだけ情報が漏れているんだ。別に君一人が洗いざらい話したって誰も責めはしない」
 そう甘言を繰り鉄心は野盗の一人を説得にかかる。一部の野盗たちが真面目な顔をしてオオカミミミをつけている鉄心を笑っているのがきになるが万感の思いを秘めてスルー。
「……ちっ。なんだかバカらしくなっちまった」
 どうして野盗が馬鹿らしくなったか鉄心には決して分からない(分かりたくない)が野盗が漏らした情報はこういうものだった。

1:野盗達の最終目的はゴブリンキングやコボルトロードを生んだ薬草の中でも特別なものということ
2:その特別な薬草は森の奥にあり、モンスターたちが邪魔で、それを排除しようと思っていたこと
3:そのためにゴブリンとコボルト達を無闇に傷つけ争いを激化させようとしていたこと
4:その計画を村や契約者たちの邪魔をされ、先に契約者たちをどうにかしなければならなくなったこと

 そういったことを野盗は淡々と語っていった。
「なるほど……ゴブリンキングやコボルトロードを生んだ薬草か。あの大きな個体にはなにか理由があるとは思っていたが……」
 はぁとため息ついて鉄心はそう言う。
「しかし、キミたちは思った以上に悪党だな」
 自分が想定していた上だと鉄心は思う。
「……いや、それは今語ることでもないか」
 野盗と軍人である自分では前提が違いすぎる。
「ただ、俺たちはキミたちのこの森のモンスターたちを排除するという考えを許す訳にはいかない」
 その鉄心の言葉にティーも、寝ぼけていたはずのイコナも強く頷く。
「……情報感謝する」
 社交辞令にそう言って野盗達から離れ、鉄心はテレパシーで誰かに情報を送る。
「特別な薬草か……モンスターたちを刺激しないようにというのは手間だが、探してみるか」
 野盗たちの方は目的はもちろん、規模の方もだいたいを聴きだした。その情報が今頃は他の協力者たちに次々に伝えられているだろう。
 鉄心はティーとイコナを連れて森の奥へと向かっていった