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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■パラミタの歴史

「冒険者でも政治情勢を知らなければ危険だ。たとえば依頼で雇われた相手が過激派やテロリストだったら、正規軍や他の契約者達に討伐されて命を落とすかも知れない。国の情勢には詳しくなっておけということだな」
 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)は黒板に書かれた文字を書き写している二人を見ながら続ける。
「シャンバラ王国が統一国家として復興したとはいえ、東西格差や6首長勢力など不安定要素は多く、未だに辺境貴族や豪族の横暴で争いが局地的に起こり、リブロが統治している連合も例外ではない」
 カッ、カッカッ、と黒板に特に重要な部分だけを書いていく。
 シャンバラ王国政府やヴュルテンベルク連邦共和帝国、地方の諸勢力に関する記述を消して、今度は現在活動している危険な集団・組織を書き連ねていく。
「鏖殺寺院や諸派など反王国勢力が未だに存在し、無法な空賊や盗賊が幅を利かせているのは許しき事態である。そのため、無闇に依頼を請け負うと気付かない内に冒険者ではなくテロリストになってしまう事がある」
「普通に考えたらわかりますよね?」
 優里の質問にリブロは笑みを浮かべると言った。
「そうでもないぞ。物を運ぶ仕事を請け負ったらテロリストご用達のお品でした、などということもある。片棒を担ぐという状態だな。爆弾なんて運んだ日には実行犯だ」
「依頼主に会わないのがベストね」
「会わないと危ないってことかあ」
 リブロは頷いた。
「だがこういった事態を完璧に防ぐのは難しいだろう。信頼していた政治関係者が反乱を起こして……などという可能性もあるのだからな。まあそういったことが起きた際に対処できるよう、統治者や名士などのパトロンを得ると色々と特典がある。かなり大事なことだから覚えておくといい」
 さて、と言葉を区切るとリブロは二人に言った。
「こういった話には技術なんかも深く関わる。技術=利権だからな。このあとはイコンの講義もあるようだし、しっかり学んでくるといい。イコンには開発競争があるから意外な話が聞けるかもしれないぞ」
「わかりました」
 リブロが教室を出ると入れ替わるように一人の女性が入ってきた。
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)だ。
 彼女は教室の入り口で二人を呼んだ。
「せっかくだから実物を見ながら講義をしましょう」

 イーリャが二人を連れてきたのはイコンの格納庫だ。
 何やらひとつ、やけに不格好な機械が置いてある。どの形式にも当てはまらないイコンのようだ。そこで二人ほど作業していた。
「まずは……はじめまして、東雲さん。パラミタへようこそ。ふふっ、もういろんな人から言われているかしら?」
「ええ、初日に筋肉質の良い奴からね」
 ふふ、とイーリャは笑みを浮かべる。
 大人の余裕みたいな感じだ。教師みたいな印象を受ける。
「私はイーリャ・アカーシ。普段は天御柱学院の普通科でイコン工学理論……
 そう。あの巨大ロボット、代理の聖像(サロゲート・エイコーン)の開発や整備方法を教えているわ」
 彼女の視線の先には人型のロボットが鎮座していた。
 右腕に長い砲塔を備えている。両肩には三角錐の突起物が生えており、肩は円盤状だ。全体的に丸いデザインである。
「この機体は第2世代機のプラヴァーね。これに関しての講義をしたいところだけど、今日はもっと基礎的なところ……機晶工学の基礎的な部分からやりましょうか。どの道、イコンの操縦訓練は受けると思うけど、天御柱学院以外だと『イコンがどういうもので、どういう理屈で動いているのか』っていうところはさらっと流しちゃうからね」
 真剣な眼差しで二人を見つめると続ける。
「けど、これは忘れちゃいけない大事な事よ。便利だから、たまたま動いたからって、わからないものをわからないまま使い続けるのは、凄く危険な事なの。特にパラミタには忘れられた古代の遺産もいっぱいあるから……そういうのを見かけたら、少しでも作った人のこと、作られた理由を考えてみて。それだけで防げる事故、悲劇もいっぱいあったのだから……」
 思うところがあるのだろう。
 その言葉はどことなく重い。
「わかりました。先生の言ったこと覚えておきます」
「ありがとう……もう、こんな時間ね。もしイコンのこと、本格的に学びたいなら天御柱学院にいらっしゃい」
 風里を見て続ける。
「私の娘も強化人間なのよ。来た時は会わせてあげたいわ」
「喜んで遊びに行くわ」
「学びに来なさいって先生言ってるのに……」
 イーリャが格納庫から出ていくと、残されたのは優里と風里、そしてなにやらさきほどから作業している二人組だけとなった。そのうちの一人が優里たちに近づいてくると口を開いた。
「話は聞いたよ」
「聞かせてもらったわい」
 ふふ、と笑みを浮かべると後ろに組み立てられた人型っぽい何かを見せる。
「君たちみたいな人にイコンの内部構造を知ってもらおうと思って、廃棄物置き場の残骸からイコンを組みたててみました」
 そう告げる彼女、笠置 生駒(かさぎ・いこま)の顔はとても誇らしげだ。
 彼女に案内されるまま操縦席などを見せてもらう。
「思ったより広いね?」
「生命維持優先で広めに空間用意したからね」
「これだけ大きいものの整備ってどうするんですか?」
「そうだね。基本的には――」
 話を進める笠置の様子を見ながら、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)がそわそわと落ち着きないそぶりを見せる。それが気になったのだろう。風里は声をかけた。
「何か気にならないことでもあるのかしら?」
「生駒が余計なことせんかと心配でな」
 説明を終えて基本的なことを教え終ると今度は笠置がそわそわと落ち着きのない様子を見せる。そしてしばらくして――
「ついでにイコンの改造の仕方も……」
「頼むから余計なことはせんでくれ!!」
 言い終える前にジョージが叫び、笠置を引っ張って格納庫を出ようとする。
「ってなんで邪魔するのっ!?」
「ろくでもないことが起きそうだからじゃ!」
 二人の喧騒はしばらく止むことはなかった。
 その間、優里たちはイコンを飽きるまで見て回っていた。