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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:座学

 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)は教室を見回した。
 優里と風里が熱心に調合をしている。
「風里、熱心なのは良いことだが調合量が間違っているぞ」
「……大丈夫だ。問題ない」
「問題あるから忠告しているんだろうが!」
 やれやれ、と武崎はかぶりを振った。
 彼は二人に錬金術の講義をしていたのだが、予想以上に風里の作業が遅く、しかも間違いも多く、講義が停滞してしまっていた。
「本当なら魔法生物の特徴を教え終ってるはずだったんだがなあ」
「私、魔法の才能はない気がするけど錬金術の才能はある気がするのよね」
「あってたまるか!!」
 ちらりと優里の方に視線を送る。
 そこには効能を強めた飲み薬など、初級錬金術の成果がちらほらと見受けられた。
「姉弟でこんなにも質が違うものなのか」
「僕はこういうちまちま進める作業好きなんですよ。お菓子作りとかもしますし」
「いつも不味いケーキをありがとう」
「どういたしまして」
 楽しそうに作業を進める優里に武崎は聞いた。
「錬金術が楽しいならイルミンスールに編入しないのか?」
「僕は錬金術だけがやりたいわけじゃないですから。しばらくはこっちでお世話になろうと思ってるんですよ。何年後か先の話だとどうなってるかわからないですけど」
「フラれてるわ」
「おまえは一つくらいまともに調合してから口を開けっ!」
 はぁ、と武崎はため息を吐いた。
「普段は俺ももう少し大人しいんだがなあ……こいつと話してると沸点が下がる」
「フウリは変わってますからね」
「私、こいつと気が合わないわ。話していてつまらないもの」
「笑顔で言われても反応に困るな」
「気に入られてるってことなんですけどね」
 
 朝も早い校舎の中を駆ける女性の姿がある。
「――がするっていうから協力頼むぜ」
「ああ、わかった。こちらとしてはそういったイベントは大歓迎だ」
 話を終えるとまた他の人に声をかけて行く。



 夕方の校舎、教室で優里たちはルーノという名前の魔女から紅茶の淹れ方を学んでいた。執事のようなことをする冒険者もいるということで、様々な技術に精通するべきである、という理由からの受講である。
「――だから水温の変化が生まれても良いかどうか判断するんだぞー」
「紅茶って奥が深いんですね」
「珈琲も奥が深いぞー。豆なんてブレンドで香りも味もぜんぶ違っちゃうからな」
「私は抹茶が嫌いよ。……ああ、お茶が怖いわ」
「古典的だね」
 そんな会話をしていた時である。
 突如、校内放送が流れた。
『学園内に凶悪な指名手配犯が侵入したという情報が入りました。全生徒、全職員は戦闘行為を避け、速やかに避難してください。くりかえします――』
「指名手配犯っ!?」
「……ふむ」
 驚く優里にルーノが声をかけた。
「詮索はあとまわしにしてさっさとかえるぞー!」
 二人を引き連れて廊下に出ると黒のインナースーツに身を包んだ男と、ライダースジャケットを着て刀を携えている男がゆっくりと近づいてきていた。
「挟まれたっ!」
 優里は焦る、が二人から発せられる圧迫感に思考と身体が動かない。
 視界の中、何事かを叫んでいるルーノが男に斬られる姿が見えた。
 血飛沫が舞い、ボールのようにこちらに飛んでくる。
「優里!」
 風里の呼び声にハッとして優里はルーノを受け止めた。
 傷口は見えない、だが服の内側から血が止めどなく流れている。
(こ、こういうときは止血を……血液足りないとショック症状が……)
 学んだ知識で何とかしようとするがこんな大怪我の対処なんて知るはずもない。
「優里、コイツは強すぎるわ。この子を助けたいなら後ろのをどうにかしないと無理よ」
 風里の言葉に無言で頷く。
 彼女は笑みを浮かべると続けた。
「こっちは私が時間稼いでるから安心しなさいよ」
 パンッ! と背中を叩く。
 促されるように優里は素手の男に向かって駆け出した。
 風里はゆっくりと近づいていくる刀の男に対峙すると口を開いた。
「――せっかくだから『加減』はしないわ」
「――来い」
 その言葉を皮切りに、風里の腕が変な音を鳴らしながら、人ではありえない速度で、男の腹部目掛けて伸びた。

「えいやぁっ!」
 男は優里の素手による攻撃を合わせるように防ぐ。
 相手は何も持っていない。優里と同じく無手である。
(早く終えないとあの子が……)
 焦りは動きを大振りにする。
 だが相手は隙だらけのはずの優里に直撃をいれることはない。
「あの子を助けたい?」
「当然だっ!!」
 男の問い掛けに即答する。
 踏込み、重い一撃を腹部目掛けて放つ。
 これ以上ないほど綺麗に入った、が男にダメージは見受けられない。
(力の差が違いすぎるっ!?)
 愕然とし、だがそれでも立ち向かおうとする優理に男は言った。
「君たちには僕のこの左腕のようにはなってほしくなくてね。試させてもらったんだ。少し強くなったからと油断して、自分で左腕を切り落とさないといけないような、そんな事態が起きないようにね」
「……あの子は無事なの?」
「演技だよ。血糊の出来もリアルだ。それとあっちもすぐに終わると思う……」

「この無茶な攻撃は……強化人間か」
「私、試されるのは好きだけど試すのは嫌いなのよ」
「ふっ、面白い新入生だ」
 骨の動きや筋肉の動きを無視した風里の一撃は男の手にしている刀の柄で防がれた。
 腕はだらりと垂れ下がり、指はまがってはいけない方向に曲がり、至る所に青あざが出来ていた。見ただけでも脱臼、骨折、内出血と治療が必要なのが分かるほどの損傷だ。
「これだけの犠牲を払ったのにあたらないなんて……ここは変なのしかいないわ」
「風は気付いてたみたいだな。これが模擬戦闘だと」
「最初の日にいなかった人が講師しているんだもの。そんなときにあの放送よ。なにかあると考えるべきじゃない?」
「弟の方は気付いてなかったみたいだがな」
「優里は素直だから」
「今日あったばかりの子のためにああまで意地になれるなら素質はあるだろうな」
 ああ、言ってなかったなというと彼は告げた。
「俺の名前は桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だ。協力してくれたあっちの男はハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)という。冒険者として生きていくならまた会う機会もあるだろう。よろしくな」
「私は東雲 風里よ。あっちは東雲 優里。よろしく。次は一撃当てるわ」
「楽しみにしてる」
 こうして熟練冒険者たちに揉まれて冒険者としての自覚を得た二人は無事、パラミタ大陸での生活を送ることになったのでした。


 武崎のパートナー、蘇 妲己(そ・だっき)の講義が始まると形勢は変わった。
「おいおい、血管が浮き出てるぞ」
 にやにやと武崎は笑いながら風里に言った。
 対して風里はやけに冷たい視線を前方に向けている。
 そこには妲己に身体を預けて倒れている優里の姿があった。
 首筋を扇で叩かれて赤くなっているものの、その顔は緩んでいる。
「首……」
「首がどうした?」
「千切ってやろうかしら」
「そ、それは違和感のある言葉の使い方だな」
 彼女たちの見ている場で、優里は徒手空拳による接近戦をする。
「その程度じゃ私には触れないわよ」
「やってみなくちゃわからないですよ!」
 妲己の手にした扇が燃える。火術の応用だろう。
 突きをしてきた優里の腕を絡め取り、押さえ、背中や腕、首などを打つ。
 そのたびに優里の身体に彼女の胸が当たり。
「〜〜〜っ!!」
 彼は赤面した。
 その光景を見るたびに風里の眉がピクッと動く。
「優里も男だったってことだな。そう怒ることもないだろう?」
「それなら女にしてやるわ」
「……おまえ性格変わりすぎだろう」
「ふっ、女は常に二つの顔を持っているものよ。怖い生き物だわ」
 訓練が終わったあと、妲己の放った一言に風里がしばらく落ち込むことになる。

「あの子じゃこういうことできないわよね」
 そう言いながら彼女は胸を強調させたのだ。
 風里もまた女の子であった。